コピックとケモミミとTバックの爺さま

こんにちは。ベランダのプランターで育てているミニトマトが60コ近く収穫できそうな中野店白石です。 今日はいつもと趣向を変えて、とあるハウツー本を紹介します。

まんだらけで取り扱っているジャンルの中に、イラスト画集やアニメムックなどとはまた少し違う所謂〝ハウツー本〟の書籍群があります。やさしめに説かれた人体の骨格・筋肉の解説本から、パースや構図をはじめとした漫画の技術書、戦闘・背景といった状況に特化した資料写真集やなんかがここに含まれます。昔から有象無象が出版され続けているので内容の濃さや難易度、またデジタル彩色においては情報の鮮度にもバラつきがある反面、人間や三次元の構造はそうそう変化するもんでもないため、その界隈では"ベストセラー"とされる古くからの教本も数多く存在します。

そんな中、普段あまり興味が無いにもかかわらず「これは......!?」と思って買ってしまった本を3冊ご紹介しましょう。

・12色でスタート!はじめてのコピックイラスト公式ガイドブック/マール社

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コピックとは染料インクを使ったデザイン&イラスト向けのカラーマーカーで、プロ仕様を含めると358色にも及びます。 今はペンタブが主流ですが、アナログが中心だった一昔前、絵を描くのが好きな小中学生にとってはまさに永遠の憧れ。入門用のコピックチャオですら1本250円するので、お小遣いを貯めて買った3~4本(まずは肌色系を手に入れろって通説ありますね)を後生大事に使っていた、というか勿体なくてあんまり使えなかった...という思い出のある人もいるでしょう。勿論今でも愛用しているプロ作家は大勢おり、デジタルが隆盛を極める現在でも不動の人気を誇っています。 とはいえアナログ彩色の代表格であるコピックのハウツー本は年々減少傾向にありましたが、2015年に発売されたこの本は僅か1年後に4刷になるほど大ヒット。その理由は何よりも内容の濃密さです。

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この、暗号めいたマーカーの色や記号に関する知識、及び基本的な色の相関図が冒頭にまとめられているのが実は一番「使える」ページでした。タイトルにもある通り、この本では薄めの色を中心とした特定のコピック12色が指定されており、作中のあらゆるイラストはこの12色のみを使って描けるというわけです。

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マーカーと紙との相性、裏に滲みやすい特徴までフォローする作例をここまで分かりやすく明文化した本、今まであったか。ぶっちゃけ公式商品の宣伝も兼ねちゃってるんですがそこはご愛敬。

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お手本イラストの線画を元に少しずつ解説を重ねるのは、一般的な色塗りメイキングと同じ。ただとにかく丁寧なんです。「本の通りにやってるのに全然こうならないじゃん...」みたいなティーンズの挫折を極力なくしてあげようという真摯さがこうね、ひしひしと。

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あとスゴイと思ったのがこれ。基本の12色(1色は透明の溶剤なので11色)を使った、色の重ね塗りと発色のサンプルです。こんなにもいろんな表情が出せるのか!という驚きと、リトマス紙みたいな実験結果一覧のようで目にも鮮やか。この他にも、女の子が大好きなカラフルグラデーションの作例、マスキングテープにも似た水玉・星・チェックなどの手描きパターン作例までよりどりみどり。

「金出して色揃えたヤツが結局ヒーロー」になりがちな画材において、たった12色でここまでの説得力を持っている本は他に見たことないです。表紙の雰囲気から察するに主なターゲットは小中学生女子のようですが、専門性と丁寧さ、有益な情報量においては一級品。というか、よく読むとかなり理詰めの技術指南書なんですよね。その上紙面構成が視覚的で楽しいので、「ひょっとしたらできるかも...?」と思わせてくれちゃいます。こりゃ増刷されるわ......。

お次はこれ。

・超描けるシリーズ ケモミミの描き方/玄光社

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https://order.mandarake.co.jp/order/detailPage/item?itemCode=1058858644&ref=list

あの、私じつは筋金入りのケモナーなんで、けものフレンズの耳の配置にはどうしても一家言ありまして......そんな人がまんまと釣られた本がこちら。表紙は『狼と香辛料』のホロでおなじみ、文倉十です(表紙とコメント寄稿のみ)。太古の昔からケモミミキャラは存在していますが、その表現方法は個人のセンスによるものでした。モフい耳が生えてて八重歯か猫目ならホラ人外です!ってくらいお手軽な感じになった現在、じゃあどういう風に人間の人体に動物っぽさを組み込むかという解説に徹しているハウツー本です。 イラストに沿った筋肉や骨の説明が駆け足気味なのでそこはあまり用をなしませんが、この本の良いところは、全体の構成と細かいコラムにあります。3人の若きイラストレーターがネコ・イヌ・キツネからトラ・ウシ・ネズミに至るまであらゆるケモミミキャラの作例を並べており、物理的な耳の描き方や動物の生態を元にした「それっぽさ」のキャラ付けについて解説しています。

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若干ナメて読み始めた矢先、左の「One Point」にある"トラの耳の裏は黒くて白ブチがある"という虎耳状斑(こじじょうはん)を説明している部分でひれ伏す。よくよく見るとその横にある「トラはネコ科だけど瞳孔は縦長にはならない」っていうあたりもアツいですね。

それからシッポの生え方に関する解説。

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実はケモ耳キャラにおいて一番曖昧になっているのはコレな気がします。イメージとしてパッと浮かぶのは衣服の上下の間から見えるってやつですね。が、実はこれは突き詰めていくと「動物の骨格に沿って尾てい骨の延長線上にシッポを設定すると尻とズボンとの兼ね合いが難しくなり、かといってスカートだとシッポを隠してしまうので可愛くない。上下の服の間から覗かせるには腰より上の背骨のあたりから生やさないとダメだけどそれじゃあ構造上若干無理がある。あーもうめんどくせいいやノリで!」という葛藤の上に成り立っている表現なんです(......だよね?)。多くの人がそれでスルーしているところに、上の説明だときっちり斬り込んでいます。 すごい。

で次。本命のケモミミです。

人間の耳の場所に動物のケモミミが生えている表現であればさしたる問題はない反面、それだと若干マニア寄りというか、大衆向けのキャッチ―さはちょっと薄れてしまいます。ではウサギやキツネのように、頭から上にスッと伸びた耳がカワイイ&カッコいいよね!となった場合、どうしても避けて通れないことが一つ。

それは「人間の耳のあった部分どうなってんの?」問題。そこに耳がないということは顔の側面がつるっとなっているわけで、どう考えても不自然です。その違和感をはぐらかす為にもみあげや長髪で隠したり、正直一つ結びにした姿は描け ませんキリッ)とならざるをえなくなります。この暗黙かつ不動の命題に対しての言及がこちら。ケモミミの位置に関するページの補足です。

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真正面からきちんと設定を作って考えて描けというもの。この髪をかき上げたイラスト、ほんとすごいなと思ったんです。 いくらケモやケモミミが好きでも、知らない人からしたらまず疑問に思うはずの事に答えられないんじゃダメだろう...なんて長年ぼんやり考えていたので、髪の生え際をいじって違和感をなくすというのは充分一つの解答になりえます。 雰囲気で乗り切るだけでなく、「生き物」として創作する際の考え方が大事ってことですね。

さて冒頭のフレンズに関しては、私は人外というより「デ・ジ・キャラット」のでじこみたいなもんだなと結論づけた今日このごろ。これ系の話を始めると人外とコスプレの境界線だとかケモミミと獣人の違いだとか人種としてのそれと擬人化表現の区別だとか、あとそもそもケモとケモミミは全然異なる存在でそれぞれにグラデーションがあるんだとかマジで止まらなくなるのでまた別の機会にしますね。

とにかく、昨今の流行に乗って作られたありがちなハウツー本だと思いきや、動物の頭部の構造や習性に関する研究ありきの内容が随所にあり、かなり実直で骨太な解説本でしたよというお話でした。

では最後。もうこれはほぼ説明要らないな...。

・ハイパーアングルポーズ集SP 怪人/集英社(創美社)

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このインパクトである。

2010年に最初の1冊が出てから、写真資料集の分野に革命が起きた「ハイパーアングルポーズ集」。厚いガラスかプラスチック板の上でポーズを取るヌードモデルを、上下左右あらゆる角度から撮影するという画期的なアイデアによって構成された本。見たことないアングルの何でもありな ポーズがひたすらカッコよく、人間の体は無限だ!なんて思ってしまいます。

その5冊目がこの「怪人」。ブッ込んできましたね...。麿 赤兒(まろ あかじ)という舞踏家・俳優が演じており、先に説明した何でもありの構図で、身体表現の極地ともいえる写真が無数に収録されています。

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この気迫である。

壮年のじいさまが黒パンツ一丁(※しかもTバックである)で暴れ狂う様子を黙って見つめながらページをめくるという、平凡な人生において二度とない体験を脳裏にぶち込んでくれます。気色悪いわ恐いわ格好いいわで、その姿はまさしく「怪人」。そもそもこの企画と役者が組んだ時点で大成功だったってことですね。もうこれは資料とかそういうレベルのものではなくて、ポーズ集というジャンルで突如暴発した怪奇写真集。 ちなみに全画像+オマケありROM付きだよ☆

***

どうでしょうか。 普段漫画のレビューばっかりなので、たまにはこんなのもいーかなと思って挙げてみました。 絵を描くのが好きな人も全然興味ない人も、「絵と作品が出来上がるまでの過程」「その骨子になる表現について」への言及というのはまた面白いものです。 盛り上がり続ける漫画・アニメ文化の土壌の下には、その作り手に向けたあらゆる試行錯誤と無数の資料が飛び交っているのです。

というわけで、通販ページも充実していますよ。

マール社の出版物はこちら→https://order.mandarake.co.jp/order/listPage/serchKeyWord?categoryCode=00&keyword=%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%AB%E7%A4%BE

玄光社の出版物はこちら→ https://order.mandarake.co.jp/order/listPage/serchKeyWord?categoryCode=00&keyword=%E7%8E%84%E5%85%89%E7%A4%BE

ハイパーアングルポーズ集はこちら→https://order.mandarake.co.jp/order/listPage/serchKeyWord?categoryCode=00&keyword=%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BA%E9%9B%86

中野店 白石

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