今回ご紹介するのは、人間が巨大化するヒーロー作品のハシリである
『ビッグX』がスタートする少年ブック1963年(昭和38年)11月号です。
ビッグXこと主人公・朝雲昭は、
シャープペンシル型注射器で自分自身にビッグX(薬品)を注射すると巨大化し、
ナチス残党のナチス同盟や秘密結社、怪獣、殺人ロボットなど様々な敵と戦います。
アニメは手塚原作を虫プロ以外に初めて提供した作品で、当時新しく出来た東京ムービーの製作。
TV番組的に注射器がNGだった事から光線で大きくなるといった設定の変更や
ストーリーも大きく変更し漫画とは大きく違う作品となりました。
元々はピープロで製作される予定で、
うしおそうじが制作費として(当時の)3000万を提示され、
喜んで話を受けたらスタッフから猛反対されて泣く泣く諦め、東京ムービー製作となりました。
このエピソードはうしおそうじ自伝『手塚治虫とぼく』(草思社)に収録されています。
漫画は他の手塚作品と同様、雑誌・付録・コミックス掲載時で細かく加筆・修正されており未収録部分も多いです。
まず秋田サンデーコミックスには「ミクロX」の話が収録されておらず、
また集英社テレビコミックスには収録されていて秋田サンデー、手塚全集ではカットされているシーンがあります。
今回は新連載号の出品なので第一話にスポットを当ててみますと、
台詞、コマの順番など色々と違うのですが、細かい修正箇所がありましたのでご紹介します。
ナチスの攻撃を受け我慢が出来ず飛び出そうとする、
のちの主人公・朝雲昭の父となるしげる少年を引き止める朝雲博士の一コマですが、
一人称に違いがあります。
①少年ブック本誌では朝雲博士の一人称は【わし】
②集英社テレビコミックス版では【わたし】
③秋田サンデー版では【わたし】
④全集版では【私】
となってます。
第一話のお話は、朝雲博士はヒットラーに強要されビッグXをエンゲル博士と開発する途中で
秘密を記したジュラルミン板を息子の腹に手術して埋め、
ドイツ軍が連合軍に負ける寸前に研究をわざと遅らせたとしてナチス兵から銃殺されます。
朝雲博士はトータルで10回【わし】【わたし】【私】と言うのですが、
どのバージョンでも一貫して【わし】なのが以下5箇所です。
・ナチス兵に朝雲博士か聞かれた時と、ヒットラー総統に会いたくないと言う時
・エンゲル博士に黙ってジュラルミン板を息子・しげるの腹に埋めに行く時
・ナチスに協力していると勘違いして父・朝雲博士を嫌っているしげるに手術しながら真相を話す時
・ナチス兵に銃殺される前
傾向としては自分の思いを強く述べている際に【わし】が使用されているように読めますが、
唯一、集英社テレビコミックス・秋田サンデー版で【わし】をそのまま使用しているコマがありました。
それはドイツが正義だと語るヒットラーに対する反論時。
見落としなのか意図的なのか真意は定かではありませんが、
戦争に関して様々な思いを持つ手塚先生の意向が一番反映された一人称の使い方は
このバージョンかもしれない・・・というのは考えすぎでしょうか。
ビッグXは手塚先生自身あまり思い入れは無いらしく、
全集のあとがきで【やたらと正義ぶるから好きじゃない】とまで書いていますが、
手掛けた作品の一つとして愛情を掛けて細かい箇所まで拘って修正されている事が伝わります。
探す側としてはハードルがビッグXのようにどんどん大きくなっていきますが
それもまた手塚作品の楽しみ方の醍醐味ではないでしょうか。
今回は新連載号という事でまだビッグXが出てきませんが、
初めて主人公・昭が大きくなる次号1963年12月号では
インパクトのある加筆・修正箇所がありますので、後日ご紹介します。
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福岡店 青柳