岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第4回

「賭博破戒録カイジ」の缶ビール

蒸し暑い天気が続きますね。
いよいよこれからの季節、ビールの美味しい時期になります。
一日の仕事が終わり、ビアホールで大ジョッキをゴクゴクと飲み干す快感に勝るものがこの季節、どれだけあるでしょうか?

とみんなが思うように、ビールについては一家言ある!という漫画家もまた多いです。
たとえば柳沢きみお先生は「大市民」シリーズで、ビールを飲んでは「美味し!」と叫ぶ、というのをもう十年続けてんだからエライです。
この間読んだときにも冷やし中華食って、ビール飲んで、美味し!・・・ってやってましたからね。
これ、初代の双葉社版「大市民」の4巻くらいに初登場したとき同じネタですよ。 マルちゃんの冷やし中華をこんなに美味そうに描く漫画家は柳沢先生以外いませんね。それだけでもリスペクトですよ。

頭脳のスキマを狙った打開策で窮地を乗り切ってきた、一風変わった賭博マンガ「カイジ」でも、ビールがここぞというシーンで出てきます。 主人公開示は賭博で背負った一千万もの借金を返済するために、金融組織の地下強制労働施設に閉じ込められます。
来る日も来る日も原始的な方法で穴を掘るだけの苛酷な労働、刑務所以下の待遇、一切ない自由。
そしてこの地下の施設では「ペリカ」という独自の通貨でしか買い物が出来ず、一ヶ月死ぬ思いで働いて、9000円ていどしかもらえない、地獄の生活。
そしてカイジ初任給の日に、グループの班長からおごられたのが、一本の缶ビールなのです。
ちなみにこの地下施設では缶ビールが一本500円、ポテトチップは一袋300円、焼き鳥は1パック700円というぼったくり価格。
缶ビール一本の貴重さが分かるでしょうか?

で、ここからがすごいのですが、この缶ビールを手にとって口にし、その美味さをかみしめてハァ〜〜っとタメイキ一つつくまでに、なんと8ページです。 コマにして実に40コマ。セリフは、
「ううっ・・・」
「キンキンに冷えてやがる・・・」
「あ・ありがてぇっ・・・」
「涙が出るっ・・・」
「犯罪的だ・・・うますぎる・・・」
「染みこんできやがる・・・体に・・・」
「ぐっ・・・溶けそうだ・・・」
「本当にやりかねない・・・ビール一本のために・・・強盗だって・・・」
と、実感しまくり、満喫しまくり、体に染み込みまくりです。
苛酷な労働、そして自分の自由が一切もてない生活環境にある人間にとって、ビール一本がどれだけありがたいかを描くのに福本先生は8ページ40コマを使うのです。
ああ、バクチやって借金こしらえなくてホントよかった、と思わずにはいられません。

しかも初読時には気が付かなかったのですが、飲んでいる缶ビール、なんと135CCのやつなんですよ。
発泡酒がなかった当時、110円で買えるいちばん安い缶ビールは、オロナミンCと同じ量しかない、超ミニなコレしかなかったんです。
一口で飲めてしまうこの量を、実に8ページ。
こんなに染み込んでいるビールはマンガ史上皆無といってよいでしょう。

とはいえ、このマンガを読み返すたびにこの強制収容所の凶悪なペリカ生活ばかりが印象に残ってしまい、正直その後のパチンコ「沼」攻略はあまり印象に残りません(・・・が、13巻以降の展開はカイジが情けなすぎて一読の価値アリ!です)。
それにしても福本先生は人間の持つどうしようもない情けなさを食べ物で表すのが実に巧みで「最強伝説黒沢」でもアジフライが飛び道具で使われたりと、素晴らしい着想力です。
だって今この21世紀にアジフライの話が3週間掲載されつづける。ホントありえないですね。

なお「賭博破戒録カイジ」「最強伝説黒沢」は中野店 3F 本店にて扱っております。是非一読を。

※この記事は2004年6月26日に掲載したものです。
(担当 岩井)

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