岩井の本棚 「マンガけもの道」 第6回 |
思春期のカルテ
女性の方にはあんましピンとこないかもしれませんが、あえて断言すると、エロ本とは男の夢、といってもよいです。ここで言う夢、とは、自分が見たいもの、したいことをかなえてくれるという意味で。
思春期から老人まで、その男のいろいろな妄想をきちんとしたカタチにしてくれる。それがエロ本です。
ただ、普通にきれいな女性のハダカを見たい人から、もっと細かな注文をしてくる人まで様々ですので、しぜんエロ本も細分化されます。
例えば、世間の人には目の届かないような所にあるゲイ雑誌でさえ、様々な趣味とタイプで分別化されており、本人の嗜好で細かく選ぶことができるのです。
最初に総合誌がやっと誕生したとして、やがてそれだけでは読者の嗜好を抑えきれなくなり、 じゃあつぎはもっと男臭のつよい男ばっか出てくる本があればなあ、体毛の濃い男ばっか出てくる本があればなあ、 いや、豊満な中年ばかりの本があってもいいなあ、いや、むしろリアルショタを・・・と世間の要望に答えていったらいつのまにかこうなったのです!
これを変態、と一言で済ませてはいけません。
あえて言うなら男のファンタジー。
それも毛の生えたファンタジーです。
「カルテ通信」というエロ本があります。
女性が診察されたり、検診されたり、もしくは医者に凌辱されたり、そんなのが延々と掲載されているという濃ゆいエロ本です。
日本でもどれだけそういったのにエレクチンする男性がいんのかわかんないですが、 こういったマニア系エロ本では老舗というか、確実に需要がある(だからこそ続いている)雑誌です。
(図1)
妙にリアルな女医
(図2)
診察気分全開
(図3)
照れる
(図4)
恥らう
(図5)
みんなに見られる
(図6)
あわててパンツをはく
(図7)
え?浣腸!?
(図8)
また照れる
「思春期のカルテ」(亜良樹久文)がそれです。たぶん女医さんとかが男を誘惑するんでしょ?とか、女の子が男の医者にいたずらされんだ、と思った人はハズレ。
本当のマニアは何で興奮するんだろう、と考えると、上記のような安っぽいセルDVDみたいなストーリーであるはずがありません。
このマンガのすごい所は、非日常がほとんど出てこない点です。やっていることは、診察のみ。
診察・・・?
それでエロマンガになるの?なるんです、これが!
主人公が常軌を逸したはずかしがりであれば、診察は立派な羞恥プレイになるのです!
収録作「メイ・シック」からその有様を見ていきましょう。
主人公は一人暮らしをはじめ、知り合いの叔母のやっている個人病院に行くところから始まります。
図1。ノドの検診。診療マニア向けカット。
エロ本的にはまったく必要のない箇所です。
図2。聴診器を当てて、胸、背中、腹をチェック。
胸をチェックするのにブラを取らない非サービス精神に「わかるやつはわかんだろ」という姿勢が。
さあここからエンドレスの恥じらいシーンです。
図3。ズボンを脱いでる最中に看護婦が現われて恥ずかしがる主人公。
図4。風邪薬をおしりに注射するわよ!といわれて、狼狽する主人公。
図5。他の患者におしりを見られてるのに、注射中だから動けない主人公。顔は真っ赤。でもしり丸出し。
図6。あわててズボンをはく主人公。あたふたって擬音、つかえますね。
後日、おなかが痛くなったのでもっと大きな病院に行きます。
図7。「浣腸してみよう」に動揺し、指の先がぴくっと動く。
で、浣腸シーンはいやらしいので省略して、
(図9)
ウンコ内容報告説明会
図9。ウンコの内容物をみんなの前で看護婦に報告され、恥じ入る主人公。
でも結局、浣腸しても痛みが引かなかったので、直腸に造影剤(バリウム)を入れてX線で調べることになります。
図10。肛門にバリウムを入れる管を入れられ、恥ずかしがる主人公。
(図10)
また恥らう
がまんできずにバリウムが放屁とともにはじけだす、なんだかよく分からない見せ場。図11。
放屁の音を聞かれた上にバリウムを撒き散らしたことでこの上ない恥ずかしさを受ける主人公を、めっぽう事務的な口調で医者が慰める。図12。
とにかく主人公、恥ずかしがりすぎ。ほとんどのコマで頬を上気させ、てれているマゾ娘。男って本当にいやらしいわ。
そしてラスト。
「一人暮らしを始めて、環境が変わったので精神的な疲れが出てきて、身体に変調をきたしたのね」と叔母。「まァいうならば・・・」 「メイ・シック(五月病)ね」図13。
えええ〜〜〜???!!五月病、で終わりですか!!!
五月病がこうじて浣腸された、なんて聞いたことないですよ?
(図11)
とんだスカトロ
(図12)
恥ずかしくてもう死にたい!
(図13)
とぼけたラスト
医療器具もやたら細かく描いているし、きちんと薬品名も出てきます。
医者の事務的な口調も雰囲気あります。
でもやっていることといったら、とにかく主人公が何かにつけて恥ずかしがる、顔を真っ赤にする、うんこをするといった、別に事件になりそうなことは一つもない。
お医者さんでは普通のことばかりです。
ここで考え直して欲しいのですが、何の事件もないのにもかかわらず、エロ話として40ページ仕上げ、医療マニアにご納得いただけるか、という部分です。
そういわれると生半可なヒトではこれができるとは思えません。
絵的にはシロウトなのですが、その医療的な部分の細部へのこだわり、妙に恥ずかしがるマゾ娘がこれを「エロ話」足りうるものにしているのです。
実録ルポみたいになっているのはこの話だけで、あとはたいてい患者のエロ妄想と浣腸ネタです。
が、絵はひどく下手。しかしどれも「医療への熱いこだわり」のみは強く感じられます。
おそらく日本でこれ以外にはなかろう「診察エロマンガ」。
この作者の「亜良樹久文」って、どんなヒトなのか?おそらくは医療関係者でしょうが、相当おかしなことになっているヒトです。
こんなヘンなものを描く奴も描く奴だが、きちんと単行本にしてあげる出版社もすごい。エロ本界の奥深さを感じます。
余談ですが、ちなみにこのネタを持ってきてくれたのはマニア館のKさんです。
Kさんは「メイ・シック」を紹介する時に 「最後のコマ(図13)で、つげ義春の「李さん一家」みたいな読後感が味わえます」といって渡してきました。
・・・浣腸恥辱診察マンガが「李さん一家」・・・?
しかも聞き及ぶ所によるとKさんはこのエロマンガに感動し、奥様にも見るように強要したとか。
本当の変態・・・あわわ、エロに関してセンシブルなひとはちがうなあ、と「かなわない」人を目の前にするといつも思います。
※この記事は2004年10月27日に掲載したものです。
(担当岩井)