岩井の本棚 「本店レポート」 第25回

誰これ何これ目が光るドンちゃん ミニノートの世界

僕が中学生の頃までは、文房具と日用品と雑貨を同時に扱うような個人商店 ・・・たとえば夏になると捕虫網を、冬になると灯油のポリタンクを売るような・・・ が、けっこう残っていたように思いますが、多くは儲からないので、店主の老齢など、代替わりのときに店を閉めてしまいました。

今でも店を開けてるところも少ないながらもありますが、こういった店は棚落ちした玩具をそのまま扱っていることもあるので、デッドストック探しに車でグルグルと地方の個人商店を回った方も少なくないと思います。

そういった店では文房具もエンピツ一本単位で売ってたり、竹ヒゴ一本10円とかかんしゃく玉一袋20円とか単位がめちゃくちゃ細かで、儲かってるのかなと子どもながらに疑問でした。
僕が小学生のときに遊びに行った茨城では、洋品店の片隅にそういった雑貨コーナーがあり、セーターやブラウスといっしょに爆竹や銀玉鉄砲が売られていました。 当時は不思議に思わなかったのですが、そこの店で母親と子どもがいっしょに買い物をしたら、ブラウスと爆竹が同じ袋に梱包されるわけで。それはよく考えたら異常ですね。

そんな雑貨屋でよく売られてた文具が、ミニノートです。
おおきさは若干普通のノートより小さく、中は無地。 駄玩具屋に近い弱小文具メーカーが作っており、ちゃんとした学習帳的なノートとは違って、表紙がマンガやアニメのものも多く、学校には持っていけない玩具っぽいノートです。らくがき帳に近いですね。
そう、傾向的には「マンガけもの道 第23回 なめ猫ぬりえ」の方向でしょうか。

(図1)


(図3)


(図4)


(図5)


(図7)


(図9)

今回マニア館の國澤さんからそんなミニノートをいくつか見せてもらいましたが、絵柄があまりに意味不明でビックリしました。アレ? こんなにアナーキーな絵柄だったっけ?

図1。「ろばとおやこ」。
ロバが足をヒモで縛られて川に落とされ、橋の上にいる親子は丸太ん棒を持っている・・・という、とりあえずホノボノとは無縁の不穏な空気が漂ってくる表紙です。何があったのでしょうか? 中を読めば寓話が1ページ入っており、ああこういう話かと分かるものの、ほかに寓話はいくらだってあるだろに。 よりにいってこんなシーンチョイスをする意図がつかめません。残酷ですね。


(図2)

ウームと思って表3をみると、この残酷な絵を塗り絵にせよという(図2)。塗らない、塗らないよ。

この手のミニノートは必ずといっていいほど塗り絵があるのですが、この塗り絵の裏、表4、つまり裏表紙がコレです(図3)。
かわいいろばさんとつくりましょう、って、そのかわいいロバ、ずいぶんペチャンコだなー。ペガッサ星人かと思いましたよ。

まあ折ればロバになることは丸分かりですが、死んでるようにしか見えません。
かわいいろばはいいけど、そんなにかわいきゃ川に沈めなきゃいいのに!

あと表4にコレがあるということは、これを作ると表3の塗り絵が穴だらけになるという欠陥っぷりも素晴らしい。

次がコレです(図4)。「ひとみ」。
花が咲き乱れる中、原色の服しか着ない子どもたちが踊り狂う。
サイケデリックですね。幻覚剤的です。

ポージングもビートたけしの「冗談じゃないよ」をしながらバレエのようにつま先を伸ばして足を高く上げるという、日常生活でどんな瞬間にこういうポーズをしてたら周囲が納得するんでしょうか。不自然すぎます。

ぼくだったらこんなポーズは「気がついたら足の親指にゴキブリが!」って瞬間くらいしか、こんな姿勢にはならないですね。
表2表3にはぬりえがあり、表4はきせかえ(図5)。

(図6)

しかし実際にコピーして作ってみると腕が4本になり、パンツの片方のすそから足が2本出るというデタラメさです(図6)。 表紙はこんなにサイケ調なのに、中の塗り絵がみんな和服、というのも解せませんね。

お次は(図7)。
ショウワノートが作ってるだけあって、ちゃんとした版権品ですよ? 怪物くん。
確かに表紙は藤子A先生が描いてると思う。しかし表4のこれ(図8)、なんかおかしいですね。

(図8)

特にオオカミ男。瞳孔は開いてるし、鼻に穴あいてるし。完全に意識飛んでますね。フランケンのこの小さいの、だれ? 弟のグレンケンってこんなカンジでしたっけ? あと怪物くんが一番下っ端に見える。王子なのに!

次はミニノートではなくメモ(図9)。
版権品だからジャケはカッコイイ。だけど本来の目的、つまりメモとしてホントに使うとなると、この本文のブキミさはどうなんでしょうね(図10)。

(図10)

クモ男の絵が入ってるメモをお母さんが買い物用に使うとこんな感じになりますが(図11)、まあ全然ホノボノしないですね。むしろ暗号文みたいです。 うっかりポッケにいれて歩いてたら、油揚げとはダイナマイトのことだろう!とか官憲にツッコまれますね。

(図11)


(図13)


(図14)


(図15)

ラストが僕の大のお気に入りの「ドンちゃん」です(図12)。

(図12)

会社は文運堂というところ。ジャケ全面未来少年みたいな子どもで、なぜか目に未来都市と宇宙船が映ってる! テクノっぽい! かたすみには

「ぼくの〈ドンちゃん〉」

とありますが、何のキャラクターなのか全く分かりません。
しかし本文から分かるのは「ドンちゃんは目力がある」ことです。

表2(図13)。塗り絵部分ですが、目が光ってます。ていうかビーム出してます。

表3(図14)。ドンちゃんのかきかた、ですが、マルを描いてあたりをつけたあと、正面図を描く方向に行きません。横顔を描きに行きます。 なんで? と思ってたら4コマめで氷解。ああ、目でビーム出すためだね! 3コマ目から4コマ目での飛躍がいい。マルを描いてるのに、めっちゃアゴとかハミ出てるのもずさんだ。

表4(図15)。今度は左右に光線ビカーって出してて、宇宙船がライトアップされてます。 ここで図12を思い返して欲しいのですが、ここでアレが目に写ってるのではなく、ビームで映し出してるんだ・・・ということが分かりますね。

・・・いやいや、それ何能力? 何で光らせるのにこんなにこだわるの?

不思議におもって「文運堂 ドンちゃん」「ぼくのドンちゃん」「ドンちゃん 目が光る」なんて検索をかけたのですが、思わしい結果はでません。 全ページ見ても情報が何も載ってません。分かってるのは名前だけです。

まあ「ろばとおやこ」「ひとみ」もそうだったんですが、零細メーカーは版権使用料なんて払えないから、 マンガチックなオリジナルキャラで無理矢理押し通すことが多いんだけど、ドンちゃんはそのいじましさからはちょっと違う方向むいてる気がする。未来的過ぎます。 オリキャラで攻める気マンマンじゃないですか。

たとえば「怪物くん」は見るからにこどもっぽいので親からもウケがいいと思うのですが、上記4種を並べて迷わずドンちゃんを選ぶ子どもはひょっとしたらマズいのかもしれません。 ちなみにぼくは、小学生のころでも今でも、迷わずドンちゃんを選ぶのですが。

ドンちゃんに関しては、ホント何者なのか誰が考えたのかとか興味が尽きません。誰か知ってたら教えてください。

ミニノートは無版権モノが多いので、意味不明な絵柄ばっかです。
子供だましといえばそれまでですが、そのだましかたの方向って気になりますよね。 ドンちゃんの方向でダマそうとするのは難易度が高いですから。
子どもだって「誰?これ」と速攻いうよ。

そういえば「第22回 みなさん、ポリスってほんとうに素晴らしいものですね」の時はハンバーガーバカ食いジャケをtumblrで取り上げてくれた人が多かったのでうれしかったです。ドンちゃんも是非!
※この記事は2008年12月10日に掲載したものです。

(担当岩井)

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