まんだらけ中野店 4F 大予言処世術としての中国拳法

甲「中国拳法の素晴らしさといふのはね、武術と養生術が完全に一致してることなんだ。
つまり、武術の鍛錬が同時に健康法になるんだね。
しかもその健康法といふのが「気」をベースにしてゐるから肉体だけなく精神的な健康も得られる」

乙「それは確かに凄いことですね」

甲「そもそも武術とは護身術であって、護身といふのは何も不逞の輩から身を守ることばかりをいふのでない。
そんなことは普通に生きてれば何べんもあることではない。
それよりも病気や怪我から身を守ることこそが本当の護身術といへるのではないかな。
さういふ意味では現代の格闘技といふものはゲームの勝敗のみを至上の目的として、そのためにカラダを酷使して壊したり、メンタルヘルスのお世話になったりするのだから本当の意味の護身術とはいへないね」

乙「なるホド、護身術とは対人だけでなく精神肉体の病気や不調から守ることも意味するんですね」

甲「といふか寧ろそっちがメインだね。
生きることがメイン。
格闘技術はその手段の一つに過ぎない、といふことだよ。
要は処世術の一つなんだね」

乙「処世術ですか？」

甲「中国拳法のある流派では実戦では本気で殴らない。
なんでかといへば本気でやれば相手に怨恨が残って後日面倒くさいことになるからなんだ。
本当の実戦といふことを考へたら、その場限りの勝敗にとらはれては不可ないんだ。
その場で勝ったとしても恨みを買って、後日集団で仕返しに来られたらどうしようもない。
処世術とはさういふことですよ」

乙「ずゐぶん消極的ですね」

甲「消極的でいいんだよ、闘ふことは最後の手段なんだからね。
危険なところには近づかない。
闘はないで済むのであればそれに越したことはない、といふこと。
それが中国拳法の処世術であり、その背景には老荘のタオイズムがある」

乙「タオですか」

甲「中国人は建前は儒教で、本音は老荘だといはれるが、その本音の部分をよく表してゐるのが中国拳法だと思ふ。
生き残ることが第一。利他よりも利己。
自己保身が最優先」

乙「さう云ってしまふとあんまり印象が良くなくなりますね」

甲「それは皮相な見解だよ。
かういふドライな処世術が生まれた背景には中国の治乱興亡四千年の歴史があるワケで、良いとか悪いとかの問題ではない。
アナーキーで自己中心的ともいへるが、結局自己犠牲をする価値のある帰属対象もなかったといふことだらう。
それに比して日本の武道といふのは「山行かば草生す屍」の滅私奉公の伝統があるから、中国拳法に比して自己保身術の面は弱いだらう。
人は優劣を付けたがるだらうが、そんな簡単なもんぢゃない。
どっちにも相応の意味と背景の歴史があるんだからね」

乙「優劣といふのは？」

甲「たとへば中国は個人主義に基づいた養生術が発展してゐるが、日本は全体主義的な伝統があって劣ってゐるとか、逆に日本には公共心があるが中国は自己中心的で公共心が無くて民度が低いとか、さういふ論旨のこと。
往々にして人は何かしらの思惑でさういふ優劣をつけたがるけどナンセンスですよ。
どちらにも学ぶところがあり、そして養生と武術の一体といふことについては中国拳法に如くはなし、といふことです。
なんであれ不定愁訴や慢性病、メンタル面の疾患が増加してゐる昨今、中国拳法の養生面からもっと学ぶべきだよね」

了

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(担当山口ケン)