岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第13回 |
「響子さんの手料理」
材料も、味も、どんな食べ物だったかもありありと思い出せるのですが、名前のいまいちわからない料理、ってけっこう存在しますよね。料理屋さんにあるものはそれがこじつけであろうとなんだろうとメニューである以上は名称化されてるのですが(喫茶店にて「ニューヨークの摩天楼」というメチャクチャな名前のパフェを見たことがあります)、家庭料理はそうはいきません。
たとえば僕の家では数種類の材料を炊き合わせていたものはほとんど「煮物」で済ませていたと思います。
ただ炊き合わせる材料の組み合わせ、のパターンが決まっているから、特に驚きはしません(ただ車麩とフキの煮物、とか身欠きにしんと筍の煮物、などという渋い組み合わせが多かったです)。
そういえば給食でも「ふくめ煮」「ばんさんすう」などといった、それだけではどんな食べ物かちっとも想像できないメニューがありました。
ちなみに前者は炒り豆腐と根菜、かまぼこの煮物(甘い)、後者は酢の物風サラダです。
おそらく皆さんの家庭でも、よく食卓に上がるものの、人に説明しようと思ったらどういった名称で呼べばいいのか悩む料理、はたくさん存在すると思います。にらと卵とかまぼこを煮たヤツ・・・とか、豚肉と白菜としいたけを炒めてとろみをかけたヤツ・・・とかね。
今回そんなことを感じさせてくれたのは、この「響子さんの得意料理」です。
高橋留美子の「めぞん一刻」2巻、五代くんが姪に勉強を教えてくれたお礼に、響子さんが得意料理を振舞う、というシーンで登場します。
材料は、牛ロース、レバー、にら、卵、にんにくが台詞から判明しますが、絵を見た限りではこれ以外にしいたけとにんじんが入っているように見えます。
しかしこの材料でどんな料理ができるのか、味はどうなのかというとさっぱりわかりません。作中に料理の名前も登場しません。
同じアパートの一之瀬さんが「なんか恐ろしい料理だねえ」とコメントしていることからもわかるように、とにかく精がつきそうな料理です。
スタミナ満点、独身男性的メニューですね。
ニラレバを想像すると卵としいたけが余るし(ニラレバににんじんが入っていることはまれにあるけれど牛レバーでレバニラを作ることはないと思うのですが)、野菜と肉の炒め物だとしたら卵が余ります。
野菜はともかく、牛ロースとレバーと卵、の組み合わせはなかなか考え付きません。
図1
牛レバーを炒めてとろみをかける、なんて聞いたことがありません!
にんじんは花状に飾り切してあるし、よーく見るとマッシュルームみたいなものも入っている。
皿が中華っぽいから、中華系?と思えますが、こんな中華料理見たことありません。
ゆで卵の殻をむいたものをきらずにそのまま盛り付けるというセンスも仰天です。
ふつうはうずらの水煮を使うものです。あんかけも塩味系なのかしょうゆ味系なのかもわからない。
五代くんは「うまいなあ、本当にうまいなあ。」と食しているのですが、非常に疑問。
ヌルヌルした牛レバーなんてうまいワケねえだろう! と突っ込みたくなること山のようにあります。
何とか察するに八宝菜の豚肉の部分を牛ロースとレバーに、うずらの卵をゆで卵にかえたのかなと考えられるのですが、たぶん「俺んちでそれに似た料理、よく出るよ」という方は皆無だと思います。
この料理を作中に登場させた高橋留美子さんは実際に食した経験があるのでしょうが、おいしかったのでしょうか? ひょっとしたら、どこかでこれと同じような微妙な家庭料理を振舞われたのかもしれません。
余談なんですが、大学生のころ、皆で焼肉屋にいったのですが、なんでも人数分頼むクセのある奴が、レバ刺しを4人分もオーダーし(ふつうレバ刺しなんて数人で一皿頼む程度のものです)、そいつ以外の全員が好きでもない大量のレバ刺しをクチャクチャ食べるハメになり、店を出たと同時に殴り合いのケンカになってしまいました。ケンカした二人は十年経った今に至るまで和解していません。レバ刺しが原因で大ゲンカして絶交・・・。いまだに語り草になっている情けないエピソードです。
※この記事は2004年8月13日に掲載したものです。
(担当 岩井)
(担当 岩井)