2006/8/15 12:00以降掲載
まんだらけ 中野店 3F 本店2

終戦記念日に読むべき本たち

8月6日8時15分。

広島市上空にB-29、通称エノラ・ゲイから、原子爆弾「リトルボーイ」が投下された瞬間です。
爆発の中心では熱で鉄が溶けたほどだといいます。 ひとびとの皮膚は焼け爛れ、川にとびこむもそこは既に熱湯だった・・・というまさに阿鼻叫喚の有様だったと聞きます。

この3日後、長崎にも原子爆弾「ファットマン」が投下。
日本にかろうじて残っていた抗戦の意思を砕きました。
翌日にはポツダム宣言を受諾。そして8月15日・・・61年前の今日・・・昭和天皇による終戦宣言がラジオでなされ、日本の戦争は終わったのです。

僕が子供のころはまだ、徴兵、従軍した人や戦争で腕を失った人、親族を戦争で失った人がふつうにいました。 そしてその戦争をリアルに覚えている人から、教科書ではけして学べない、民衆達にとっての戦争、を教わったのです。 お盆で親戚の家に集まったときにも、当時を思い出すかのように、誰ともなく大戦の話をしていたのを覚えています。

いつのことだったか、お盆に親戚が集まったとき赤紙(召集令状)の話が出たことがありました。
当時実際に赤紙を受け取った人たちのする話は、僕らが持っている赤紙の知識とは比べ物にならないほど重く、暗いものでした。

戦後50年を越えた頃から、昭和以前に生まれた世代・・・つまり戦争を体験した世代が存在しない家庭が多くなり、 口伝による戦争体験の継承は途絶え始めます。 戦争を知るには、書物やデータに頼るほかなくなってきました。
歴史的事実や時系列などは書物やデータでかまわないと思うのですが、 その時代に生きた人々が感じたこと、生の声や体験は、この先データに残ることなく埋もれていくのです。 子供のころ、じいさんがする戦争の話ど辛気臭くて嫌いでしたが、今となっては耳を傾けておけばよかったとしみじみ思います。

広島と長崎における原爆体験はそれでも、多くの人の努力によって世代を超えて継承されています。そのひとつが、「はだしのゲン」。

このマンガは、マンガであるにも関わらず、多くの学校の図書館に置かれつづけました。
小学校、中学校、時には高校の図書館にも。 そしてマンガだ、というだけで「はだしのゲン」に手を伸ばす少年たちに大きな衝撃を与え、 そしてその凄惨極まりない描写は、心に残る小さなササクレとなって残っている人も多いでしょう。

図書館に置いてある「はだしのゲン」は、背が弓状に曲がり、糸で補修され、 腹は指汚れで茶色になっていた記憶があります。
それだけ多くの人が読み、触れた本。 そして多くの子ども達に戦争の悲惨さと不条理さを訴えつづけた本。
戦争の実体験が家庭で継承し得ない現在でこそ、読み継がれないといけない本だと思います。

アジア近隣との関係が悪化し、右傾化を危惧する声もまた高くなっている昨今。 感情的になって叫ぶ前に、戦争の本当の苦しみを知らなければなりません。

図書館にあったオレンジ色汐文社版は今でも大きな書店に行けば手に入りますし、中央公論社版の文庫も入手可能です。

今回は、ヒロシマ・原爆関連の本で、8月15日に読むべき本をセレクトしてみました。


「はだしのゲン」集英社文庫版 全5巻

汐文社版で全10巻ですが、集英社文庫版は諸事情あって5巻で未完になってしまっています。 妹の友子が死に、ゲンの頭に毛が生えてきて完、という非常に中途半端な終わり方。 ゲンの生きるための苦しみはむしろここから始まるのです。
ここで終わるとは何事でしょうか。当時の集英社の体質を疑います。カバーヤブレありで1050円。

「はだしのゲン」絵本版

こちらも小学校に常備されていた「はだしのゲン」の絵本。
原爆投下後の広島が無残絵さながらに描かれています。
ガラスが刺さった人、黒焦げの死体、特高の拷問や沖縄の悲劇などがこれでもかと表現され、 ふだんふつうに与えられている平和という状態のありがたみを感じさせずにはいられません。1575円。

「はだしのゲンはピカドンを忘れない」岩波ブックレット

はだしのゲンの作者、中沢啓治氏による、原爆の実体験手記です。
小学一年のときに広島で被爆。 原爆のさなか母が産気づき妹を産み落とした、 というゲンにも出てくる有名なエピソードは実際にあったことだそうです。 あまりに生々しい原爆の被害の描写で、初読時は首の裏がずっと震えっぱなしでした。

被爆して全身やけどを負った人がいくら「水をくれ」と訴えても、水を飲みおえると同時に、 ホッとして延命への執念の糸が切れ、みな死んでしまうので、ヤケド者には水を飲ますなという噂が広まった・・・とか、 全身ヤケドを負った人たちは畑の野菜の上がひんやりして気持ちいいことを知り、みなそこで倒れていたとか、 戦後すぐアメリカの原爆傷害調査委員会ことABCCが乗り込んできて核戦争を想定して被爆者のデータを広島で採取しまくっていたとか、 「8月6日に広島にいた」人でしか知りようがないエピソードばかりです。315円。

「ピカドン」

木下蓮三、木下小夜子らによって製作されたアニメ「ピカドン」のフィルム映像集です。 8月6日の悲劇をドラマチックでも静かに描き出しています。

僕はこのアニメは見たことがないのですが、中学校など学校でよく上映されていたそうです。 子供を抱いた母親が、一瞬で赤いゼリー状の死体になってしまうシーンは涙なくしては見れません。1575円。

「夕凪の街 桜の国」こうの史代

戦後多くの日本人が「ヒロシマ」そして「原爆」を意識的に避けつづけ60年たちました。
そのことに不自然さを感じた筆者・・・被爆者でも被爆2世でもない、 原爆を経験していない世代が・・・もう一度自分の住む町に起こったことを振り返って描いた物語。

日々を普通に生きていた人にとっての原爆、そして放射能の恐ろしさ。淡々と描かれる日常から、突如終末に。 たった35ページの短い物語ですが、読み終わったあとの切なさはそのページ数の何倍もの量で襲ってきます。
多くの人に読んでもらいたい良作です。420円。

「原爆はわたしにとって、遠い過去の悲劇で、同時に「よその家の事情」でもありました。 怖いということだけ知っていればいい昔ばなしで、何よりも踏み込んではいけない領域であるとずっと思ってきた」

「原爆も戦争も経験しなくとも、それぞれの土地のそれぞれの時代の言葉で、平和について考え、伝えてゆかねばならない」

・・・こうの史代さんも、こうあとがきで触れていましたが、 原爆に関してはどこかよそよそしい態度を僕らはとってきたのだと思います。 そしてそれが不自然なことをしりつつも。

終戦記念日である今日は、平和を享受していることのありがたみをもう一度かみ締めるため、これらの作品に是非触れてください。

(担当 岩井)

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