岩井の本棚 「本店レポート」 第10回 |
認めたくないものだなあ〜〜若さゆえのアヤマチ?というものは?
映画「リンダリンダリンダ」のCMを見るたび昔のことを思い出します。今をさかのぼること十数年前。日本にバンド・ブームというものがありました。
原宿の歩行者天国で様々なバンドが話題を集め、様々なバンドが、それまで歌謡曲ばかりだったTVの音楽番組に登場。
それに影響を受けた先走った高校生どもが、女にモテるためにやみくもにバンドを組んで、 いざ本番ではブゥーン、ギギギギィーという不快音のみが体育館のステージ上に鳴り響くだけという、 やはりそれなりにノイジーな有様でハデに文化祭で散ったりしました。
バンド熱が高まると、やがては身内にライブハウスのチケットを笑顔で押し付ける、といった珍事が続出しました。
そのせいか高校卒業後、もうあんまり会わない奴からいきなり「会おうよ」って話になると 「宗教の勧誘か、それともチケット買え、のどちらかだな」とやたら警戒してしまうクセがついちゃいましたね。
今でこそダメなSPA、もしくはヘボなリーマン雑誌に成り下がった「宝島」が、 バンドブームの頃はロック雑誌(のつもり)だったことを覚えているでしょうか。
今ではウソのようですが「男闘呼組はロックか否か」だの「たまは、本物のロックだ」などという塩っぱい酸っぱい論争を戦わせていたりしました。
幼い僕もロック、という言葉がなんかウスラ尖がったコトバに思えて「そりゃロックだね」などと受け応えていたことを思い出します。わぁ、恥ずかしいなあ。
その当時の宝島でいきなし連載はじまった「イデオロキッズ」というマンガがありました。
自分達よりも一世代前の全共闘世代に影響され、そしてパンクやロックの洗礼を受けた高校生、弾ちゃん。
いつもヘルメットにマスクをかぶり、ゲバ棒を持ちあるく学生運動家ファッション。
その行動はいつも時代錯誤で暑苦しくて、そしてトンチンカン。
(図1)
(図2)
忌野清志郎ひきいる「タイマーズ」にバッチシ影響された弾ちゃん、当時は面白く読んでました。
作者は若き日の山田玲司。
いまはヤンサンで「絶望に効くクスリ」で、様々な識者や運動家、アーティストとの対談マンガを描いています。
若かった当時から、サヨクぽい論調で語りがちだった山田さんは、さまざまな事象で今も相変わらず問題提起しつづけています。
僕は今でもこの人の作品は苦手です。
たぶんお父さんだったらすごくイヤです。
若人に何かの影響を与えよう、影響を与える言葉を投げかけよう、というスタンス。
社会に対して常に持つ批判精神。
自分の弱さを包み隠さない語り口。
そして「ロック」の持つことばの意味への絶対的信頼。
絶望に効くクスリ3巻あとがきに
「ともかくロックとは既成の大人社会に対するレジスタンスだ!」
とあります。
来年で40なのに変わってないなあ、とすこし安心するのですが、 ロックという単語をそういう意味で使う大人、ってもう僕もすこし苦手になってきました。
「変わってないなあ」と思ったのはもうひとつ。
ここに「理想主義者の屍に乾杯」という個人誌があります。
89年に山田玲司さんが自費出版した本です。冒頭には「絵画小説主義宣言」と称し、
「俺は今、出版されているありとあらゆる「マンガ」をクソだと思っている。
そうでなければ俺がペンを持つ理由がない。もし他人の作品を俺が讃えるならば、あえて俺が描く必要などないからだ。
今更いうまでもなくこの業界は腐っている ・・・(略)・・・血迷った文部大臣が何をトチ狂ったかマンガに芸術賞をやると言い出したが ・・・(略)・・・この程度の脳ミソが日本のキッズを上段から「教育」していると思うとぞっとする。
今の「マンガ」とやらのどこに「芸術」が存在するというのだ」
と過激なアジテートをしています。23歳の時とはいえ、この尖り具合と萎えさせ具合はハンパないですね。
どんな芸術がこれから展開されるのか期待をあおりにあおります。
しかし!中身はというと芸術とはちょっと判断できんようなこんなマンガだったりして(図1・2)、 こうなってくると芸術というコトバを再定義せんとならんかなあ、とフトおもったりするササクレ完成度です。
とにかく自分が今どこで何をしていて、何を読んでて、何アジテートされてんだか、 なんもかもサッパリ忘れちゃうほどに衝撃です。
いってることとやってることがこれほどまでに差があると逆に読んでるこちらがビビりますね!
なんなんだかわからないけれど、とにかくすごい作品集だ!!!ということだけは自信を持っていえます。
ある意味奇蹟の著です。
意味はわからないけれども「ゲット感」だけはやたらとあるこの作品集。
僕のマンガ暦をクロニクル化すると
05年「理想現実者の屍に乾杯」に出会う
という一文が記載されるハズです。
40を間近に迎えたいま、悟ったように「絶望に効くクスリ」で対談してるのをみると目を疑います。でも変わってない、感はバリバリ。
この人の根本にはこんなんがあるのか、と感じるには絶好の著。
山田玲司ファンは必読です。
2625円。本店2ショーケースにて。
※この記事は2005年7月24日に掲載したものです。
(担当岩井)