岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第23回

犬に食事内容を指示される奴

ペットショップなんて店がない昔は、犬やネコはたいていどっかから拾われてきたりもらったりするものでした。 野良犬、なんて今はまず見かけませんが、20年位前は普通にいたような気もします。

同じようにペットフードなんてものはせいぜいここ25年程度の発想で、それ以前は、犬やネコはあてがわれぶちのメシでも文句ひとつ言わずにムシャムシャたべていたのです。 イヌに骨ガムでも与えようものなら毎分300メートルくらいの勢いで駆けずり回り、主人に感謝の念を十分に表してからおもむろにかじりついたものです。
もっと貧乏性なイヌは食べずに穴を掘って隠しておいたりするものでした。

それがいまや、老犬、老ネコのために塩分控えめのものをとか、運動不足になりがちな犬のためのペットフードとか、 尿管結石になった経験のあるネコのための低カルシウムペットフードとか、イヌ様ネコ様を気遣ってなんでも欲するものを与えるような状況になってしまいました。


(図1)

しかしそれでもあくまで主体は我々にあり、いままで1缶300円クラスの猫缶を食べていた猫でも、 主人がリストラされたら、明日からいきなし味噌汁かけご飯にかつおぶしをかけたもの、程度の貧乏食に逆戻りです。
イヌやネコからは交渉のすべはありません。

ですが、一匹だけ、飼い主に対して自分の食事の待遇を交渉し、それどころか逆に飼い主に「これを食べれ」と指示した犬がいます。


(図2)

その名は「ゼロ」。
「うしろの百太郎」に登場する霊能犬です(図1)。

ゼロは人間の生まれ変わりという設定で、テレパシーを使って主人公の一太郎と会話することができるのです。
しかもテレポートもできるし、超能力もある。
まさに犬のエリート中のエリートです。
飼い犬でありながら食生活の改善を求めて交渉するタフ・ネゴシェイターぶりが登場するのはKCSP版「うしろの百太郎」の4巻。

「ようし、それじゃあこんご一年間 ごはんのおかずに肉が出たらそれをぜんぶおれにくれること!」(図2)
その見返りに霊能者を紹介してやる、というのです。

犬が霊能者を紹介? なんかすごいコネのある犬ですね。
にしたって一年間、肉、なしですよ。
つらい、つらすぎる。
これはかなりの強いカードです。
僕だったらそのカード出された瞬間に、交渉は暗礁に乗り上げ、全て負けですね。


(図3)

さらに2巻では悪い超能力者からの攻撃を防ぐために、番犬役を買って出るのですが、出だしからして 「いくら出す?」 です。
まず打てる手は打ってから、そっから話し合いの場に立とうじゃないの、と交渉を自分ペースに誘導。

クルマとかぶっつけた時に、大阪の人なんかがいうところの 「まあ何や、カネやないけれども、誠意っちゅうもんを見せてもらわんと。話はそれからやで。その辺きちんとせなあかんわ」という、 なんだかんだいってもやっぱりカネですヨ! という世情のセチ辛さを感じさせます。


(図4)

「おれの協力が必要なんだろ!? タダじゃはたらけないぞ!」(図3)
「ボーナスくれないとストライキやるぞ!」
とロックアウト闘争でもしかねないくらいの勢いで要求。
対する父親は、
「毎日ヒキ肉400グラムでどうだ?」
と、ある意味「500は出せないし、肉の種類にもクチ出すよ、俺」と暗に主張。

しかし、 「ヒキ肉・・・ねえ、せめてバラ肉くらいは・・・」と「量は折れてもいいけど、そのかわりヒキ肉はナシでしょ」と強い姿勢です(図4)。

結果父親は折れるのですが、豚バラで400グラム、というといまだと600円くらいですか。
これ1回1回の犬のエサとしちゃ結構な金額じゃないですかね。僕の昨日の夕食だって334円(税込)しかかかっていないのに。

また4巻では「精神的交霊では、ふつうの場合血液をアルカリ性にしておいたほうがいいんだ だから交霊したい人はあんまり油のつよいものや重たい肉食はさけて、 野菜をたくさん食べる菜食重点にしたほうがよい・・・もし肉を食べるなら白身の魚とか軽いものにする・・・梅干を食べるのもいい!」 などと、主人公に「霊感を強くするんだったらベジタリアン生活せよ」と、 自分はテレポートもできる超霊能犬のクセに、人間からは肉を取り上げ、その肉をバリバリ食っている矛盾を正当化しています。
この弁の立ちっぷり、詐欺師同然ですね。


(図5)

ちなみに血液は食べ物でアルカリ性になったりしません。
そういうことを言う人はこうなります(図5・美味しんぼ37巻「アルカリ性食品の真実」)

このゼロ、人間の生まれ変わりなので、ときどき人間の顔をして笑います(図6)。
眉毛あるよ? 特にこの顔、メチャクチャいい表情ですよね(図7)。
犬じゃないよこれ! むしろ犬の顔をした人間です!


(図6)


(図7)

犬が登場するマンガ、犬が主人公のマンガ数あれど、テレパシーがつかえて会話でき、しかも言葉巧みに人間を丸め込み、テレポートと念写ができ、 挙句の果てに人間の顔をしてへへへへと笑う犬、はこのマンガにしか登場しません。
それ見たさだけにこの「うしろの百太郎」は買いですよ!


(図8)

犬、犬と犬の話ばっか出てきたので、犬オンリーマンガ家の高橋よしひろ先生の「銀河伝説WEED」(15巻)から、 何十匹もの犬が傷ついた身体を癒すべく露天風呂に首までつかっているという、話としては理解できるが、 いざ絵にしてみたら変な1コマを紹介して終わろうと思います(図8)。
これなんですけどね、25ページも犬、フロ入ってんですよ。犬フロ長すぎ!

「うしろの百太郎」「銀河伝説WEED」は本店にて取り扱いしております。興味のある方はどうぞ。

※この記事は2004年10月12日に掲載したものです。
(担当 岩井)
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