岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第44回

ハエたたきとイクラでマッハライダー攻略


(図1)
アゴはもちろんちんこも硬そう

いつのまにかこのコーナーは「マンガに出てくる食べ物」の話ではなく「食べ物マンガのコーナー」になってしまった気がします。
しかし現在では専門化が進み、ラーメンやフレンチ、イタリアン、和食に中華はもとより、ワインのマンガ、日本酒のマンガ、割烹に居酒屋のマンガにカレーのマンガ、駅弁のマンガや蕎麦屋のマンガ、食器のマンガまであります。

いまのところない、といいきれそうなのはウナギ屋マンガとか、ドイツ料理マンガとか、生ビール専門マンガとか、そんなんくらいしかありません。

こうなるとそれら全部を含めて「食」のマンガといえるのは、本当にわずかになります。
ひとつはいわずと知れた「美味しんぼ」。もうひとつは「クッキングパパ」です。

ちなみにこの両者、それぞれ賞味方面のウンチク系と、調理・レシピ方面の非ウンチク系、と大きく立ち位置は異なりますが、 さっきのウナギもドイツ料理も生ビールも、全部作中に話で登場するくらい、おさめている範囲は広いのです。

クッキングパパの素晴らしさはいずれじっくりと紹介しますが、ホンワカした家庭コミックでしょ? みたいに思ってる方は間違いです。意外なシーンが多いのも特徴です。

特に最初の方は、咲ちゃんと荒岩が擬似不倫関係に近くてモヤモヤしてたし、奥さんは瓶底メガネを取ると美女、 しかも「ねェ〜ン あなたぁ〜ン」と甘えまくるデレデレぷり。
そして今より若かったころの荒岩はというと、妻子もちとはいえ陰茎が異常に硬そうな絶倫ぽさマンマン(図1)。

亀頭にピーナッツを乗せ、勃起したそれをレバーのように押し下げて放すと、勃起力でピーナッツが5メートルくらい飛ぶと思います(私見)。
かつてリリーフランキー氏は、藤竜也と反町がチンポ硬そうな芸能人の筆頭だと述べてましたが、マンガ界ではまさにそれは荒岩でしょう。


(図3)
山岡ふにゃちん疑惑

かたや美味しんぼは、そういえば栗田さんが山岡に対して「スッポンて効くのね」「去勢された牛ね」と意味深なことをいったましたね(図2・3)。
栗田さんを満足させられなかったんでしょうか。 ひどいマザコンで父権を否定、女性に抱きつかれても何とも思わないなど、性格的にも勃起不全ぽい山岡はダメですね、性的な意味で。

クッキングパパも80巻を超える大著。
ヒラのままの山岡に比べ、このたびめでたく課長に昇進した荒岩さん。
長かっただけあって、いろいろありましたねえ。

たとえば、
  • 荒岩がヘビメタ姿でテレビに出たことがある(図4)。
  • 荒岩がインド人に変装したことがある(図5)
  • 上司にムスッとした顔をなおせといわれてニコニコしてたら皆に気持ち悪がられたことがある(図6)
  • 奥さんとセックス中に客が来訪し、あわてて下着姿で応対したことがある(図7)
  • 息子・まこと君もムラムラして思わず彼女にガバッと抱きつき半レイプしかかったことがある。
なんて、話だけ聞くとウソみたいですね!

「クッキングパパ」はレシピがのってるので挑戦したくなってしまいます。
僕も掲載しているメニューを実際に作ったことが10回以上あるくらいです。
また料理画の巧みさと「うまいっ!!」っていう表情。
ホントうまそうで、みんな食べてて幸せそうなんですよね。料理マンガのくせに料理がちっともうまそうに見えないマンガ意外に多いんですよ。

(図2)
インポよね


(図4)
荒岩サイヤ人


(図5)
妙に似合う


(図6)
寝具売り場にいるタイプの店員


(図7)
ほっときゃいいのに

今回は、そんなうえやまとち先生のおそらく唯一のファミコンマンガを紹介してみましょう。
「料理大好きうえやま先生がファミコンマンガ描いたら、こうなった」としかいえない、素晴らしい完成度です!

月刊マガジン86年2月号。よみきり。
「ブラボー! ぼくのファミコン」(図8)。
すごい脱力タイトルですね。 ファミコン戦国○○とか、決戦ファミコン○○大会とか、そういうありがちなコロコロボンボン系のタイトルとは一線を画したホノボノさです。

舞台は中学校。友達が買ってきた「マッハライダー」を放課後の教室でいきなりやり始めるところからはじまるわけですが、 教室にファミコンが常備されてるあたりで既に現実感がありません。セリフも

「松本くん いま話題のファミコンソフトかったよ」
「おーっこれがうわさのマッハライダーか!!」(図9)


(図10)
ドガーン

ヘナヘナになります。マッハライダーってそんなに人気あったっけ。
スタートしたかと思いきや、すぐに障害物にぶつかってドカーンと爆発(図10)。 うまくいかない主人公をせせら笑うかのようにライバルが。セリフも

「オレはB組の天童! ファミコンの大天才さ 」(図11)


説明的ですね。
彼は親がファミコン雑誌のヒトなので情報ももってて、その情報ほしさに取り巻きがついている(図12)くらいです。

すごい手の動きであっという間に10面クリア(図13)。
侮蔑された松本は三日後に天童と対決を誓う!
・・・テクニックうんぬんよりも「手の動き」が大事だ、というところが肝心ですからね。このコマの下にアンダーラインを引っ張っといてください。

3日後に天童に勝たなければ彼女のクチビルを奪われてしまう! 練習してもいっこうに埒があかず焦る松本。 家に帰ると、人がメシ食ってるのに、とうちゃんが周囲でハエ叩きを振り回してるという汚い環境(図14)。

彼の家は魚屋なのでハエが多いのです。
見事な反射神経でハエを退治するとうちゃん。
このハエ叩きの反射神経は攻略につかえる!と思い込む松本。すごいインスピレーションですね。ではハエ叩きの極意とは?

(図15)
よくみるとテーブルの上にうんこが

「とまった瞬間にげる方にうつ」という極意を発見したのだ」
「つまり敵をよく知り敵の動きを事前に読むってわけだ!」(図15)


(図16)
まあ地図を書くには全面クリアしないといけないんだけどね

わかった! 松本はひらめいた! コースを完全に頭に叩き込んでしまえばいいんだ、マップを描いて覚えればいいんだ! (図16)


(図13)
連射でスイカも割れそうな勢い


(図8)
なぜブラボー?


(図9)
集中線がイナズマ形


(図11)
ファミコン番長


(図12)
ウラ技欲しさに子分かよ


(図14)
最悪の住環境


(図17)
じゃますぎ


(図19)
なぜハエたたきにこだわるのかサッパリ不明


(図21)
コース外のほうが安全、ってすごい矛盾


(図22)
あうっ

エ? ハエ叩きから、マップ作成? ハエがにげる方向に打つ、はどうなったの? 参考になってるようで全然なってない。反射神経はどこにいったの?

あとマップって、こんな長く書いたら意味なさないんじゃないのかな・・・(図17)。 だけれどどんどんクリアしていく松本。ゲームとはしょせん慣れ。やればやるほどうまくなるのも事実。ところが敵は思わぬところにいた!


(図18)
野球マンガ的展開

「てっ手が・・・手がどーにもつかれちまって 思ったように動かなくなっちまった!!」(図18)


そう、長いことやってたら、手が疲れちゃった! 動かないよ! ・・・仰天です。 テクニックでもないしパターン把握でもウラ技でもないし、弱点は疲れ!

ガックリして家に帰る松本。家ではまたもとうちゃんがハエたたきを振り回し ている。そういえばとうちゃんは一日中ハエたたき振り回してて、どうして手が 疲れないんだ? そう、またも解決の鍵はハエたたきにあったのです!

「力じゃねえのさっ これは要領さ」(図19)


サバにたかったハエを、ハエだけ殺してサバを傷つけずに打つ手際。
つまりはハエをたおすだけの最小限の力で打てばいい!! 気がついた松本。特訓だ! 誓う松本。

でもここで意味不明のセリフが。


(図20)
????

「よーしこのイクラで特訓だっ!!」(図20)


イクラ? 何それ・・・?

そして対決の日。天童も松本もいいペースで面を重ねていく。
15面、18面・・・しかし天童はやがて疲れから手が引きつってくる。ステージも難しくなってきて障害物だらけに(図21)。

・・・障害物だらけ、というか、障害物しかないですねこの道路。天童ゲームオーバーのシーンも泣ける!

「あうっ汗で手が」(図22)


手の疲れのあとは汗ですか。 つくづくテクニックとかが報われないマンガですね。
どんなにテクニックがあっても、汗もかかなくて疲れない人はいないだろうから、それいっちゃったらある意味全てゲームの敗因は疲れと汗ですよ。

(図23)
別に普通だろ


(図24)
イクラ効果

天童が終わったあとも、松本はゲームを続け、勝負に勝つ!
ゆら〜ゆら〜とコントローラーを動かすとこの動き!(図23・24)

これは十字キーの動きじゃないですよ! これが特訓の成果か? イクラでどんな特訓をしたんだ?

ほんとうにどうしてなんだろう? と思ったひとはここをクリックしてください。解答はこれです! イクラ? 別にどうだっていいよ〜と気にならない人はそのままで。

いや、どうでしたかコレ。この見開き2ページのために、このマンガの全ての価値があるというものです。 これ実際にやったら、一瞬でイクラつぶれまくり、たぶんコントローラー油でベトベトヌルヌルになりますよ。
ネジ穴やボタンの隙間からアブラが染み込んでコントローラーすっげ魚臭くなったんじゃないかと思う。

このマンガを要約して人に伝えるとしたら「イクラとハエ叩きで、マッハライダーはクリアできる!」というしかないですが、 これでみな納得してくれるんでしょうか?

このマンガを読んで間に受けた子どもが「ゲーム攻略するから、おかあさん、イクラ買ってきて」と理解不能な懇願を母親にしたんだろうと思うと、 やっぱり薄ら寒いものを感じざるをえません。

ちなみにマッハライダーってどんなゲームだったっけ? と色白のギャラクシー担当に聞いたところ、

「バイクからフツーにミサイルでて、敵たおします。割と面白いですよ」
「マッハライダーの一ヶ月前にスーパーマリオが出たせいで、任天堂のソフトだけど当時ほとんど売れなかったんですよ」

とのこと。


(図25)
すごんでるのか反省してるのか分からない歌詞

ああそっか、きっとほかのコロコロボンボン系作家は、みーんなスーマリの攻略マンガ描かされてたんですね。
でもその分野での実績のないうえやま先生には、マッハライダーが回ってきた、と・・・。
しかも掲載先もなんでか月刊マガジンだった、と・・・。

まあ結果としてこんな奇怪なマンガが世に残ったんだからヨシとしましょうか。

それでは最後に、次回以降の予告として細かいネタをいくつかです。
うえやまとち先生の描くロックンロールをご覧下さい(図25)。
出だしが「オウオウッ」ってのが最高ですね。

もうひとつ、美味しんぼの花咲アキラ先生のデビュー作といわれている、謎の多い作品「歌え!平太」(図26)より、主人公平太がギターに目覚めるシーン。

(図27)
右の男がグータラ山岡を想像させます


(図28)
おそるおそる


(図29)
ギター鳴らしただけでこの衝撃、まさに精通


(図26)
お母さんの顔が初期の美味しんぼぽい

「ジャラ〜ン」
「ウウッ!! (ビッガァーン)」(図27〜29)


なんだこりゃ。すごい衝撃の受け方ですね。まさに精通、まさに人為割礼、これこそロック衝動のほとばしりです。

「歌え!平太」はなんと八百屋の息子の小学生が歌手を目指すというお話ですが、学研の少年チャレンジ連載、 しかも単行本になってないため、完全に黒歴史あつかいです。

いま最も結末を知りたいマンガのひとつですな。いつかちゃんと取り上げますので、待ってて下さいね。

クッキングパパは本店2にて取り扱いをしております。荒岩を真似て手作りソーセージに挑み、 失敗して台所中ヒキ肉だらけにしてしまった、という諸兄は本店2へGOです!

またイクラ特訓を実際にしてみたい方は、鮮魚店も西友もブロードウェイ地下にありますので、そちらにどうぞ! でもイクラ油にまみれたコントローラーは買取対象になりませんのでご注意ください!
※この記事は2006年5月20日に掲載したものです。

(担当岩井)

お問い合わせ (営業時間:12:00〜20:00)

まんだらけ中野店(詳しい店舗地図はこちら)
〒164-0001 東京都中野区中野5-52-15
TEL:03-3228-0007 / e-mail:nakano@mandarake.co.jp