緑と青の地の中にぽつんと人が立っている。説明も指示もない。歩くと暗転。唐突に文字があらわれる。
《 ぺるぜでぶに とつぜん であった 》
画面には、自分と敵と、選択肢。
《 ESP たたかう ふせぐ くすり ちから 》
とりあえず【たたかう】を選ぶとすぐさま次の文字があらわれる。
《 ぺるぜでぶは、みなみにこうげきした。そして13のだめーじを あたえた 》
《 みなみは、ぺるぜでぶにこうげきした。そして1のだめーじを あたえた 》
繰り返し。そしてあっさり終了。歩くとまたぺるぜでぶが登場した。
《 あなたは しにました 》
そして誰かのせりふ。
《 このみじゅくもの!ぜんいん しぼうしてしまうとは! 》
いきなりの叱咤。しかも一人しか出ていないのに全員とは?
「伝説のクソゲー」と呼ばれるゲームが在る。
「星をみるひと」……1987年、ゲーム制作会社HOT・Bから発売されたファミコン用SF系ロールプレイングゲーム(RPG)である。
ネットの声を列挙しよう。まずオープニングの説明がなく何をしてよいかわからない。のっけから最強の敵が出現するが「逃げる」コマンドが見あたらない。身を守る「むら」や重要アイテムが透明で目視できない。移動速度がナメクジ並みに遅い。けっきょく動くことと死ぬこと(だけ)ができるゲーム……。
周知のとおりクソゲーはいわゆるつまらないゲームを指し、80年代中盤「ダメゲーム」「カスゲーム」などの語の拡がりの中で、みうらじゅんが言い始めたとされる。文献としては『ファミコン通信』(アスキー)1986年12月12日号「ゲーム用語の基礎知識」が早い例の一つか。「くそゲー……一般に、目をおおいたくなるようなゲームをさして使用する」とあり、「ここにあげた例は、すべてファミ通編集部でも、実際に使用されてるものばかり……」と紹介しながら「青少年諸君は使ってはいけない」と戒めている。
その主な特質は、まず操作性の悪さ、次いで説明不足などからくる展開の理不尽さや不条理感などであろう。バグの多さ、ゲームバランスの崩壊、流れの悪さによる訳のわからなさ等々……。大小の差こそあれ、総じてこれらは揺籃期のゲームソフト共通の性質であったが、その中で図抜けて理不尽さを喧伝されることはなはだしいのが、この「星をみるひと」なのである。
だがその喧伝はなぜか熱気を帯びている。自家発電の二次創作が流通し、「ファミ通の誌上企画でクリアしただけでやりこみ認定された」という度外れた逸話さえ加わって、さながらエクストリームスポーツのようにこのゲームへの挑戦者は今も後を絶えない。現在「星をみるひと」界隈は、一部ゲームマニアの熱狂的支持を集める特異な磁場となっている。
この作品を生んだHOT・Bは1980年代前半からおよそ10年にわたって活動したゲーム制作会社であった。60以上の作品を発売しながら大きなヒットに恵まれず、バブル崩壊後の1993年倒産した。本稿は「星をみるひと」を中心にこのHOT・Bの足跡をたどり、ゲーム史上に位置づけようと企図するものである。
HOT・Bは1982年11月、東中野丸新ビルにて、広告代理店ファースト・ファーマーズの一部門が独立する形で設立された。社名は自社ゲーム内で表記されている通り「He is Over There.Because・・・」の略であり、ビートルズの一節から抜粋している。まずは現在判明している限り、この会社が制作したゲーム作品を年代順に挙げよう。
1983年
(自社名義製品なし。PCゲーム会社CKSソフトウェアにOEM供給する形でソフトをリリース。他社との共同開発作品を含む)1984年
本格的に自社製品発売開始。初期製品にはGA夢(がむ:Game+夢)というブランド名がつく。1985年
1986年
1987年
1988年
1989年
1990年
1991年
1992年
1993年
開発中止作品