さて、今回は何を思ったか百合マエストロ(自称)の内村がまったく別のジャンルから本を紹介します。
白い死神 ペトリ・サルヤネン:著 古市真由美:訳
これは、何かと言うと第2次世界大戦の中でフィンランドとソビエトが2度の戦闘を繰り広げた1度目の冬戦争、2度目は継続戦争。その戦闘の中で誕生した「白い死神」という通り名で呼ばれた人類史上最強の狙撃手「シモ・ヘイヘ」を中心にフィンランドの国土防衛を賭けた戦争について書かれた書籍の翻訳なのです。
では、まず主役である「シモ・ヘイヘ」について。
普段は農民で、農作や狩りをして生活をしているにもかかわらず、戦争が始まり兵隊として戦地へと向かったと思えばほんのわずかな期間で「白い死神」の通り名を持ち、ソビエト軍を恐怖に陥れたヘイヘ氏は多くの伝説や逸話があります。
まず代表的なものが「狙撃における確認戦果(撃ち殺した人数)が542人」これは戦史において他の追随を許さない圧倒的な記録なのです。(2位が500人)しかもこれは戦争の開戦当初は戦果を数えていなかったので実際はこれよりも多く、かつ狙撃以外にもサブカシンガンでの戦果も200人以上報告してるのです。この記録は現代でも破られていない(およそこの先破られることのない)とてつもない戦果なのです。さらに!この戦果はヘイヘ氏が戦争に参加してから怪我で戦線を離脱するまでの100日という短期間の間に作られた記録であるということも尋常ならざる伝説として語られている所以です。(第二次世界大戦自体は約6年、継続戦争はその中の約3年)
この狙撃手としてのヘイヘ氏の存在は兵力・戦力(フィンランド軍25万対ソビエト軍100万)ともに圧倒的なソビエト軍が3年もの時間をかけてもフィンランドを侵略できなかった理由として大きな役割となっていたのです。
戦中の逸話にこんなものがあります。
・スコープを使わずに肉眼のままでも標的が300m以内ならほぼ的を外さない。8割以上の精度。つまり狙われたら生還できる確立は2割。
・ヘイヘ「人間を撃つのはキツネやカモを仕留めるよりも簡単」
・夜中、戦線から離れた森の中で交代で見張りをしながら仮眠をとっているソビエト兵の1人が「ションベンしてくる」と言って立ち上がった瞬間に頭を撃ち貫かれ小隊が大混乱に陥る。
・狙撃の競技会で150m先の的に1分間で16発命中させた。(この時しようした銃はモシン・ナガンで最大装填数5+1なので最低でも2回クリップ給弾が必要で1発撃つごとにレバーを引いて空の薬莢を排出しレバーを戻し次弾を装填しなければいけない・・・。
これらは伝説の一部ですが、ミリタリー好きな方は常軌を逸した兵士であることがわかると思いますが、こんな超人が職業軍人ではなく狩猟と農作で生活する民族出身であるというのも驚かざるおえません。
しかし圧倒的戦力のソビエト軍に優秀なスナイパー1人がいたから負けなかったわけではありません。
もう1人、その超人的スナイパーの才能を活かしながら部隊を率いて首都ヘルシンキへの進行を防いだすごい人がいるんです。
アールネ・エドヴァルド・ユーティライネン
この人がとにかく破天荒を煮詰めたような、豪放磊落を擬人化したような人物なのです。
仕官学校では最終学年の時に「規則違反」で1年間の停学処分を受ける。その停学中に自転車大隊に仮配属されるも3度の「規則違反」で拘禁処分になりそれが停学中の学校にバレて退学処分になる。(規則違反については「ちょっと人生を楽しんだだけ」として述べていないので事実は不明)
その後、職を転々としているうちに船員として働いていた際に見た新聞の「フランス外人部隊」に心を引かれすぐに北アフリカへ。
そこでラノベの主人公キャラのような活躍で「モロッコの恐怖」という通り名で呼ばれるようになる。
エリートぞろいのフランス外人部隊から残留希望をされるも本人の意思でフィンランドに帰国後、軍に復帰するが泥酔したところを仲の悪い連中に布団にグルグル巻きにされて転がっているのを上官に見つかりまたも除隊勧告を受ける。
そして、またまた職を転々としている時に第2次世界大戦中、ソビエト軍がフィンランドに侵攻し1度目のソ・フィン戦争「冬戦争」が始まりまたまた軍に呼びだされ予備役中尉として「第12師団第34連隊第6中隊」の隊長となる。この第6中隊がかの有名な「カワウ中隊」でガールズ&パンツァーでエルヴィンがフィンランドを賞賛するコメントをたびたびしている所以でもあるのです。
そしてその部隊に居合わせたのが最強のスナイパー「シモ・ヘイヘ」だったのです。
このたった32人中隊が冬戦争においてコッラーという川付近の最終防衛線で押し寄せる4000人以上のソビエト兵と数百台の戦車による国土侵攻を撃退した「コッラーの奇跡」といわれる戦いを率いたユーティライネンは国民的英雄となりますが、戦争が終結し平和になると・・・。
ほかに彼がどんな破天荒をして味方に敵を作り、敵を脅かし、味方を導いたのか、ぜひ読んでみてください。
ちなみに、アールネ・A・ユーティライネンには弟がいて エイノ・イルマリ・ユーティライネンといいますが、この弟も国の英雄です。
またの名を「無傷の撃墜王」
437回出撃し94機撃墜という戦果は「異常に強いドイツ空軍を除くと世界1位」になるのです。
なによりすごいのはこれだけ出撃し戦闘機会もあるのにたったの1発しか敵の攻撃を受けていないということ。しかも機体の翼の塗装が剥がれただけという。
それゆえの「無傷」です。
しかも、この撃墜王が空軍のパイロットを志すきっかけになったのは兄からもらったドイツ空軍兵士の自伝を読んだことによる。
自身が英雄になるだけでなく弟まで英雄と言われるように導いている。この兄弟がいなかったら現代にフィンランドという国がなかったかもしれない?!
これは【事実】です。ラノベじゃありません史実です。
うそでしょ!? と思いそうですが。
気づきますでしょうか?
この2人はストライクウィッチーズで名前を使われています。
アウロラ・A・ユーティライネン
エイラ・イルタマル・ユーティライネン
実際の当人たちはとんでもない兄弟でした。
こういったところを知っているんでしょう、ガルパンでエルヴィンが「フィンランドの人にあやまれ!」と言ったのは、尊敬の念がありそうですね。
また、ガルパンでカバさんチームが乗ってる3号突撃砲はドイツ原産ですが、フィンランド軍でも使われてまともに兵器開発する技術のなかったフィンランドでかなり重宝された上に大活躍してもいて。
「3号突撃砲で30秒以内に4両のソビエト軍戦車を撃破した中尉がいる。」
なんでそんなに伝説をホイホイ作るのか?フィンランドは。
アドルフ・ヒトラーはこのソビエト軍の大苦戦を知って、かの有名な「スターリン・グラード」への侵攻を決意したという説も・・・。
圧倒的、不利な戦闘ばかりなのになぜ2度もソビエト軍を撃退できたのか?どんな戦いをしていたのか?
伝説は多い、英雄兄弟がいる、伝説のスナイパーもいるわと、ちょっと知ってみるとすごく興味を惹かれませんか?フィンランド。
フィンランド語は難しいと言われていますが、この書物が邦訳で読めるということはもはや運が良いです。
ぜひガルパン好きで継続高校が好きな人は読んでみてください、継続高校の設定のこまかい部分に史実が反映されているのを知ることができる数少ない書籍ともいえますので。
また、シモ・ヘイヘやフィンランド軍が気になった方は次の書籍もオススメです。
柳井たくみ「氷風のクルッカ」
こちらはライトノベルで史実をおりまぜ、アレンジして描かれています。
通販ページはコチラです。
それでは、今回は長々と語ってしまいましたが、次回はまた百合マンガでお送りしたいと思います。
ここまでのご清聴ありがとうございました。
担当:内村
コンプレックス 内村