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幻の漫画少年 全リスト

文・相澤亮一

「漫画少年」と私(10)
さて「漫画研究」は児童漫画の理想を追い求めるあまり、健全でまじめな路をただただ守りつづけたのではないだろうか。それは児童漫画が目指す方向性からすれば、お手本でもあり当然と思えるが、おそかれはやかれ、日本児童漫画研究会の前途に赤信号がともる予感がするのである。即ち、ストーリー漫画、絵物語、劇画などと、漫画が多様化する兆しの中で、時代に取り残され、おくれをとっていることへの対応はしないで、片くに今までの方針を継承していたと思われるからである。当時の「漫画少年」の経営が行き詰まっている原因を、もっと掘り下げて追求すべきだったのではないか。
テレビや劇画などの影響で、少年漫画が急激に変わりつつあるのに、依然として「漫画少年」が理想とした精神を忠実に守り続けた「漫画研究」は、いってみれば、第二の「漫画少年」である。会誌を四号まで、臨時増刊号を一冊、計五冊を発行して終わっている。
現在、日本の漫画は成熟期、爛熱期にあり、多くの漫画家が色んなジャンルの漫画を描いている。売れっ子漫画家もいるが、空想があり、愛あり、感動あり、夢と希望を与える子供のための子供漫画を描いた「児童漫画」家としては、手塚治虫と、藤子・F・不二雄の二人をあげておきたい。
特に藤子・F・不二雄は、最後まで児童漫画を書き続けた。今は亡き二人を継承できるか、または超えることのできる漫画家が現れて欲しいと、切に祈るものである。
「漫画研究」第三号
■編集者の言葉
『悪書追放というかけ声が先ごろの町会議員候補の連呼のようにごうごうと新聞にラジオに伝えられたと思ったら、こんどは修学旅行の危険が国会でも家庭でも人の顔さえ見ればこの話で持ちきりということになった。この次は何が話題になるのだろう。
何が話題になってもいいから、子供から楽しみを奪うことだけはやめてもらいたい。交通も事故が多いから修学旅行をやめてしまえという議論が出たり、実際に修学旅行を全面的に止めてしまった気の早い県もある。子供たちこそいい災難だ。
漫画が悪い、絵物語が感心しないというので、子供に雑誌を見る事を禁じた親や先生がいる。そのために近ごろの子供雑誌の売れ行きが急に悪くなったということである。これもまた子供たちにとってとんでもない災難だ。
極端から極端にはしりたがる日本人の悪いくせだ。子供にとって漫画というものが、どんな比重を以て彼らの生活のうるおいをなしているかということを知る人は、子供から漫画を取り上げるようなザンコクなことは夢にも考えてないであろう。
どうしたらいい漫画家が得られるか。急所はこれだと思うのだが、このことを問題にする議論は見当たらない。この根本を忘れて悪書追放のかけ声だけやっていたのでは、いつまでたっても漫画全体のよくなる時は来ない。(以下略)』
■特集 「悪い漫画をなくす会」
悪い漫画をなくす会が東京児童漫画会の主催でひらかれ、講談社、秋田書店など少年児童雑誌社と読売、毎日新聞社と手塚治虫、うしおそうじ氏など漫画家がひざをまじえて、マンガ界の実情や今後の正しいマンガのあり方について真剣な論議がくり展げられた。
■「紙芝居と絵物語」山川惣冶
少年ケニヤ・少年王者でおなじみの山川惣冶が、三十年にちかい経験を通して、紙芝居と絵物語のつくり方・かき方について述べている。岩波講座の「文学の想像と鑑賞」第三巻「紙芝居・絵物語」の中から転載である。
他に
■「単行本の漫画と雑誌の漫画」手塚治虫
■「夢の遊園地ディズニーランド(アメリカ)」
■「漫画家は毎日どれ位かいているか」
■「漫画をかく心」(3)はがまさを
■「漫画の案」(1)わかりやすくかかれているかどうか、(2)何か感心することがあったかどうか、(3)その漫画を見て、よい気持ちがしたか
■「ライムライト」藤子不二雄『四年程まえに足塚不二雄というペンネームで冒険王に連載漫画をかいていたが、ぱっとしないままに終わって郷里富山で巻土重来をきしていたが、一昨年手塚先生の紹介で藤子不二雄とペンネームをあらためてよみきりをかき、つづいて新漫画党に入会して合作漫画を続けるうちに認められ、現在では、「ぼくら」を初め四本の連載を持って活躍している。藤子君は、二人で一つのペンネームをもち、合作で漫画を描いているという変わり種である。ひとりは安孫子君、もうひとりは藤本君、二人の姓から一字づつとって藤子というペンネームにしたそうだが、(中略)昔から手塚先生と文通し指導をえているので、手塚先生の影響を多分にうけている。彼の漫画は映画的な手法をもちいて、物語りの構成はスマートでそつがないが、いわゆるこっけいさという漫画の大切な要素が消化しきれないのは残念である。しかし二人とも二十一歳という若さである。今後の精進によって将来大物になることを期待してよい。』
■「スクリーンで見る音楽会」ディズニー映画「ファンタジア」
■「新人漫画家に望む」・「ぼくら」「なかよし」編集長 鈴木松雄『(前略)現在児童漫画で、すぐれた作品を発表されておられる作家は、子供に対する暖かい愛情を基盤にして仕事をされています。手塚治虫先生は、長編漫画をはじめられる時には、その構想をねるまえに必ず幼い子供達と童心になりきって遊ぶということ事です。先生の作品を拝見すると子供がすきですきでたまらない、子供を愛さずにはおられない作家の意図がよくよみとれます。したがって子供たちが、よむばかりでなく、親からみてもたのしい作品が多いといわれます。(後略)』。
■「漫画学校」(3)−漫画の絵−下図について(島田先生)投書漫画について(芳賀先生)
■「動物漫画の本質とその限界」について会員・奥村望君。
■「漫画望遠鏡」、不良出版物から児童をまもる。見まい、きくまい、買うまいの三まい運動、シネスコ漫画、吹きだし、あみなどの語句の解説
■「投書漫画えんま帖」
■「ぼくらの声」−おたより−
■「編集後記」三月に日本児童漫画研究会が学童社をはなれて、独立。「漫画研究」増刊号が発行されるが、新人の登竜門にしたい等の記事。
「漫画研究」第一回臨時増刊号
■編集者の言葉 加藤宏泰
(前略)この増刊号はあくまでもみなさんの投書時代をかざる努力の結晶であって、同じ漫画でも勉強の漫画であり、趣味の漫画であるはずです。入選の方は一そうよい漫画を、惜しくも入選されなかった方は更に努力をつづけて、みなさんの努力を養われるよう希望します。漫研はそのためにある研究誌です。』
■投稿作品・「ごんべが種まきゃ」二頁もの、横田徳男などが連載。
「漫画研究」には創刊号から投書漫画えんま帖として投稿漫画が載っていて、漫画家の先生や編集部の評があるが、入選のためのメダルやバッジなどの賞品はなかった。
さて、増刊号の中にガリ版刷りの当時の印刷物がはさまれたまま残っているので、その概要を紹介する。
『「漫画研究」は学童社の編集部から発行してきた。しかし、学童社が児童文化を育てていくという創業の主旨に反したいかがわしい雑誌を発行するに及び、日本児童漫画研究会を学童社からきりはなしたこと、そして株式会社として新発足する運びになり、健全な漫画の発展と育成をはかることになった。』
「漫画研究」第四号
まず再発足の御挨拶が掲載されている。株式会社日本児童漫画研究会創立発起人15名の名前が載っていて、次に編集者の言葉が続いている。
■「漫画家になるには」
日本児童漫画研究会名誉会長 松下井知夫『みなさん、こんな事を考えてみた事がありますか−小さな部屋の小さな机にむかって、自分の頭と腕一本でかいた漫画が新聞や雑誌にのって、すくなくとも十万、新聞によっては百万以上の人に見られるという事です。自分のいいたい事、知ってもらいたい事が百万人の人達にいえるし、又知らずにいってしまうことになるのです。どんなにえらい人でも講堂に百万人の人を集める事はできません。放送にしても、百万人の人が、聞いても、それはその時きいただけで、新聞や雑誌のようにあとにのこるものではありません。百万人の人を相手に書くんだ。そして何べんもよまれるんだという事になると、漫画という仕事が如何に大切であるかがわかってとてもいい加減な仕事はできなくってしまうでしょう。それだけの自覚と責任をもって漫画をかかなければならないのです。(中略)みなさん、ここで一つ考えてほしい事は、自分はいつまでも子供ではないという事です。だれでも二十や三十で死んでしまうと考えている人はいないでしょう。やがて大人になっていくということを忘れて、現在かいているものが面白がられて得意になっているのは一番危険なのです。−という事は今かいている漫画は自分のと同じ仲間の人達だけの間で判るおもしろさであって、世の中にはもっともっと別の世界がいっぱいあるのを知らないでかいているのです。今君たちのかいた漫画が、友だちの間でおもしろいからとさわがれても、大人になって色々な漫画をかく場合、もっと広いはんいの色々な人達によまれるのですから、いま君たちが面白がっているその漫画がいつ、どこででもおもしろがられるときまったものではありません。(中略)君たちの世界以外のおもしろさは年をとらなければわからないかというと、そうではありません。勉強には年は関係なく、努力さえすれば、年齢や仲間同士の狭い考え方を超えた広い世界もわかるようになるのです。そして君達の世界の漫画をかいても、もっと広い世界を知っている人がかくと、その漫画は外の人がよんでもおもしろいという事になるのです。そういう勉強は漫画の技術だけではなく広い範囲の勉強をしなければなりません。ただ、今おもしろいからといって技術だけにたよってかくと自分が成長していろいろな漫画をかかなければならない時に他のことは何も知らずに困ってしまいます。(中略)今君達が子供だから自分に判る程度の児童漫画をかいているのだけれども、大人になった時に、或いは大人の漫画をかきたくなるかもしれないという事です。本来、漫画家は大人漫画・児童漫画・さらに細かくいえば、少年漫画も幼年漫画もかける力をもっていなければならないのです。児童漫画家とか大人漫画家とかいう肩書きは、その人の主にやっている仕事につけられた便宜的な名称です。本当の漫画家になるためには、広いはんいの基礎的な勉強をしなければならないのです。美術、歴史、社会問題、政治問題、児童心理その他あらゆるものを理解するだけの教養がなければいけません。しかし一足とびにそんな難しい勉強はできません。こういう問題を正しく判断し理解するためには、いまみなさんのやってる学校での学習がまず基礎になるのです。これをおろそかにしていると、大人になっても立派な漫画家には決してなれません。ましてこれからの漫画家は世の中も複雑になる事だし、国民全体の教養の程度も高くなるから、それ以上の知識を身につけた人でないといけなくなっていきます。(中略)いままでのおはなしは漫画家になる、精神的な面でのお話でしたが、漫画家も、画家なのですから、その外に画の勉強もみっちりとやらなければなりません。ですから漫画家になるためには人の二倍も三倍もの努力がいる訳です。」(後略)』
他にも
■「新聞漫画に就て」島田啓三 「新聞における連載漫画は読者をひきつける大きな要素になっているために、新聞社は競争しておもしろい漫画をのせています。
それだけに一流新聞にのるという事は、その人の名誉でもあり、りっぱな漫画家としての将来も約束されるのです。」毎日新聞社に嘱託でいた頃、朝日新聞の横山隆一氏の「ゴロちゃん」に対抗して「半ちゃん捕物帖」という漫画を寝食もわすれてかきつづけたことなどを述べている。
■「勉強漫画」秋玲二
■漫画講座「漫画にあらわれたヒロイズムについて」馬場のぼる
■「ライムライト」人物紹介・関谷ひさし
■「幼年漫画をかくこつ」芳賀まさお『幼年漫画とは幼稚園から小学三年生までの児童を対称にした漫画をさしていう。一見やさしそうに見えて、案外苦労する。ちょうど字画のおおい字は、何とかごまかしができてまとまったようにかけるが、一という字がうまくかけないと同じりくつであるということ、動物漫画のしめる地位がずっと大きいのは、幼年時代はひじょうに空想的で、よく大まじめで、となりの家とろうかずたいに行き来したいと考えたり、象と一緒にあそんでみたいとか、その空想は少年少女よりも無鉄砲なひろがりをもっていることなど、また動物園に行って、ライオンのおりに手をつっこんだりして平気なのも、みんなお友達のようなしたしみをもっているのです。(中略)これから幼年漫画をかく人達は、子供たちと一緒に遊ぶというやさしい気持ちをもつという事が一番大切である』
また、幼年漫画は未開の土地で、もっともっと深くほりさげて研究する事が豊富にある。次の時代にはこの開墾をおえた土地に花を咲かせなければいけない。としている。
■「漫画少年ついに休刊」のニュース
■「漫画望遠鏡」ルーティンとアンコール漫画の解説
■「漫画映画雑感」古沢日出夫
■「科学漫画に就いて」手塚治虫
■「手塚友の会誕生」「虫ニュース」
■「動物漫画入門」三木ますお
■山根一二三先生に関する八章」
■「少女漫画をかく人のために」高野よしてる
■「ナンセンス漫画とストーリー漫画」茨木啓一
■「長編漫画の書き方」うしお・そうじ
■「投書漫画えんま帖 評太田二郎
■「ぼくらの声」おたよりのページ
■「編集後記」「お知らせ」

まんだらけ目録16号より

S28.11.20 11月号
「アトム大使」第2回、「ジャングル大帝」、「チョウチョウ交響曲」、「豪勇金時」、「山猫少年」、「母ちゃん」、「カボチャ三勇士」などの連載漫画、「ぼんやりかわうそ」(中島菊夫)短編読切漫画集「四つの夢の物語」(第1話 白路徹、第2話 古沢日出夫、第3話 田中久幸、第4話 茨木啓一、トビラ 坂本三郎)「金ちゃんの手柄話」、「はりきりピッチャー」(田中正雄)。漫画訪問「うしおそうじ先生」(坂本三郎)、ホントカシラ博士「カメのこうら」(寺田ヒロオ)。



S28.12.20 12月号
「アトム大使」は今月で終了。「ジャングル大帝」、「チョウチョウ交響曲」、「豪勇金時」、「鉄ちゃん物語」等の連載は続いている。漫画訪問「山川惣治先生」(坂本三郎)、社会科漫画「学用品とぼく」(永田竹丸)、「ビッコの子猫」、ホントカシラ博士「おじぞうさま」(寺田ヒロオ)、「シロちゃんが女になった話」(小川明良)、「まんがクリスマス大会」(寺田ヒロオ、坂本三郎、永田竹丸、山根赤鬼、ながきふさひろ、河本長鳩、横向幸雄)、「漫画とクイズとあそび」(山田安次、寺田ヒロオ、山根赤鬼)、「人まねざる」(永田竹丸)、愛読者漫画大会及び、東西対抗試合など。



S29.01.20 1月号
「ジャングル大帝」、「チョウチョウ交響曲」などますます面白い連載漫画6本、新連載「プラスとマイナス」(島田啓三)、「魔法の杖」(謝花凡太)、「星の物語」(瀬越憲)、年賀状漫画「読者の皆さんへ」(田河水泡、芳賀まさお、手塚治虫、うしおそうじ、島田啓三、福井英一、馬場のぼる、他)リレーだより漫画家から漫画家へ」初笑い「もしも特集」ホントカシラ博士「モグラ」(寺田ヒロオ)、「福井先生訪問記」(坂本三郎)「おさるのえかき」(沢井一三郎)。特集「バット君とハヤちゃん」(井上一雄)



S29.02.20 2月号
「プラスとマイナス」、「ジャングル大帝」などの連載漫画、それに「漫画教室」、「冒険ターザン」(横井福治郎)、「豪勇金時」、特集「おとぎ話のそれからあとのはなし」(寺田ヒロオ、永田竹丸、坂本三郎、山根青鬼、山根赤鬼)「ある冬の日のできごと」(木下としお)、「いたずら王さま」、「ネズミたいじのおまじない」(おだしょうじ)、「よっちゃんと時計」(河本長鳩)「漫画訪問 田中正雄先生」(坂本三郎)。
漫画新人王入選者発表 長編漫画「蜜蜂の冒険」(松本晟)、短編漫画「子熊物語」(伊藤軍夫)、新人王入選作、努力賞におくられる審査員の先生方(島田、馬場、手塚、福井)の色紙、受賞作品についての批評など・・・。



S29.03.20 3月号
連載漫画「プラスとマイナス」、「ジャングル大帝」など。痛快絵物語「豪勇金時」、「ターザンの決闘」、ディズニー漫画映画「ダンボ」(解説 手塚治虫)、「落とし物の身上話」(永田竹丸、寺田ヒロオ、山根青鬼、坂本三郎、山根赤鬼)、「三月漫画展」(寺田、坂本、永田、青鬼、赤鬼)「狐のシッポをつけた鬼の話」(石森章太郎)、新人王作品第二席「山の子物語」(内山安二)、「愛読者漫画大会・改題 漫画つうしんぼ」(構成寺田ヒロオ)、「たぬきときつね」(寺田ヒロオ)、「セクッペと鮭」新人王短編第三席(佐藤浩二)、投稿「東西対抗漫画試合」など。



S29.04.20 4月号
「ジャングル大帝」完結編。足かけ5年にわたった「ジャングル大帝」も今月でめでたく終わりました。
「ジャングル大帝」は今までに描いた長編の中でも特に私が好きなものですが、それは動物たちと人間との漫画らしい愛情の交換とか、動物たちの人間をまねた生活とか、それに私達にとって一つの夢である熱帯のジャングルが舞台であるとか、いろんな点で心から楽しく描けたのだと思います。20人にあまる主要人物の一人一人もみんな好きなものばかりです。(手塚治虫)
アフリカの古い物語は終わった。でも、もう新しい物語が始まろうとしている。(以上は最終回より引用。)