岩井の本棚 「本店レポート」 第23回

チコと犬と生白いショーン・ペンの尻






本店レポート19回にでてきた「二十面相の娘」主人公のチコも僕は大好きですが、もう一人の「チコ」の話をしましょう。

本店2の入って正面の通路の右最下段の棚が僕の持ち棚であるL7-8です(詳しくは「マンガけもの道第28回」へ)。 このL7棚は何を置いているコーナーかというと戦記モノコミックのコーナー。

戦記コミックは日本海戦ものや架空戦記ものが大半ですが、このジャンルはさほど動かないタイトルが多いのが実際のところです。
一線を退いた作家や、旧ビッグコミック系の作家などが多いからか作家のファンが買うものでもなく、読者層が年配の方という事情もあります。 参入している出版社も限られており、隆盛しているジャンルとはいいがたいですね。
まあつまり僕のL7-8棚はそういう棚なんですね。動きのない棚のしかも一番スミにあるという・・・。

しかしそんな戦記をとりまく状況で、熱心なマニアがつき、静かに売れつづけている大ベテランがいるのを知っていますか? それが小林源文さんです。 中古流通自体が少ないこともありますが、まとめて入荷することがあるといつのまにか売れてゆく印象です。装丁違いや旧装を集めている方もいらっしゃるようです。

小林源文といえばWW II ドイツ戦車隊の戦記で有名ですが、ベトナム戦記ものでも傑作があります。
巻数モノが少ない氏の作品の中で、現在もシリーズ刊行中の「CAT SHIT ONE」シリーズがそれ。

日本ではベトナム戦記ものはさほど人気がないのか、あまりマンガのテーマに選ばれたものはありません。

対ゲリラ戦、舞台もジャングルが多かったからか、戦闘車両もM113に代表される装甲車がメインということもあり、AFVモデラーにも人気はいまいちです。

一般的にも長く陰鬱な70年代、冷戦下の代理戦争、ゲリラに悩まされた米軍と枯葉剤、ソンミ村、アメリカの凋落・・・という負のイメージが強く、 「プラトーン」から「ハンバーガーヒル」に至る映画におけるナム戦回顧の動き以降、 日本では「フルメタルジャケット」が熱狂的なファンを持つ(ネタ的に)以外は、一過性で終わってしまいました。

「CAT SHIT ONE」はそんな、思い返したくない戦争であるベトナム戦争を、兵卒の立場から見据えた傑作です。

主人公たちは人間ではなくすべて動物。
米軍はウサギ、ベトナム軍はネコ、中国軍はパンダ、フランス人はブタ・・・というように国民性や象徴からの動物化がされています(ちなみに日本人はサル)。

ウサギやネコに兵隊が動物化・・・と聞いて、ファンタジー的なものを思い浮かべる人もいるでしょうが、 ウサギもネコも至ってリアルな造形で、血も流れるしバタバタと倒れていきます。
キャラこそ動物ですがやってることは戦争。
多くの兵隊が虫ケラのようにバッタバタと死んでいきますし、政治的な思惑が左右して多数の国が介入。 米軍にとっては誰が敵か分からない状況に。
しかしそんな米軍も政治的な利権が目的で内戦に介入しており、正義のためになんてのはコレッポッチもナイ状況。

そんな戦争に、百戦錬磨のパッキー、軽口だが傷つきやすいラッツ、 お調子者の通信兵ボタスキーの3人で構成されるベテランの偵察&索敵チーム「キャット・シット・ワン」がテト攻勢から終戦まで関わっていく・・・。

休暇中に作戦に駆り出される、情報漏れでヒドイ目に会う、捕虜になる、 やっとの思いでとれたアメリカでの休暇も、反戦運動のあおりを受けて、市民からは人殺し扱いされる・・・と、 末端の兵卒が感じたであろうベトナムのヒドさと閉塞をあますところなく描いています。

正しかろうが正しくなかろうが、命令である以上、作戦は成功させるしかない・・・末端とはそういうもので、 その理不尽の中で多くの若者がバタバタと虫ケラみたいに死んでいく。それがたぶん戦争なんでしょう。

3巻ラストでキャットシットワンの3名は自分達の意志で作戦を放棄。
長かったベトナム戦争も米軍の撤退で終結に向かう・・・。
物語はさらにパッキーの秘密に触れ、ベトナムと隣国カンボジアのその後(ポル・ポト暗黒期)の補足を含めた外伝「CAT SHIT ONE vol.0」と、 ソ連にとってのベトナムと称されたアフガニスタン侵攻に触れた「CAT SHIT ONE 80's」へと続きます。
現行で発行されている単行本ですが、全5巻揃うことはなかなかにマレなので、この機会に。



さて冒頭の「チコ」。
チコはベトナムの山岳民族で、共産化に反対する立場からアメリカ軍に協力する部族の長。ベトナム人なのでネコです。
アジア人を蔑視し信用しないボタスキー(彼もアフリカ系アメリカ人というマイノリティで、 レイシストでもある)は当初チコを嫌っていましたが、危機を救ってくれたチコを信用するように。勇敢なチコは軍にも一目置かれる存在だったのです。

ラストアメリカ軍が撤退という時には、ベトナムのこれからを案じるチコとキャット・シット・ワンの3人が餞別を渡そうとするが、 チコは「俺金じゃない みんな友達!」と受け取らない・・・すべてが打算と権益で行われていた澱んだ戦争の中で描かれた真の友情が泣かせます。



余談ですが動物化は、ドイツが狼、イギリスがネズミ、韓国が犬です。
フランスがブタなのはベトナムの宗主国で搾取してきた歴史を踏まえてでしょうが韓国が犬っていうのは・・・共食いですか?

もうひとつ余談ですが、ベトナム戦争時に自衛隊が極秘裏に一部隊員を派兵してた・・・との描写があります(源文作品の定番キャラ・佐藤・中村コンビも)。
これって時効ですか、時効ですよね・・・。

ベトナム戦争にはいやな思い出があります。
学生時代、ちょっと好きだった女子と同じ時間帯講義がなくヒマだったのと、映画の日で安かったので誘ったところ、快くOKが。 だけど時間帯的にすぐ入れるのは「カジュアリティーズ」という映画だけ。

ふたりとも新聞の予定表を見ただけなので「マイケル・J・フォックスとショーン・ペンが出てるってよ」くらいしか事前情報なく入ったのですが、 この映画、アメリカ軍がベトナムで現地人をレイプしまくり、それを正義ヅラしたJフォックスが告発する・・・というまあたいそう暗く怪訝な作品で、 女子連れで観にいくには最悪の映画でした。 ショーン・ペンが生白いケツ出して女をレイプしているところしか思い出さないくらいです。

映画を観にいったあと「あーあ。こんなの見るんじゃなかった」とまでいわれたのを覚えています。
そのためベトナム・・・と聞くと「ああオレ初・女子との映画が米兵レイプシーン満載でフラれたんだよなあ」とムダに傷つくハメになってしまいました。
みなさんも安いからといってロクに確かめずに飛び込んだりしないように気をつけてくださいね・・・。

キャットシットワン・5冊セット3150円。本店 II ショーケースにて。
※この記事は2008年8月11日に掲載したものです。

(担当 岩井)

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