岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第38回後編

何もないキッチンで作るナポリタン

札幌店に出張する前に、前任者たちに住居についていくつか質問しました。
部屋が乾燥しているから加湿器を買ったほうがよい、といった役に立つ情報から、 便所は正直あまり掃除してない、などというブルーになるしかない情報までです。

そんな中、ある女性スタッフが「調理器具は一通り揃ってますよ」といっていました、たしかに。僕は聞きました。

さて今回は第38回のつづきです。
ティーン向け料理書に載っていたとおりナポリタンを作ったらどうなるのか。 スパゲティは15分ゆでろ、と書いてあるがそれでいいのか。 やってみました。その顛末をどうぞ。


(図1)


(図2)

まず材料をそろえにいきました。
といっても、仕事が終わってからなのでスーパーはすでに閉店しており、コンビニしかありません。野菜類も置いてあるセイコーマートでよかった。

たまねぎ198円、ピーマン198円、ベーコン297円、ケチャップ218円。 マッシュルームは売ってなかったので省略、トマトがなかったのでケチャップで代用です。

スパゲティは15分ゆでれ、とあるので、一番被害が小さそうな11分ゆでの1.8ミリ198円を選びました。これが材料全体図です(図1)。

まずスパゲティをゆでるために鍋を探しましたが、びっくりしました。

こんな鍋しかないのです(図2)。

あとは片手鍋と行平なので、スパゲティが入らないのです。
こんな直径30センチ以上もある大きな鍋、前任者たちはなぜ買ったのだろうか? 何に使ったのか? 大きさ的には「相撲部屋のちゃんこ風景で出てくるような鍋」「炊き出しやキャンプで豚汁でも作るような鍋」といった趣きです。 スパゲティが似合わないことおびただしいですね。

つぎはたまねぎとピーマンを刻む。
・・・しかし包丁が異常に切れ味悪く、なかなか切れません。
やっとの思いで刻み終わり、さあ炒めよう、とフライパンを火にかけたときに気がつきました。

さいばしがない。

引き出しやら戸棚を見回しても、どこにもない。前任者たちはどうやって調理したんだろう。
仕方がなく、コンビニでくれた割り箸の封をあけました。
で、さあ炒めるか、とたまねぎをフライパンに放った瞬間に気がつきました。

油がない。

まてよ。いくらなんでもそんなことはないだろう。
皿もある、コップもある、包丁もまな板も調味料もある、ラップもホイルもある。 まさか油がないって事はないだろう。
探しました。どこにもない。

仕方がなく寒空の中セイコーマートにとって返し、サラダ油を買ってきました。
やけに大きい1リットルのしかないので301円。
もうこの時点で、ナポリタンのために1410円もの出費を強いられています。


(図3)

気を取り直して調理再開です。
やれやれ・・・とフライパンを手にし、塩コショウしようと棚をあけました。 確か調味料はいくつか入ってたはずだ。そこにあったのはこれ(図3)。

カレー粉と、バジルと、オレガノと、コショウ2種。

で塩、塩は・・・塩がない!

ちょっとまて、話を整理しよう。
カレー粉、オレガノ、バジル、コショウ?

カレーを作りたいのはわかる。
バジルをスパゲティに使ったのもわかる。
でも、塩なし? 味の素も? 油もなかったし? 日本人として必須の醤油すらない。
ありえない。狂ってますよ。

この棚の調味料しか使わないで自炊してたとしたら、前任者たちは非常にストイックな人たち、 もしくは何らかの主義者にちがいありません。「スパゲティー、バジル、以上! 」みたいな。
いっとくけど、スパゲティーにただのバジルふりかけたって、バジリコにはなりませんよ。

仕方がない、またぼくセイコーマートに走りましたよ。 そうこうしている間にもスパゲティはどんどんゆだるというのに。
3度目にセイコーマートに来た時にはさすがに「お前何度目だよ」って顔でレジの兄ちゃんが僕を見てました。

塩72円。合計1482円の出費。
泣きたくなりました。
ちなみにセイコーマートのナポリタンはたった105円という安さなので、この金額ならば14個買えます。

ゼイゼイいって部屋に戻り、火をつけて炒め、塩を振る。
続いてコショウ。2種類あるほうからあらびき黒コショウを取って一振り。


(図4)


(図5)


(図6)


(図7)


(図8)

思い返せばこのとき黒コショウを選んだのが運のツキでした。悲劇はそこで起きたのです(図4)。

一瞬、何が起きたか分かりませんでした。
この黒いのなぁに? 舐めてみる。
ピリッと辛い。コショウですよ、コショウが山盛り出てきちゃった!!

ギャーーーーッ!!!

声に出して叫びました。
顔に大きくしわがよって、一瞬、樹木希林みたいな顔になっちゃったくらいです。
震える手でコショウのビンを見てみると、これです(図5)。
中蓋が取られているじゃないですか!!

いつ誰が何のために? まるでわかりませんが、ハッキリしているのは、 前任者のうち誰かが「コショウの出が悪りいな」とばかりに、中ブタをポイっと廃棄したことはたしかでしょう。
S藤さんか? M川さんか? 50嵐か? それとも竹下くんか?

頭に憎いあんちくしょう達の顔が浮かんでは消えますが、恨むのはあとです。
このコショウの山をどうにかしなくちゃ! 悩んだ結果、水で洗ってもっかい炒めなおしました。大幅な味ダウンです。

炒めて、これをケチャップであえる。
やれやれ、やっとソースと具が出来た。

おなじころ、15分きっかり経過。
おそるおそる鍋をのぞいてみましたが、 スパゲティの黄金色のまぶしさはそこにはなく、なんだか白っちゃけたダラダラのスパゲティがそこにはありました(図6)。

でも予想以上にしっかりしています。
これはなんとかいけるかな? 気を取り直して湯を切ろうとおもったら・・・

ザルがない。

さすがにこれはセイコーマートにも売ってないので、我慢してハシでどんどんフライパンにすくっていきます。
炒めてあえて、味がなじんだら完成です(図7)。

できあがりー。粉チーズはなしです。

なんだかひどく走り回った気がする。
つごう4人分のナポリタン作るために約1500円の出費です。
労力的にも金額的にも割に合わないですね。
さあ食べよう、と思ったら・・・。

フォークがない。

仕方がないので割り箸で食べるハメになりました。
当然、フォークでくるくる、はできません。ウドンをすするようにズゾズゾ食べなきゃです。
この切ない姿を見て誰がナポリタンだと思うでしょう?(図8) 前置きなければ、やけに変色した焼きソバだな、と思われること必定ですね。

さあやっとこ試食です。「ティーンは15分ゆでても大丈夫」が今回の試みの大前提にあります。
15分ナポリタンが、それでもおいしい、と言い切れるのなら僕はまだまだティーン。
でもマズかったら、感受性の鈍いおっさんなんです。

ムシャ。

すみません無茶いいました、もうおっさんでいいです。
うん、マズいです。
うーむ。やけにニチャリ、グチャッとしたスパゲティだわ。
思ったよりはやわらかくなかったけれど、そこから炒めて火を通すのは厳しいですね。そしてコショウ臭い!

今回はしかし、前掲書「たのしいクッキング」のせいというより「一通り揃っている」という調理用具や調味料のせいのような気がする。
「たのしいクッキング」は悪くありません! ・・・たぶん。

それにしてもコショウの中ブタを捨てたのはだれなんだろう。許せませんね。
あまりにむかついたので僕はそのままにしてこの部屋を立ち去ろうと考えているのですが、 その後、この部屋に入る誰かが肉かなんか炒めてコショウを振り「ギャー」と叫ぶハメになるのかと思うと、なんかたのしい気もしますね。

たびたび紹介の前掲書「たのしいクッキング」は、札幌店で取り扱っております。ベタベタのナポリタンを作りたいのなら、札幌店へGO!

※この記事は2006年2月23日に掲載したものです。

(担当岩井)

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