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幻の漫画少年 全リスト

文・相澤亮一

「漫画少年」と私(5)
前回に引き続き、もう少し脇道へそれることにする。
「漫画少年」は戦前の「少年倶楽部」や「講談社の絵本」の名編集長加藤謙一氏により、昭和22年12月に創刊された。
加藤氏が雑誌の出版を始めたとなると、かつての講談社時代の作家や挿絵画家・漫画家達が、相次いで寄稿を引き受けてくれた。
それ故「漫画少年」の初期には吉川英治、佐藤紅緑、池田宣政(南洋一郎)といった作家達、高畠華宵、樺島勝一、梁川剛一、斉藤五百枝らの挿絵作家、田河水泡、島田啓三、井上一雄、原一司、山川惣治、倉金章介、石田英助、長谷川町子らの漫画家達が寄稿している。
戦前の「少年倶楽部」におなじみの顔ばかりで「少倶」の流れを踏んでいるものと分かる雑誌であった。
創刊号から休刊まで、寄稿家はざっと二百数十名を越えている。その中で、想い出のある漫画家とその主な作品を、戦後を中心にあげてみる。

「バット君」の井上一雄
「漫画少年」と言えば、まず想い出すのは長編連載漫画「バット君」である。単行本は昭和23年学童社から発行された。
昭和21年に復活したプロ野球は、赤バットの川上や青バットの大下などが活躍していて、日本全国大人気だった。
バット君は川上選手から貰った赤バットで大ホームランを、少年達は大下選手の青バットをまねて、青い竹バットでホームランをかっとばした。
バット君も当時の少年達も丸坊主であり、お互いに友達のような親近感を持てた。床屋でも家でもバリカンで頭を刈って貰い、当時、長髪はあまり見かけなかった。バット君とは戦後の貧しさを分かちあうことができたのである。
井上一雄の作品として、
「少年ホームラン王」昭和23年 みどり社/「愉快小僧」昭和18年 三光社、昭和24年 鶴書房/「ちんぴら探偵団」昭和23年 妙義出版社などがある。

「だんご仙人」の島田啓三
島田啓三は「冒険ダン吉」の作者としてあまりにも有名であり、戦前、戦後を通じて大活躍した。
「漫画少年」には「原子のゲン吉」「だんご仙人」「プラスとマイナス」などを連載し、大変喜ばれた。
啓三の漫画は一種独特のユーモアが醸し出されており、手塚漫画の出現までは「のらくろ」と共に人をひきつける漫画の味を持っていた。
「きばつ三勇士」昭和23年 みどり社の中で、それまでの日本の漫画のあり方(位置づけ)、概念について次のように述べている。

学校の教科書が三度いただく御飯としたら漫画の本はおやつにいただくおいしいお菓子と考えてよいでしょう。
しかし今は、わるい漫画の本もかなりたくさん出ていますから、お菓子にたとえてもこんなお菓子はかえって毒になります。
この「きばつ三勇士」は、この点も十分に考えて書いたので、見ていただければ、かえって栄養になり、また明るくほがらかにもなる。
それは上等の薬のようなお菓子にたとえてもよいでしょう。

島田啓三の他の作品として
「半ちゃん捕物帖」昭和23年 土曜書房/「ゴロニイ先生」昭和26年 鶴書房/「カリ公の冒険」昭和26年 講談社/「ネコ七先生」昭和23年から昭和24年 鶴書房/「出世日吉丸」昭和24年 再建社 昭和29年 鶴書房/「あっぱれ日吉丸」昭和26年 太平洋文庫/「コロコロ探検隊」昭和24年 太平洋文庫/「ごくらく探偵局」昭和25年 東京漫画出版社/「子供極楽島」昭和26年 鶴書房/「謎の黒人形」昭和23年 鈴木仁成堂/「おた子さん」昭和24年 再建社/「冒険ダン吉」百萬ドルのハーモニカ、猛獣境探検、ジャングルの王者知恵くらべ珍発明、愉快な文化島、「象群珍活躍」などがある。

「ジャングル大帝」の手塚治虫
「漫画少年」に「ジャングル大帝」の連載が始まったのは、昭和25年11月号からである。
それまでに手塚漫画はかなり読んでいたが、予告なしの連載に、手離しで喜んだ。
ディズニー以上に美しく描かれた絵、手書きのふき出しの言葉、動物のライオン、レオを主人公にスケールの大きな漫画、長編漫画物語、大河漫画というべきか?
いや、ストーリー漫画が正解だ。
それまでの漫画の概念を変えなければならなかった。
「ジャングル大帝」の虜になり、漫画から足を洗うことができなくなった。
私の宝物に、手塚先生からのファンレターの返事がある。学童社版「ジャングル大帝」の一集と二集の発売前にいただいたものである。
また、昭和27年4月号から連載の始まった「漫画教室」で、漫画の書き方をしっかりと学ぶことができた。手塚漫画塾で、毎月、講義を受けている気分であった。投稿していた四コマ漫画が大きく進歩したと、自画自賛していた次第である。
手塚作品についてはここでは割愛しておく。

「のらくろ」の田河水泡
漫画家の大御所である田河水泡は「漫画少年」には「漫画のおじさん」「漫画村」「黄金百貫目」「地図にない島」「漫画ユートピア」「少年漫画詩」などを連載した。
水泡の戦後の作品を見ると、戦前からの延長でもある「のらくろ」ものが占めている。
「少年漫画詩集」昭和22年 冨岳本社/「漫画トランク」昭和22年 東京漫画出版社/「漫画玉手箱」昭和23年 東京漫画出版社/「のらくろ三人旅」昭和23年 東京漫画出版社/「ちゃめけんとのらくろ」昭和23年 再建社/「竜とのらくろ」昭和24年 日産書房/「蛸の八ちゃん」昭和24年 みどり社/「珍品のらくろ草」昭和24年 神田出版社/「発想うでくらべ」(漫画のおじさんの巻)昭和24年 東京漫画出版社/「漫画展覧会」昭和25年 再建社/「新版タコの八ちゃん」(はじまりの巻)(びっくりの巻)昭和34年(ホームランの巻)昭和35年 日文社/名作リバイバルシリーズ「のらくろ二等兵」〜「のらくろ新品伍長」普通社、ろまん書房「のらくろ召集令」「のらくろ中隊長」「のらくろ放浪記」「のらくろ捕物帖」「のらくろ喫茶店」光人社編、講談社などがある。

「コグマノコロスケ」の芳賀まさお
戦前から動物漫画はなんといっても芳賀まさおである。「幼年倶楽部」では、吉本三平のあと人気漫画「コグマノコロスケ」を引き継いだ。
また、講談社の絵本(漫画)には「かばさん」を描き、子どもたちの心を確実にとらえていた。
「コロスケ」の他に、戦前の作品として昭和14年中村書店発行の「ドウブツ学校」、昭和10年日昭館書店発行「爆進正ちゃん」があり、芳賀まさおの作品はすべて子ども向けの作品といえよう。
「漫画少年」には「クロ(愛犬クロ)」「こぐまのころすけ」「カッパ太郎」「母ちゃん」「半ぽん太捕物帖」を連載した。
芳賀まさおの作品としては、
「爆進正ちゃん」昭和10年日昭館書店発行、「ドウブツ学校」昭和14年、昭和23年 中村書店/「愛犬トップ」昭和17年 中村書店/「雪国の兄弟」昭和17年 中村書店/「一郎鳩君子鳩」昭和19年 三光社/「牧場の少年」昭和18年 日本出版社/「南極のペンちゃん」昭和15年、昭和22年 中村書店/「もんちゃんぶんちゃん」昭和26年 東京漫画出版社/「かばさんとやぎ先生」昭和25年 講談社/「かばさんとぶうたさん」昭和25年 講談社/「ころっけくん」昭和26年 曙出版株式会社/「凸凹彌次喜多珍道中」昭和24年 双人社などがある。

「カンラカラ兵衛」の原一司
足のむくまま気のむくままに、ぶらりぶらりと、のんきな旅よ、エンヤコラサノホイホイホイと唄うのは「カンラカラ兵衛」の中に登場する「エンヤコラサノ助」である。他に「カンラカラ助」の三作品が「漫画少年」に連載された。原一司の作品は暖かみがあり、ほんとにのどかな漫画らしい漫画だった。
原一司の作品としては、
「カンラ・カラ兵衛」1 昭和26年 東京漫画出版社 昭和29年 講談社/「ヨウちゃん」一〜四 昭和25年〜昭和28年/「ロボット・S1号」昭和23年 東京漫画出版社などがある。

「銀星」「ノックアウトQ」の山川惣治
「漫画少年」には「銀星」「ノックアウトQ」「鉄の道」「豪勇金時」の四作品が掲載された。漫画とは違った絵物語に、子ども達は紙芝居をみているようにひきつけられた。「虎の人」昭和25年 光文社/「荒野の少年」一〜三 昭和29年〜31年 集英社/「少年エース」昭和36年 産経新聞出版局/「少年ケニヤ」昭和28年〜 産業経済新聞社/「少年王者」昭和22年〜29年 集英社/「少年タイガー」昭和31年〜34年/「海のサブー」昭和27年〜昭和30年/「幽霊牧場」前・後 昭和28年 集英社などの作品がある。

学習漫画「折込み絵とき」の中野正治
中学生の頃、家での社会科の勉強によく参考にさせて貰った。代表作品に「チビワン突貫兵」昭和15年 金の星社発行がある。戦前講談社の絵本に掲載され、大好評だった漫画である。
他によく知られている漫画家として、「てるてる日記」の沢井一三郎 代表作は「元気のげんちゃん」昭和18年 兒童の友社、昭和24年 東京漫画出版社/科学冒険漫画「海底探検」昭和23年 文林社などがある。
「漫画大閤記」の石田英助、作品には「のんき強兵衛」昭和27年 鶴書房/「大久保ちょこ左衛門」昭和27年 鶴書房/「そろり珍左衛門」昭和24年 鶴書房などがある。
「チュウチョウ交響曲」のうしおそうじ「どんまい君」福井英一「ギッタンとバッタン」古沢日出夫 「鉄ちゃん物語」田中正雄などの漫画家も印象に残っている。
昭和29年2月号には横井福次郎の「冒険ターザン」が掲載されているが、横井はその時にはすでに亡くなっていた。社の原稿料支払い方法の打開策として、とられた措置のようである。
横井福次郎は「不思議な国のプッチャー」昭和23年、昭和27年/「冒険兒プッチャー」昭和24年 講談社で有名、また「冒険ターザン」昭和23年「痛快ターザン」昭和23年「ターザンの決闘」昭和25年、光文社のターザン三部作「ボックリ坊やの冒険」昭和23年 光文社などがある。」

まんだらけ目録11号より

S26.02.20 3月号
別冊大付録は「エンヤコラサノ助」(原一司)、本誌は壮観で、「まんがのおじさん」「だんご仙人」 「ジャングル大帝」「カンラカラ兵衛」など大評判の十大連載漫画、手に汗握り血は踊る。「鬼巖城」「次郎物語」 や「ノックアウトQ」「メキシコの鷹」などの連載小説と絵物語がずらりと並び、読み始めたらやめられない。 新連載は名作絵小説「ああ玉杯に花うけて」(佐藤紅録、大槻さだお)。



S26.03.20 4月号
別冊大付録「銀星」(山川惣治)
新連載愉快漫画「ドンマイマイ君」(福井英一)、痛快読切長編漫画「カッパ沼の大騒動」(芳賀まさお)。 漫画学校「「春のとんち教室」と特集「あけてびっくり笑いの扉」は、手にとってのお楽しみ。その他評判の連載、絵とき、とんち、 ちえくらべの新しい企画でいっぱい。どこをあけてみても、めちゃくちゃおもしろい号である。



S26.04.20 5月号
別冊大付録「銀星」第二編(山川惣治)、新連載痛快漫画「カッパ太郎」(芳賀まさお)、 科学探検漫画映画物語「月世界征服」、特集「あけてびっくり笑いの扉」は今月号にも掲載。 「漫画のおじさん」「カラ兵衛」「ジャングル大帝」「ノックアウトQ」「次郎物語」など 大評判連載の漫画と読み物がてんこ盛りである。



S26.05.20 6月号
日本に初めて現れたニュースタイルの「漫画少年」は、スマートでモダンとどこでも大評判である。
しかも、連載漫画と読み物は依然として続いている。どれから見ようか、どこから読もうか、ずらりそろった新案傑作のニュースタイル雑誌!
「日本見学絵とき地図」が別冊付録としてついている。



S26.06.20 7月号
別冊付録「日本を知る絵とき集」
誌上封切「ターザンとアマゾン」、夏の理科「アリの国漫画訪問」 椛島勝一先生夏のペン画特集、フィルム漫画集「漫画映画館」等々。
ますます人気の連載漫画と読み物など内容豊富である。



S26.07.20 8月号
別冊付録「大絵巻夏休みの自由研究」
三大付録としてディズニーの漫画映画物語「バンビ」、痛快傑作長編漫画「投手の正ちゃん」(井上一雄)、「夏休み愉快文庫」を掲載。
いっせい大活躍の連載漫画や読み物で大増ページを断行。読者のニーズに応えた見事な編集。



S26.08.20 9月号
別冊付録は「中を見る絵とき集」。夏休み特集として「名映画物語」「読切漫画傑作集」「漫画放送大会」を組んでいる。
連載漫画と読み物は「ジャングル大帝」と「次郎物語」など、「ノックアウトQ」は今月号で最終回・・・ 「ノックアウトQ!!がんばれ!!ぼくもがんばる!!ぼくはこのごろになって自分の画の天分をのばして見ようと決心した。 画家として第一歩から出なおすんだ。久五郎くん!!どんどん進め!!ぼくはあとから出発する」章治は心の中で叫んだ。(最終頁より引用)



S26.09.20 10月号
特別大付録は、な、なんと「月世界紳士」(手塚治虫)である。「ジャングル大帝」発行記念として新しく書き直したものである。
新連載として大長編絵物語「鉄の道」(山川惣治)が始まる。
講和条約記念大特集絵とき「世界と日本」。「ほがらか早ちゃん」(井上一雄)ほか連載漫画十二編、写真、読み物、小説、などでいっぱいである。



S26.10.20 11月号
別冊付録「ふしぎ旅行記」(手塚治虫)、世界の漫画王「ディズニー物語」(手塚治虫)、新日本飛行機めぐり、「楽しかった空の旅」(田河水泡)。
連載物として「ジャングル大帝」、「鉄の道」、「次郎物語」、「ああ玉杯に花うけて」等々「メキシコの鷹」(阿部和助)最終回。 入選長編漫画「ふしぎなペンシル」(奥村 望)掲載。



S26.11.20 12月号
別冊大付録「ふしぎ旅行記」(第二編)。その他に、山川惣治の「鉄の道」下村湖人の「少年のための次郎物語」、手塚治虫の「ジャングル大帝」 をはじめ、漫画に絵ときに、小説に絵物語に日本一流の先生方の力作満載、読者のみなさんへ今年最後の贈り物として大奮発している。
なお、目次を見ると、漫画絵物語、漫画物語、絵小説、絵童話、漫画小説など考案、工夫した角書きも見え、大変興味深い。