こんにちは!
今回ご紹介するのは、稀見理都著:『エロマンガノゲンバ』という、成年マンガ家29名よるインタビュー本です。
エロマンガノゲンバ/稀見理都/2016/三才ブックス
まえがきから抜粋すると、 エロマンガ界隈の「情報評論同人誌」である、コミケにて発行されていた同名シリーズの休刊号を再編集、商業誌化したもの。
29名のキャリアある(20年以上)成年マンガ作家たちへのインタビュー集。
1.デビューのきっかけ
2.デビュー時と現在、エロマンガ界で変わったこと変わっていないこと
3.マンガ家としての進退
の3つを軸に展開していく、ざっくりと以上の趣旨を持った本なのですがこれが良著で昨年末に発行されてから何度も読み返している自分がいます。
自分を含め誰しもがエロ-ビブリオマニアというわけではないので、やはり読んだことのない作家さんもたくさん登場します。私の場合エロマンガを読み出したのがここ数年からということもあって尚更参考になりましたが、古くからのファンの方マニアの方にとってはひとしおではないかと。
まんだらけ店員という立場からしても、しばしお持ち込みがあるものの"古いし、大して売れないだろう"という理由で、なかなか積極的には扱えていない年代の方々が主に取り上げられている本ということもあり、そのあたりを見つめなおす契機になりそうな読書体験でした。
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人選的にはエロ劇画作家よりもっと最近の、「ロリコン/美少女コミック」期以降にキャリアをスタートされた方が中心で、ややイレギュラー的に(というか、特別枠的に)ダーティ松本先生がいますが他は概ね80年代〜
(作家名敬称略) 早見純、千乃ナイフ、しのざき嶺、森山塔、海野やよい、ねぐら☆なお、亜麻木硅、河本ひろし、ちゃたろー、田沼雄一郎、猫島礼、うたたねひろゆき、摩訶不思議、駕籠真太郎、伊駒一平、陽気婢、魔北葵、江川広実、風船クラブ、がぁさん、田中ユタカ、島本晴海。、山咲梅太郎、松山せいじ、ぢたま某、有馬○太郎、甘詰留太
各29作家のインタビューが収録されています。
例えばコミケや同人誌、雑誌の投稿文化など、今日までつづく諸要素がすでに出現している時代のお話なので、僕のような新参者にとってもイメージし易いところがあります。いわば現在のエロマンガ界の直系のルーツで、それを知ることで現在から過去を俯瞰することも、過去から現在の座標を探ることも可能なのではないかとも思えるような一冊です。
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しかしこの作家のチョイス、例えば平野耕太や大暮維人など、たまたまエロマンガという自由な場所に芽吹いた異能よりも、エロに生まれエロに生きてきた作家が多く選ばれているように思います。さらに言えばエロの中でも町田ひらくなど時流に左右されない才能より、流行りを生み出しそして寄り添いながら闘ってきた作家たちの現在地点を収集している。そんな点からもインタビューイである稀見理都氏の意図が読み取れます。無視されがちだったエロマンガを漫画研究の俎上に乗せたいという。
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この本に掲載された作家たちは年齢も40を越え、栄枯盛衰の激しいこのジャンルの中では人気のピークも過ぎてしまっているだろう方もおり、そんな彼ら彼女らが如何に漫画を描き続けながら、撤退戦を戦っているか(といったら失礼ですが)のレポートがこの本だとも言えます。
いち漫画家が、流行りが移ろい掲載誌のスタンスも変わる中で作品発表の場を維持すること...そして何より収入を保ち続けることについても赤裸々に語られます。
例えばソフトな絵柄で90年代初頭の表現規制時に人気を博した「がぁさん」は、家族の介護等で半引退状態になってしまった所から近年猫マンガ雑誌で命脈を繋ぎ、同人誌にてデジタルへの転換を図りつつ商業にも持ち込みを企図している・・・というように。
もしくは制作スピードが落ちた原因は自身の加齢だけではなく、エロマンガ界全体の画面密度の底上げだと語る山咲梅太郎。かたやマンガ専門学校の講師に転身し活躍する猫島礼のような例もあれば、駕籠真太郎のように初期の儲からない時代から、サブカル文脈で評価された今日を迎えた作家もいて多様です。
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また、こうしたインタビューの中でしばし話題に上り興味深かったのが、「商業誌以外の選択肢」の変遷についてでした。まず同人誌というのは自由に発表し収入を得られる場として存在し続けていて、次に電子書籍。過去作が電子化されている成年作家もいます。
そして2000年代後半から隆盛したのがマンガを1コマずつ表示する形式の、いわゆる「ケータイコミック」。スマホが浸透する前の狭い画面に最適化された形であるとも言えます。
私が思うに今一番電子系で影響力があるのは「スマホのバナー広告」でしょうか。2ちゃんねるまとめサイト等様々な場所に過激な「ちょっと見せ」バナーが貼り付けられ、最近だと(エロではないですが)「善悪の屑」や「透明なゆりがご」などが紙媒体としても大ヒットしていたりします。やはり暇つぶしに見るネット記事でいつも見えている広告というのはかなり効果の強いもののようで、いまここから新たな流行が生まれているといっても過言ではないかもしれません。
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20年前のエロマンガ界隈と今のそれとを見比べると、今の方が圧倒的に絵が上手く、美麗になっています。三巷文やtoshなど作画担当として一般誌に引き抜かれる作家も多く、技術水準でいうと一般向け漫画の平均を上回っているような印象さえ受けます。断面図に始まり乳首残像、リョナやNTRなどジャンル内での先鋭化も進んでいます。
しかし20年前にあったような一種行き場のない作家たちが「エロ」さえあれば何でもいいの旗の元、ファンタジーやナンセンス、グロ等多様な表現をする場、という要素は現在ほぼなくなっているようです。同人あがりで、初めから技術的にある程度完成された人材がエロマンガを呼んでエロマンガを描いているーというのが、すべてではないですが多く見られるようになったと思います。
『エロマンガノゲンバ』でもp199のがぁさんの発言で、
"女の子がおかしくなって、「アへ顔ダブルピース」をすること自体はいいんですけどね。大切なのは、そこにいくまでの過程ですよね。抗いや敗北をしっかり描いてほしいと思いますね。いきなり、最初から「ちんぽ、ちんぽ」って叫んでいるのはやっぱりおかしいですよ(笑)"
という一節があります。本当にその通りだと思います。やはり過程に対する偏執というか、変わりゆく肉体と精神にこそ興奮は喚起されるのだと、あくまで私個人的には強く思いますしそういったエロ作家が好きです。
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続いて、収録されたどのインタビューにも必ず言及のある出来事、エロマンガ業界を襲った表現規制について。
宮崎勤による幼女連続誘拐殺人が起きたのち、90年代初頭成年コミックは「冬の時代」にあり、厳しい自主規制や成年マークの付与、東京都による有害図書指定など激動の時期でした。(この頃までエロ同人誌は無修正だったなんて、信じられますか?)
それから94年に快楽天が創刊、村田蓮爾や陽気婢を看板に躍進し(更には04年にはコミックLOが創刊されるなど)その後の「エロマンガバブル」が起きるまで業界は雌伏の時を過ごすのですが、ここで規制によって損をした(=仕事がなくなった、減った)人もいれば、かえって売れた人もいて様々で興味深いのです。
やはり近親相姦、セーラー服は勿論のこと、男女が重なっているだけでNGが出るくらい業界の自主規制は激しかったようで、ハード系の作家よりも、ファンタジックで夢想的な作家のほうが物理的に雑誌に載ることができて売れる、という傾向があったようです。
これらは過去の話などではなく、児童ポルノから非実在青少年の議論、そしてエロマンガと性犯罪の関連性について、など依然として表現規制論は強く存在しています。
と、ここでタイムリーな話になりますが、この6月12日、強制わいせつ罪で逮捕された男性が、人気ロリ漫画家であるクジラックス作品内の手口を模倣していたことでやにわ注目を集めました。さらには警察からクジラックスに宛てて「漫画の作者に模倣した犯罪が起こらないよう配慮してほしいと要請」があったということも報じられています。
エロマンガが現実の犯罪を助長するか抑制するのかはわかりませんし、そういった犯罪傾向のある人間に発想のヒントを与えてしまう事は事実だと思います。
今回の事件は痛ましく、決してあってはならない事なのですが、だからといって作家が作品を生み出すことにそれそのものに規制がかかるのは嫌だな、とも思います。世に出す過程でのゾーニングは徹底的に行われるべきですが。
キレイなものや道徳的なものがあるならば、その対極のものだってこの世には存在していて、それらを根元から抑圧するような世界にはなってほしくないという思いがあります。
ということでまんだらけでは6月いっぱい、クジラックス「ろりとぼくらの」を900円にて強化買取していました。通信販売でのお求めも可能です。もちろん18歳未満の方はご購入いただけませんし、空想は空想の領域にしか生息できない生き物です。どうかその旨宜しくお願いします。
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少し話が逸れました。
いつでも自分が今初めて読むマンガが自分にとって最新のエロマンガです。発行年の新旧に関わらず、自分の心からムラムラできるようなエロを掘り起こすこと。そんな姿勢で読んでいけたらなと思える本でした。
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他に、永山薫著:『エロマンガ・スタディーズ』も読みやすくてオススメです!
中野店 朝日