岩井の本棚 「マンガけもの道」 第14回

コストパフォーマンスのよいマンガ


(図1)
メガネ、顔に密着しすぎ


(図2)
いや雀ゴロぽいすよ


(図3)
ビール瓶がカッコいい


(図4)
カルタみたい


(図7)
歩くとゴワゴワしそう


(図10)
写植はやはりいい


(図11)
ネクタイ細いなー


(図12)
すごい異種格闘技


(図13)
せいぜいキンコンがなる程度ですね


(図16)
奥さん「ああ〜」ってことないだろ


(図17)
F1もたいしたことないですね

いま「DEATH NOTE」は新たな章を迎えるに当たってお休みをしている最中ですが(3月現時点)、掲載されていないジャンプを見ると、物足りなさを感じる方多いんじゃないでしょうか。

しかしデスノートクラスの超ハイレベルなものが休みなく週刊できちんと掲載されつづけるのが実は奇跡なのです。

マンガというのはだまってりゃフツーにアレくらい美麗なものが休みなく一週間ごとによめるんだ、と勘違いしてはいけません。
原作者がべつに存在し、さらに小畑健の技術に、そして多数のアシスタントの夜を徹しての苦闘があってこそ成立するものなのです。

一週間にかける人件費を計算すれば、1週分の原稿料をどんなに高額にしても割あうものではなく、大ヒットが計算されなければ不可能な、特別中の特別です。

いささか極端ですが、これからも分かるように、現代では公示される作者名はひとつでもマンガ製作自体が集団作業であることは常識です。


(図5)
浮いてるの何?


(図6)
ナイフの位置がおかしい


(図8)
写植、最高!


(図9)
尻でけーなー


(図14)
カレーくらい食わせれよ


(図15)
すれちがいざまに手榴弾


(図18)
酔拳のような動きですね

しかしかつてマンガが個人作業だった時代は、作品の出来具合と労力の兼合いをハカリにかけ、そこそこで投げておくこともヨシとされてたりしました。
C/Pつまりはコストパフォーマンス優先というやつですね。
編集側もヘタに時間をかける芸術家肌のマンガ家よりも、 早くてまぁそれなりの作家を好み、また読者も「なんだ、すげぇ手ー抜きやがって」などとは思わなかったりします。

基本的なスタンスとしてはC/P比最優先。
これはマンガに関わらず娯楽作品の鉄則だと思います。

今回は娯楽に徹した、CP比を考えすぎたがために、いい意味で手ェー抜いた作品群を紹介していこうと思います。
・・・まあ絵を描くので手一杯なので、設定とかの不合理をチンタラ考えてられなくなっただけなのかもしれませんが・・・。

「さすらい雀鬼」。
昭和52年作。いまから27年前。
もうこのジャケからして最高。
この電車面長ですね、車輪も線路も見えないよ(図1)。
オンナは設定だと混血の黒い肌なのに塗り忘れてます。

冒頭のでだし「雀ゴロではないが麻雀を仕事にしている」(図2)もっとガッついて説明しろよってくらいに淡白で、何の仕事だかサッパリわかりません。

麻雀が行われている大広間は遠近感がおかしいし、ビール瓶の形も爆発しそうで不穏です(図3)。

この木の皮みたいなのが麻雀牌? 平面的ですね(図4)。

ビシュはいいとして空中に浮いてる麻雀牌、なんなんですか? いきなり浮かれても分からないよ(図5)。

この2コマ特に遠近感ないですね、男小さいなー(図6)。

そしていざ斬りつけて見たら、女はトレンチコートの下、いきなり下着(図7)。
で気を失って気がつくシーンに、描き文字じゃなくて写植で「桂子」「桂子」、すごいトリップ感ですね(図8)。

恋人の借金のカタにレイプされた娘、ワンピースの下には下着すら着てないし、相手にお茶まで出してる(図9)。

やられる気マンマンじゃないですか。で、最後はその恋人をぶっ刺すんですがその緊迫感もセリフが写植で台無し(図10)。

麻雀技術的なことはぜーんぜんわかんないので置いておくとしても、主人公の女はヘマばかりしてメガネの師匠に助けられてばかり。それでも雀鬼かよ。

あと表紙の電車は物語に一切登場せず関係なかったことにも驚かされます。

「非情のコクピット」(図11)
昭和53年作。
せっかくポルシェターボに乗っているのに、競争相手はなんとデコトラ(図12)、ぶっ飛ばすぜ! とイキがってみてもたった150キロ(図13)。
なんなんですか、宝の持ち腐れ感は大ですね。

ドライブインで姉ちゃんの尻を触ったりカレーライス喰ったりしてるだけでも「一癖ありそうな奴」との手厳しい評価(図14)。

対抗車線のフェラーリがポルシェ相手に手榴弾を投げつけるのも治外法権的ですが、何もそんなめだつ車で攻撃しなくてもよかろうに(図15)。

いきなり奥さんを犯そうとするが、やっぱり奥さんコートの下なんもつけずにノーブラだし。やられる気マンマンじゃないですか(図16)。

アクションシーンも見ものです! 全速で走ってきたF1をジャンプしてよける主人公。すごい反射神経ですね(図17)。

ギャングに襲われたときも3人一緒にやっつけてる、でもどういう動きなんだか絵を見てもまるきり分からない(図18)。

全篇通じてマシンガン、ピストル、手榴弾にダイナマイトが登場、何で日本なのにこんなに銃器が氾濫してるのか。日本の警察は無能ですね。


(図19)
ハートウォームなジャケ

次。「ダンプ野郎」(図19)。
昭和52年作。
・・・もう誌面もつきましたので、内容にふれなくてもよい気がしてきました。
もうこのホンワカムードにあふれたジャケットの最高さと、人を小バカにしたタイトル。
実際のトラッカーたちはこれ見てどう思うんでしょう。

前2作と同様、背景描かずに色でも塗っときゃ空間埋まんだろとでもいいたげなスッカスカなジャケ。
手を抜くのに躊躇ナシの思い切りのよさは見習いたいですね。もうタイトルとジャケだけで「買ってよし」と思えるヘタレな完成度です。

何が凄いってこの3作品きちんと原作者ついてる、つまり物語は人任せなのにも関わらずこの出来栄えです。

よくプロの仕事で口にされるたとえ話で、「抜きどころを覚える」というのがありますが、 ここまで抜きどころだらけ、抜き放題に抜かれると、じゃあいったいどの部分でテンションが張り詰めてたんだ、と具体的にページを例示して欲しいですよね。

でもこの3つ読んでみたら、なんていうんだろう。一応ストーリーもあるし人物もたくさん動いているのに、何一つ後に残るない、アトクサレのなさがいいですね。
もう僕「さすらい雀鬼」の主人公の女の名前忘れちゃったくらいですから。
テレビ東京の3時くらいにやってるダメ洋画くらいのどうでもよさ、手の抜きかげんが逆に気持ちよいです。

こんなダメ麻雀マンガ、自動車マンガ、本店2にはけっこう置いてありますよ。
ジャケでピンと来たら、中野店3F本店2へ!

※この記事は2005年3月12日に掲載したものです。

(担当岩井)

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