収録作品
●悲しみの世代 (全話)
・浮気女
・冬
(以下、単行本初収録)
・富士荘二階
・トマト
・飛ぶ男
・漕げばボートは行く
・遠賀川と田川盆地
・意趣返し
・心
・美代子田川気分

★誌上ギャラリー 油彩紹介&販売
★巻末インタビュー 安部慎一&美代子
★あとがき 古川益三
★特別付録 創作ノート
A5判上製(箱入)
344P(カラー16)
限定1000部
サイン入
¥3,675(税込)本体:¥3,500




『悲しみの世代』を読んだことのない劇画ファンとは友だちになりたくない

文・赤田祐一

安部慎一のことを
以前
「消えたマンガ家」として
某サブカル誌でとりあげたところ
京都のちいさなバアで
その記事を読んだ男から
ネチネチとカラまれた経験がある
その男は
どちらかと言えば
過去に生きるタイプの男だった
男の弁によれば
死者に鞭打つような
あんな取りあげ方をするな
アベが可愛そうだと
私に向かってクダを巻きだした
男を紹介してくれた友人は
突然のハプニングにたいして
オロオロしていたのを覚えている
確かにその記事は
安部慎一のことを
「僕はサラ金の星です」という
発狂した時期の作品に
スポットライトを当てたものなので
ナイーブな男は私のことを
ハイエナのような奴だとでも思ったんだろう
男のキャパシティでは
「消えたマンガ家」の記事を
受容することはできなかったのだ
しかし
安部慎一の作品を
ほんとうに深く読みこんでいたなら
たかだか「消えたマンガ家」と扱ったくらいで
からんでくることは
考えられないと思う
文句を言うのは御自由だが
男の浅薄なヒューマニズムに
いいかげんへきえきした私は
バアのドアを蹴りとばして
最終便の新幹線に飛びのった
男は
きっと「悲しみの世代」を
読んだことがなかったのではあるまいか
私は
ポケットマネーでこの本を買い
男に送りつけてやろうと思う
そうしたら
いつか私は
男と笑いながら
酒をくみかわすことが出来るだろう



「悲しみの世代」のコアな部分について
文・まどの一哉

個人的なことを言えば、氏は忘れておられるようだが、
安部慎一氏には2度ほどお会いしたことがある。
75年頃だったと思うが、
当時西調布に住んでおられた
鈴木翁二氏の家へ私が突然おじゃました時、
しばらくして古川益三氏、白山宣之氏らとともに、
安部慎一氏も現われたのだった。
2回目は77年頃、阿佐ヶ谷のお宅へ単独でお伺いしたことがあった。
いずれも時間的には短いものだったが。

当時活躍したガロ作家のなかで、水木−つげラインのタッチを受け継ぎ、
安易なデフォルメや美形キャラクターを用いず、
オーソドックスに(特別実験的な方法を使わずに)
ドラマが展開すると言う点で
もっとも私が理想としたのが安部慎一の表現だった。
セリフまわしがスゴク自然でリアル…。

さて、青春漫画という70年頃特有の分野があって、
永島慎二から始まって上村一夫や宮谷一彦、
鈴木翁二・安部慎一などもそう呼べるのか、
やはり酒と涙と男と女の世界なのだ
が、多くの同世代に共感をもって支持された。
今でも当時の熱烈なファンが一種ノスタルジーとして
作品集を買っているのだと思う。
もちろん太宰系私小説の世界が安部慎一の場合、
あるわけだが、その辺はそのすじの専門家に任そう。

ところが例えば私のように、
青春漫画及び無頼派というものがよく解らず、
当時のはやりの風俗としてあった
四畳半的な世界に対する思い入れというものが全く無い人間でも
安部慎一作品は手放せないんだな。
そこんとこが推薦するミソなんだけど、
そのコアな部分がなんなのか実はよく解らないのです。

ひょっとして狂気?

安部慎一作品の狂気を楽しむ読者も多いようだが、
その分作品としては破綻してるし、
宗教に支配された分、描線が観念的でガサガサしてしまう。
みずみずしい情感が硬直した観念に縛られちゃった。
でもまあ、それが好きという人もいるからな。
ただ、単に狂気自体は読めばわかるけど、
それだけでは芸術的感動に繋がらない。
ああちょっとヘンだなあと思うけど、
人間なんてそんなもんだから。

そういう狂気や青春をも、乗り越える魅力とは、
昔つげ義春が言った作家性なんだろう。
なんだか存在してるだけで始めから挫折しているような、
理念的なものではけっして救われないような在り方に、
かえって救われる気がするんだけど…。
今後研究好きの人に研究してもらおう。

風俗も変わり、若い人間が基礎としいてる情緒が
30年前とかなり違うので、今青春してる人が、
コンビニもケータイもパソコンも無い時代の情感に
入ってきてくれるか不安もあるが、
濃い漫画の世界をぜひ味わってくれ。
これが推薦文だっ!

※まどの一哉氏は、70年代『ガロ』でデビューした漫画家で、
『クイックジャパン』(太田出版)などに短篇作品を発表されている方です。









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