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幻の漫画少年 全リスト

文・相澤亮一

「漫画少年」と私(8)
 昭和29年発行の「漫画少年」について記すことにするが、前年の昭和28年四月から私は高校に入学し、多少の期間、漫画から距離をおくことになる。
 当時、漫画を読んでいる高校生を、ついぞ見かけることはなかった。高校生の読む雑誌は、旺文社発行の「蛍雪時代」、学燈社発行の「学燈」、少し軟らかくなって「平凡」や「明星」などであった。
 昭和28年四月からは、自分で柏崎の本屋で買うことになる。しかし、高校生である自分が買うことは恥ずかしさも手伝って、どのようにして買い求めたかについては、記憶は定かではない。
 ただ、残念に思うことは、現代のように小学生から大人まで漫画を愛好する時代であれば、当時の素晴らしい漫画の本が、きっと手許に残っていたに違いない。口惜しい限りである。
 さて、昭和29年新年号はお正月オール漫画特大号として発売された。分厚い造りである。
 表紙は、えて公が尾に結びつけた毛筆で、”かきぞめ”をしている場面、墨の文字が書き初め用紙からはみ出して、畳の上にも書かれているという滑稽な絵で、手塚治虫が書いている。
 また、特筆として漫画家から読者のみなさんへ年賀状というのがあり、沢井一三郎、島田啓三、手塚治虫、田河水泡、はがまさお、田中正雄、うしおそうじ、福井英一、古沢日出夫、馬場のぼるなど、他の漫画家の賀状もカラーで巻頭を飾っている。
 ほかに、よびものとして井上一雄の大長編友情まんが「バット君とハヤちゃん」が載っていて、新年号にふさわしい企画である。
 「ジャングル大帝」や「チョウチョウ交響曲」「鉄ちゃん物語」などが引き続き連載され、謝花凡太郎の「魔法の杖」、島田啓三の「プラスとマイナス」などが新しい連載漫画として加わり、手塚治虫の「漫画教室」も新連載として、半年ぶりに復活している。
 昭和28年十一月号で募集した、第一回新人王決定漫画新人王大募集の第一次選考の結果が発表されている。九六七通の応募があり、その中から二六〇名が予選を通過している。新人王の栄冠を勝ち取れるものは誰か?二月号が待たれるところである。
 「ジャングル大帝」第三集ルネ編が、十二月の終わり頃発売予定であるとのお知らせが、再度載ったが、残念ながら発行には至らなかった。
 二月号で最も目を引くのは、特集 漫画新人王発表大会である。
 長編漫画新人王に松本晟(のちの松本零士)が選ばれ、「蜜蜂の冒険」という作品が載っている。高校一年(満十五歳)の時の作品で、そのねらいについて、当時次のように述べている。
 一人になるということがどんなにきびしいものであるかということを、虫の世界に持っていって書いてみました。特にはちは、一つの集団のありがたさ、国の存在のありがたきを知って貰うために書きました。
 ディズニーや手塚治虫に影響を受けた画風大日方明の「蜜蜂甲中漫画行進曲」昭和22年七月不二書房発行(ゾッキ本「みつ蜂マーヤの冒険」)を思わせる。
 短編漫画新人王として伊東章夫が選ばれ、「子熊物語」という作品がのっている。満十六歳の作品で、動物が大好きで、その年はよく熊がでたのでそれをヒントにして書いてみました。と感想を述べている。
 短編第一位 谷川一彦の作品「山鳩物語」も掲載されている。
 また、大変興味深い特集として八枚の色紙が二月号の巻頭を飾っている。新人王審査員の島田啓三、福井英一、手塚治虫、馬場のぼるの四人の先生方が描いたもので、入選作の努力賞としておくられた。
 特集のもう一つに、横井福次郎の「冒険ターザン」がある。光文社発行の「冒険ターザン」を再使用したものであり、そのことは、学童社の財政事情によるものと推測され、すでに(5)で述べたとおりである。
 現役を引退したと思われる謝花凡太郎の起用や亡くなっている横井の作品の再使用、次の時代を担ってたつ有望新人の発掘などにより、経営難という急場をしのいでいたと思われる。
 三月号は、表紙絵が沢井一三郎による”ちょっといただきます”かわいいくま公とうさ公のおひな様の絵で、前においてあるあられを、くま公が何くわぬ顔をしてちょっと失敬する。それと気づいたうさ公がびっくり仰天しているというほほえましい構成である。
 「チョウチョウ交響曲」が四色刷りで巻頭を飾り、手塚治虫によるディズニーの漫画映画、子象物語「ダンボ」、それに、新人王作品第二位内山安二の長編漫画{山の子物語、短編集三位佐藤浩二の「セクッペと鮭」が目を引く。
 さて、四月号は「ジャングル大帝」の完結編である。テレビの大河ドラマの最終回を思わせる感動的なシーンが展開する。
 ムーン山の吹雪の中で、主人公のレオをはじめ、ほとんどの登場人物が死んで行く。しかしレオの犠牲により、ヒゲオヤジ一人が最後まで生きのびる。
 「ヒゲオヤジさん しっかりしてくださいあなただけは助かる道がある!肉を持って、毛皮を着てなんとか、ふもとまでいくのです。それからはトンガ河の流れがあなたを自然に運んでくれます。」「肉? 毛皮? レオ、どこにそれあるんだ レオッ!!・・・・・おまえ なんておそろしいことを・・・・・」「それしか方法がありませんあなたには記録を届ける 大切な仕事がある・・・・・生き残るとすれば あなたなんですよ これで私の心ぞうを一つきにして下さい さあ早く!」「・・・だ、だめだッ」「いくじ無しの人間めッ そんなに怖いのなら こっちがかみ殺してやろうか!(レオはヒゲオヤジにおそいかかり自らを刺す)いいのです これでいいのです」「レオ おまえのことをジャングル中に話してやるよ レオは死ぬまで立派なジャングル大帝であった ・・・・・とね」
アフリカの古い物語は終わった。でも、もう新しい物語が始まろうとしている。
 あしかけ五年にわたって連載された「ジャングル大帝」も四月号でめでたく終わりを告げた。もともとは単行本で出す予定のものをたまたま学童社の加藤謙一前社長に見ていただいたところ、連載の話がもちあがったとのことである。
 「ジャングル大帝」は、いままでに書いた長編の中でも特に好きなものでそれは動物たちと人間との漫画らしい愛情の交換とか動物たちの人間をまねた生活とか、私たちの一つの夢である熱帯のジャングルが舞台であるとか、色んな点で、心から楽しく描けたのだと思う。と作者の手塚治虫は述懐している。
 「ジャングル大帝」の完結と共に、私も「漫画少年」から足を洗うことになる。六月号からは買うのを止めて、受験に備えた。
 昭和31年に上京し、36年に教職に就き、しかし「漫画少年」忘れることが出来ず、再び、漫画の世界、特に古書の世界に首を突っ込むことになる。そして現在に至っている。
 さて、二大柱の一つ「ジャングル大帝」が終わり、後釜には何が昇格するのであろうか。五月号の連載作品を見ると、一つの柱の「チョウチョウ交響曲」と肩を並べるのは、山川惣冶の「豪勇金時」か田中正雄の「鉄ちゃん物語」あたりになるのだろうか。いや「チョウチョウ交響曲」という一本柱で十分に役割を果たすのかもしれない。
 「漫画少年」の目指す漫画の精神は、従来からの漫画らしい健全な児童漫画の連載にあると評価したい。血わき肉躍るような作品は、他の雑誌に任せるという考え方も出来る。しかし、それでは子どものニーズには沿わなくなってしまうという懸念がある。ところが、手塚治虫の「火の鳥(課題)」いよいよ次号(六月号)から連載されるという予告が載っていて、大いに期待したい。
 六月号は「チョウチョウ交響曲」が四色刷りで巻頭を飾っている。また、人気を少しでも取り戻そうと、手塚治虫の特別おもしろよみきりマンガ「なつくさ物語」がリリーフ役として登場している。「火の鳥」が次ごうにより、7月号からの連載にかわったからである。
 しかし、山川惣冶の「豪勇金時」(足柄山篇)が本号で終わりとなり、あらな淋しさを感じるが、一方、藤子不二雄の「海抜六千米の恐怖」や第二回短編漫画新人王の作品、町野巽の「月のうさぎ」および長編漫画第二席・河本長鳩の「けちんぼ太平記」を掲載し、新しい漫画家起用等により打開策が、編集方針としてうかがえる。
 七月号は、おもしろ漫画づくめ号と題して。巻頭に手塚治虫作新連載の痛快歴史まんが「火の鳥」の第一回が、第一部黎明篇として四色刷りで登場する。
 また、井上一雄傑作短編漫画集、古沢日出夫まんが小説「武蔵と小次郎」第二回長編漫画新人王第三席・佐藤浩二の「探偵姉弟」、短編漫画第二席・楠高冶の「ウサギとカメ」などが掲載されている。
 八月号は、ゆかいつうかい夏やすみマンガ号と銘打ち、茨木啓一の「山猫少年」を全面に出し「火の鳥」の第二回と、新人傑作漫画・青川旭一の長編名作時代漫画「姥捨山物語、内山安二の「長屋大平記」が載っている。一方、連載されていた横井福次郎の「ターザンの冒険」が今月号で終わっている。
 続いて八月号増刊 夏やすみ大愉快号が予告なしで発売された。目を引くのは、島田啓三の「だんご仙人」がカラー四色刷りで、手塚治虫の「摩天楼小僧」が二色刷りで、二作品ともに読者の反響を期待できそうである。
 福井英二の「ドンマイ君」、沢井一三郎の「ふしぎなアコーディオン」、古沢日出夫の「ギッタンとバッタン」など、以前発売された増刊号と同じように、再掲載の作品で占められており、二三四ページのぶ厚い造りである。
 九月号は、福井英一のための追悼号、東京児童漫画家特集として発行された。福井英一が亡くなり、ありし日を忍んで、漫画の特集が組まれた。
 「ドンマイ君」、福井英一傑作集、思い出のアルバム、福井英一をしのぶ座談会などが、毎月の連載漫画と共に、掲載された。ほかに、棚下照夫の時代漫画「里芋」なども載っている。
 十月号は、東京児童漫画界の先生方の福井英一をしのぶサイン集、藤子不二雄の「南部戦線異状あり」、それに、かなりウエイトを占めて新人漫画家の作品が掲載されている。 また、「日本児童漫画研究会」の発足と、会誌発行のお知らせが載っている。
十一月号には、新しい連載漫画として、はがまさお「半ポンタ捕物帖」、根岸こみち「たけくらべ」、花野原芳明「ジキル博士」の三作品の連載が始まっている。
 他に、「新漫画党」が結成され、藤子不二雄、森安直哉、坂本三郎、永田竹丸の「日本のねむっている時」という四人の作品、藤子不二雄の「砂漠の牙」「十字架上の英雄」の二作品、また第三回新人王として、長編漫画の第二席に星野充男の「山の小太郎」、「短編漫画の第二席に稲本幸夫「紙芝居物語」が発表になっている。
 そして久しぶりに、十二月号の案内が載っているが、ただ単に作品を集めて掲載しているだけでいつの間にやら淡泊で深みを感じさせない「漫画少年」になっているように思えるのである。
 さて十二月号では、花野原芳明の「ジキル博士」を前面に出し、読者の期待に応えたいという編集の意図がうかがえる。しかし、田中正雄の「鉄ちゃん物語」が、突然連載休止となったり、全く不可解な事態が生じている。それ故売れ行きの悪い「漫画少年」に、一層拍車がかかったのではないかと推測する。
 しかし一方、「漫画家党」や「ドングリ会」を結成した若い漫画家たちは、作品をどしどし発表し、学童社の方針に寄与していたと思われる。
 また、新人王長編第二席として対馬俊明の「お祭童子」、短編第三席として、大鹿日出明「金魚とミミちゃん」、短編佳作として鈴木光明の「見えない宝」が掲載されており、漫画家の卵たちががんばっている様子が分かる。
 なお、昭和30年の新年特大号の面白づくめゆかいづくめの予告が載っており、読みきれぬ程、漫画読物満載の二百ページに及ぶ大豪華版、大いに期待したいところである。

まんだらけ目録14号より

S27.11.20 11月号
「ジャングル大帝」「チョウチョウ交響曲」等の連載は続いているが、「少年のための次郎物語」第2巻(下村湖人)は終わりとなる。きかん坊でいたずらっ子でえこじだった次郎も、死の床にあった母親のお民の真心にふれ、今までと変わったゆとりのある正しい素直な心をもった子に生まれ変わった。しかし、お民はもう永遠の世界に旅立ってしまった。
「私のページ」(沢井一三郎)「ある漫画家の日記から」(手塚治虫)。



S27.12.20 12月号
連載小説がなくなり、連載漫画だけになったが「ジャングル大帝」「チョウチョウ交響曲」等先生方が腕をふるっており、 ますますおもしろくなる。新連載は社会科漫画「大自然と空想」(手塚治虫)、「私のページ」はうしおそうじの登場。読み切り海洋冒険小説「この手柄は君のものだ」(南 洋一郎)、「こっけいおもしろ話大会」等が掲載されている。



S28.01.20 1月号
新連載熱血時代絵物語「豪勇金時」(山川惣治)、新連載漫画物語「花仙人のふしぎ話 黄金のなしの実」(瀬越 憲)、「チョウチョウ交響曲」「ジャングル大帝」等の四大長編漫画や「漫画教室」等の連載漫画、事実絵物語「小鳥の船長」(阿部和助)12月号に引き続き宇宙の神秘と大自然の謎をわかりやすく、おもしろく説明してゆく新しい社会科漫画「大自然と空想」(手塚治虫)読切短編小説、映画物語「ペリカンとしぎ」など。




S28.01.25 新年増刊号
初めて出た読みもの増刊、名作の花園である。
掲載作品例
「海の男」(大佛次郎) 「友情航路」(赤川武助) 「村の探偵じいさん」(小山勝清) 「青空晴れて」(吉田甲子太郎) 「山の友情」(太田黒克彦) 「花咲く道」(山路武夫) 「大工の一心」(竹田敏彦) 「負けない少年」(吉田甲子太郎) 「アマゾンの大鰐狩」(南洋一郎) 「小指一本の大試合」(山中峯太郎) 「オランダへわたった日本の小鬼の話」(池田宣政)などなど。
長編漫画「白い子ねこ」(中島菊夫) 「ストレート・アロー」(レッドミーガー) 「私のらくがき」(手塚治虫)。



S28.02.20 2月号
力作揃いの四大長編「ジャングル大帝」、「チョウチョウ交響曲」、「冒険ゴット」、「宮本武蔵の孫」。新年号からの新連載「豪勇金時」と「花仙人のふしぎ話」。アメリカ絵物語「ストレート・アロー」・・・金色の馬にまたがった快男児ストレート・アロー。19世紀のアメリカ西部大高原に繰り広げる勇壮正義の大活躍。絵ときシリーズ「せっしゃは忍術でござる」(中野正治)、ディズニー製作映画「三匹の子豚」、絵物語美談「名犬バリー」(阿部和助)などおもしろずくめ、愉快ずくめ。



S28.03.20 3月号
「チョウチョウ交響曲」は今月号で第一楽章終わり、「漫画教室」は漫画の着色について。
「ジャングル大帝」はルネ扁の9回目、ニューヨークでのルネがジャングルへ帰ることになり、次第に大詰めへ近づく。「地図にない島」(田河水泡)、「てるてる兄妹」(沢井一三郎)も連載が続いている。「冒険ゴット」(古沢日出夫)は第一部おわり。「豪勇金時」では悪者から逃れるため、夢中でにげるまさご(母)は足を滑らせ深い谷間へ落ちてゆく。おなかのなかの子(金時)はどうなるのでしょう。