前回「銀河英雄伝説」をすこし取り上げましたが、ライトノベルにおける戦争もの、といえばやはりこの田中芳樹先生を抜きには語れません。
そして、銀英伝と双璧をなす戦争ものノベルといえば、↓これになるでしょう。
(図1)
”ペシャワール”といえば、ボランティア団体ではなく要塞を思い出すラノベ読みが多いのはこの作品のせい。中世ペルシアを舞台にした英雄戦記「アルスラーン戦記」(図1)です。
第一巻「王都炎上」の初版は1986(昭和61)年。そして、最新刊「蛇王再臨」は2008(平成20)年。
この間均等に発売されているならまだしも、9巻と10巻の間が7年。10巻と11巻の間が6年と、日本の小説界でも(悪名)名高い遅筆ぶりになっています。埴谷雄高か、田中芳樹か。
担当も、完結を待っている間に、小学生から中年間近まで年をとってしまったクチですが、その一方で、無味乾燥な世界史を、これ以上なく面白いものだと思えるように感じられた、という意味では凡百の歴史小説も足元に及ばないであろう作品なのも間違いありません。
銀英伝には、歴史の持つ残酷さや非情さやを見せる側面がありましたが、アルスラーンは、中世ペルシア風の架空世界を舞台にしながら、歴史の持つ壮大さや可能性を表現することに比重を置いた作品でした。
(図2)
アルスラーン戦記第一部とほぼ同時期に発売された「マヴァール年代記」(図2)の角川文庫版あとがきには、『(作中に出てくる)マヴァール帝国は中世ハンガリーを舞台にしているが、実際のハンガリーではジャガイモがとれなかった。でもそれでは強大な帝国という設定に支障が出るので、 マヴァール帝国ではジャガイモがとれることにした』という趣旨の文章が書かれていますが、これなどまさに『好き勝手に世界を創造できる楽しさ』の醍醐味だと言えます。
銀英伝のような、”未来を舞台にした架空戦記”はそれほどフォロアーが出てこなかった一方、アルスラーンのような”中世風世界を舞台にした戦記”は多く、特にライトノベルでは”戦記”に限らなければさらに数多く発表されています。
現代ラノベのファンタジー隆盛の一角を築いた「アルスラーン戦記」ですが、せめて担当が40歳過ぎる前には終わってほしいなあ…無理かな。
次回も戦争(が題材のライトノベル)の話です。
(担当 有冨)
※この記事は2009/5/13に掲載したものです。