数ケ月がかりだった「マンガけもの道」の単行本作業も終わって、やっとこ発売にこぎつけたわけですが、実際に読んだ方の意見をうかがったところ「5ヤーダー」とともに気になったものとして声が上がったものが、つのだじろう「悲しげな女が踊る」でした。
この本は自分と國澤さんの間で
「困ったときにすがる本」
「ネタがなくなったときの最後の砦」
「ヘコンだ時に読む本」
として、大魔神のように頼りにされてきた、まあ一種の御本尊みたいなマンガなのです。ぼくら古書マンガファンの好きなものが全て詰まってるんだ。
そう、夢や希望や勇気とともに、カラ元気と落胆と暴利もしっかりとつまったドラえもんのポケット。紺とグレーのネクタイ柄みたいなチェックの入った大人のドラえもんのポケットです。普通のドラポケと違って、大人のポケットには角の丸くなった風俗嬢の名刺が入っているのが特徴です。便利な道具なんかではけしてなく、ただの割引券なんだけど!
ページをすこし開けただけでタバコの煙と洋酒の甘い匂い、額のアブラと紺の薄い靴下の混ざったくっさい匂いが漂ってくる。でもこの本を読む前はいつだってどんなときだって、ガチャポン機のハンドルをこれからまわすぞ!というようなドキドキがよみがえってくるのもまた事実なのです。
折り返しで「女シリーズは君の代表作といえる作品ではないか?」と手塚治虫氏にいわれたことがある、と語るつのだ先生。このとき昭和49年、つのだじろうといえば心霊というイメージもガッチリものにしていた頃、しかし青年誌中心に、つのだ氏は夜の蝶と男の社交場をテーマにした「おんなシリーズ」も手がけていたのです。やがて80年代から「心霊+夜の蝶」でビッチシリーズに展開するこれら「おんなシリーズ」は女の孤独、悲しみ、生き様を描いて描いて描きまくって、背中の皮がむけるほどに締め付けてきます。よくよく考えたらマンガにそんなもの望んでないんだけれどナ、と考える間を与えずに
ああ、女がきちゃったよ!
さあ悪夢の始まりです! 覚悟はいいですか! サイフから万札が飛び、万札が飛んだのに愛や夢どころか心にキズばかりが増えるマンガの始まりです! 第一話「瑞枝の手口」。
ネエネエ、とつのだ顔の美女がキャッチして来たかと思うと、男が釣れないと分かるや否や、わずか一コマあとには
「けちんぼっ!」「貧乏人!」「インポ野郎っ!!」と豹変。深夜の渋谷でラップしてるニィーちゃんたちの気の利いたディスよりも直感的でストレートなだけこころに響きますね。キャッチ&リリースならぬキャッチ&ディスです。
それを見ていた
「最低よネ」と常識的な意見を言うかと思ったが、私らだったらもっと上手くやるワ、というもっと玄人衆の登場にあいなっただけでした!
そのやり口もカネもってそうな温厚な男に近づき、3人がかりで男をカモり、最後でもこれだけカネ払ってもまあ一発できるならいいか、と男らが自分を慰めようとしたとたん、「私ナントカスピロヘータの遺伝持ってるの!」と爆弾発言。男は「用事が出来た!」と退散、というなにから何までウンザリする展開が続いた後、女は勝ち誇ったようにこういうよ。
ハイ、男3人ダマして8マン5千円アガリです! と勝ち誇る玄人女。だがその玄人女も、ヒモみたいな男に貢いでダマされてる・・・という、だれもうれしくならないラスト。頬がゆるむどころか、眉間にシワばかりが増えるあんまりな展開です。昭和版闇金ウシジマくんです。
かつて「CDジャーナル」誌で、谷山浩子の旧作がCDで再発されたときの評で「あまりに暗く、当時このレコードを裏返し針を落とすにはそうとうの気力が必要だった」とあったのですが、そんな気にさせるのが「悲しげな女が踊る」。早くもマウスをいじる指が重くなってきたかと思いますが、「瑞枝の手口」、この短編集の中でもっともライトなんですよ。
本領発揮の第2話「ひとりぼっちのミチコ」はこのあとすぐ!
この本は自分と國澤さんの間で
「困ったときにすがる本」
「ネタがなくなったときの最後の砦」
「ヘコンだ時に読む本」
として、大魔神のように頼りにされてきた、まあ一種の御本尊みたいなマンガなのです。ぼくら古書マンガファンの好きなものが全て詰まってるんだ。
そう、夢や希望や勇気とともに、カラ元気と落胆と暴利もしっかりとつまったドラえもんのポケット。紺とグレーのネクタイ柄みたいなチェックの入った大人のドラえもんのポケットです。普通のドラポケと違って、大人のポケットには角の丸くなった風俗嬢の名刺が入っているのが特徴です。便利な道具なんかではけしてなく、ただの割引券なんだけど!
ページをすこし開けただけでタバコの煙と洋酒の甘い匂い、額のアブラと紺の薄い靴下の混ざったくっさい匂いが漂ってくる。でもこの本を読む前はいつだってどんなときだって、ガチャポン機のハンドルをこれからまわすぞ!というようなドキドキがよみがえってくるのもまた事実なのです。
折り返しで「女シリーズは君の代表作といえる作品ではないか?」と手塚治虫氏にいわれたことがある、と語るつのだ先生。このとき昭和49年、つのだじろうといえば心霊というイメージもガッチリものにしていた頃、しかし青年誌中心に、つのだ氏は夜の蝶と男の社交場をテーマにした「おんなシリーズ」も手がけていたのです。やがて80年代から「心霊+夜の蝶」でビッチシリーズに展開するこれら「おんなシリーズ」は女の孤独、悲しみ、生き様を描いて描いて描きまくって、背中の皮がむけるほどに締め付けてきます。よくよく考えたらマンガにそんなもの望んでないんだけれどナ、と考える間を与えずに

ああ、女がきちゃったよ!
さあ悪夢の始まりです! 覚悟はいいですか! サイフから万札が飛び、万札が飛んだのに愛や夢どころか心にキズばかりが増えるマンガの始まりです! 第一話「瑞枝の手口」。
ネエネエ、とつのだ顔の美女がキャッチして来たかと思うと、男が釣れないと分かるや否や、わずか一コマあとには

「けちんぼっ!」「貧乏人!」「インポ野郎っ!!」と豹変。深夜の渋谷でラップしてるニィーちゃんたちの気の利いたディスよりも直感的でストレートなだけこころに響きますね。キャッチ&リリースならぬキャッチ&ディスです。
それを見ていた

「最低よネ」と常識的な意見を言うかと思ったが、私らだったらもっと上手くやるワ、というもっと玄人衆の登場にあいなっただけでした!
そのやり口もカネもってそうな温厚な男に近づき、3人がかりで男をカモり、最後でもこれだけカネ払ってもまあ一発できるならいいか、と男らが自分を慰めようとしたとたん、「私ナントカスピロヘータの遺伝持ってるの!」と爆弾発言。男は「用事が出来た!」と退散、というなにから何までウンザリする展開が続いた後、女は勝ち誇ったようにこういうよ。

ハイ、男3人ダマして8マン5千円アガリです! と勝ち誇る玄人女。だがその玄人女も、ヒモみたいな男に貢いでダマされてる・・・という、だれもうれしくならないラスト。頬がゆるむどころか、眉間にシワばかりが増えるあんまりな展開です。昭和版闇金ウシジマくんです。
かつて「CDジャーナル」誌で、谷山浩子の旧作がCDで再発されたときの評で「あまりに暗く、当時このレコードを裏返し針を落とすにはそうとうの気力が必要だった」とあったのですが、そんな気にさせるのが「悲しげな女が踊る」。早くもマウスをいじる指が重くなってきたかと思いますが、「瑞枝の手口」、この短編集の中でもっともライトなんですよ。
本領発揮の第2話「ひとりぼっちのミチコ」はこのあとすぐ!
中野店 岩井