銀行に篭城といえば

銀行に篭城・・・といえば、遡ること33年前の、三菱銀行襲撃事件ですね。

「襲撃に際して黒スーツにサングラスに帽子、くわえタバコといういでたちであらわれた彼は、間違いなくマフィア然としてキメていたにちがいない」「でもこの事件自体はあまりに凄惨で語る気がしない」とは、ナンシー関による事件および犯人・梅川昭美のイメージです。
あのナンシー関が「語りたくない」などというのは実は滅多にないことで、当時ナンシー関の本を100円棚でかたっぱしから集めていた僕は、女史の心に残るコラムの中でも、妙に忘れられないものになったのでした。

僕は年代的に、リアルタイムでの記憶はまったくなく、両親から「怖かった」「日本中がテレビに釘付けになった」と後年聞かされたことがある程度です。しかし、梅川の異様ないでたちと破滅的な言動や行動から、昭和犯罪史の中でも人々に極めて大きなインパクトを与えたのは事実です。たとえば

・金を入れるのが遅い!と怒り、躊躇なく何人か射殺
・篭城した銀行の行員を裸にして自らを囲ませ「肉の盾」にする
・生意気な行員の態度に激昂し、耳を切らせる
・その耳を口に含み「まずい!」と吐き出す
・女性行員にストリップさせる・
・半面「こん中で片親のものはいるか!」といって名乗り出た女性行員にはストリップを免除
・差し入れられたカップラーメンに「こんなもの、栄養がない!」といって怒る
・報道で間違えた名前で呼ばれて「俺の名前はアキヨシじゃ!報道の奴らにいっとけ!」と怒る
・母親に絶大な恩を感じていた梅川は「自分は死ぬだろうが、母親に金を残したい。なんとかならんか」と行員に融資を持ちかける
・ステーキと、シャトオ・マルゴー69年を差し入れろと怒鳴る
・何百冊もの思想書や哲学書などを読み漁り、反権力に傾倒・・・

などなど。今回記憶をたどりつつ事件系のサイトみましたが、案外覚えてるものですね。やっぱ衝撃あるですよ。


そんな「三菱銀行襲撃事件」ですが、昭和の事件を扱った犯罪アンソロジー集「現代猟奇伝」シリーズでは巻の2と7の両方にそれぞれ収録されてます。

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まずひとつめが「現代猟奇伝2」の「狂った時間」という題名で字岬(あざなみさき)という、なんとも失礼ながらきいたことがなく、なんともいえない人が描いてます。誰かの変名なのでしょうが絵はなんとなく見たことあるなという程度で。

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こちらの梅川は頭も切れるしそれでいて凶暴というイメージそのものですが、まあもとがエロマンガということで、人質にした行員たちを相互にセックスさせたりするシーンが出てくるんですな。例の「片親の娘には甘い」描写もちゃんとありますよ。

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「オラ、立たせてやらんかい」とフェラを強要したり「もういってやらんかい」と射精を強要したり。射精って強要できるのかよ!。まあほんと見てきたようなウソといいますか、エロ本のサービス精神ですね。

まあだってね、事実を事実としてここに書いたって仕方ないわけですよ。だってここはエロマンガですよ。エロ無しに行員の耳切ってくちゃポイ、「まずい」そいで「シャトオ・マルゴーよこせ」ではエロマンガにならんわけです。
でもそう考えてみたら、たぶんコンビニ本の実録事件マンガ本のほうが制約ないしページ数も多いから、もっとかっこいい梅川が描かれたりしてるんでしょうね。ちなみにそこまで手がまわってなくて確かめてませんが、きっとある。

でもってこっちの梅川はカタルシスというか、スプラッタ的です。行員バンバン射殺、眼ん玉吹っ飛びます。グロです。そういう時代だったなあ。だって89年の本だもん。話ズレましたが、梅川の外装をちゃんとおさえてるというか、ギャングきどりの服装に猟銃・散弾銃って基本設定は抑えてます。

で、この6年後にですね、まだこのシリーズは根強く続いてまして。なんでだろ。
まあ桜桃書房はこの年代、ものすごい数のエロアンソロジー集を出してました。月刊に近いものもありました。くらべると「現代猟奇伝」は1年1冊くらいのスローペース。このペースで出すアンソロって他にはまずないし、氏賀Y太の「真現代猟奇伝」の存在の異質さを鑑みても、やっぱりこのシリーズ、事件実録にこだわりのある編集者が中にいたんでしょうかね。

ただですな、エロアンソロの多くの部分をしめてるどうしようもない部分「きいたこともない人がジャンジャカ出てくる」はやっぱりここでも健在でして。

話変わりますが、企画モノ女優っていますよね。AVで。素人モノだ、熟女モノだとか。いわゆるピン女優ではない、と。十把一絡げで名前が出ない状況ですよと。
でもそれなりに見れるというか、異常に容姿が落ちる人というのはあまり出ない。というか、かなりにきれいな女優も多い。それだけ(不況で)AV出演希望者者の裾野が広いからレベルも高い、という話ではあります。

です、が、00年以前の、この当時のエロアンソロジーというのは、同人ブームとマンガ志望者というとてつもない裾野の広さを考えても、それでも納得できないくらい「なにこの人」感というか、そもそも本業でマンガを描いている人なのかも疑わしいレベルのヒトがやっぱりジャンジャカで出てくるわけです。エロアンソロに出てくるしょっぱいヒトたちの中でも、本当にドヘタな人が、この「現代猟奇伝」には集まってたんですよ。奇跡的なまでに。

その分だけプリミティブで、衝動が筆を上回ってる、偉大なる空回りを生んでいる作品も少ないながらもあり、平成の貸本マンガみたいなところがあります(これは前述したコンビニ実録マンガにもそういうとこありますわね)。そういったことを加味しても、「現代猟奇伝7」の「ソドムの市」に出てくる梅川は納得できない技術レベルかつ描写だらけです。だらけなのです!!

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表紙からしてなんだかどうにも奮い立つものがないガサツさというか、いいことがはじまるヨという感じがミジンもないというか、ダメな方向で「先様の言いなりになるしか苦痛を逃れる方法はないな」、と諦念に満ちたような印象をあたえる自殺的な絵といえます。ここまでのなげやりさは95年当時でも稀ですね。

ジャケが「トーン貼っときゃ描かなくても背景埋まんだろ」感に満ちてまして、いったい何時間で何枚の原稿をやっつけたのか訊いてみたいところであります。そもそも表紙に作者名がない、というスパっとした潔さも素晴らしい(というか名前をさらしたくなかったのかも)。
ちなみに鮎川あおいが描いてます。当時のそれなりに売れっ子だった作家さんですね。


なにからなにまでガッカリな出来ですが、まず梅川の外観。これから銀行に押し入るって時に礼儀正しくギャングの格好してくような人ですよ? ニーチェに傾倒したり、女子行員に「お前らソドムの市って知ってるか!」って問いかけるような人ですよ? 梅川には学歴はないけれど学がないことを気にして背伸びして感じがある中二ぽさがないとダメなんだよ! それがなんだ。渋い木製ストックの猟銃じゃなくて、日本じゃ手に入らないM16手にしたパンチのオッサン、これではただのヤクザですよ! 

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とにかく線がヘロヘロ、しらたきのようで「下書きしたのかな?」と疑わざるを得ない出来具合です。全編がこれなのです。1年に1回のスパンで作ってる締め切りのあってないようなもののアンソロ集に、この出来のものを乗せる必要があるのかしらというほかないですね。

で、エロアンソロ集ですから、利き手を高射砲に添えて炸裂弾を装填する猛訓練(東陽片岡リスペクトな比喩です)のための露払いが必要なわけですが、ここからがすごい。

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服を脱げというのは展開上アリですが、3コマ目の「ダダダダ」がすべてをどうでもよくさせますね。暴力的かつ理知的なところがまるで皆無の梅川です。

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で、行員同士でセックスゲームをはじめるぞという。狙撃されないために行員を肉の盾にしたのに、セックスゲームさせるのは狙撃される気マンマンなんじゃないかなどというのはナシです。エロ的お約束です。しかし・・・30分以内に射精した奴は殺す、と。やれなくても殺します。と。すごいルールですね。

猟銃を突きつけられて勃起して、なおかつ30分も挿入せよなどということを求める梅川。そんな状況できちんと勃起する行員もすごいが、その緊張感で高まってしまいうっかり射精する男性行員。度胸ありますな。AV向きです。

で、こんときの梅川の言葉が最高にいかす!

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「いいか 射精したら死あるのみだ!」

もう篭城ではないですね。押し入り強盗でもない。しかし間違いなく素晴らしいセリフであります!
いま検索したら「射精したら死あるのみだ」で検索しても上位に全文一致が出ませんので、つぎから「まんだらけのトップページを経由しないで岩井の本棚ブログに飛びてえな」と思ったらこの言葉で検索かけていただければ最も早くこのページにたどり着けるかもしれません!

で、この後梅川も乱交に参加したり、イった女性のクリトリスを切れとか命令した後、めでたく射殺されこのマンガも終るわけです、はい。

いや、しかし「シャトオ・マルゴーよこせ」どころか、「野田内閣総辞職せよ」とか言ってる時点で、今日の立てこもり犯が梅川レベルではない当然としても(50歳と報道されたあとに32歳と訂正しろと命じたあたりは梅川チックですが)、やっぱり世への恨み方が度数が違うという気がしますね。生まれや周囲への怨嗟がハンパないんです。

あと、梅川はこのときまだ30歳ですよ? ぼくも自分のトシを考えると思うのですが、昭和の30歳といまの30歳とはぜんぜん違う。

まああとなにがすごい、っていったら、この梅川と交際してた女性、というのが、山口組組長襲撃事件こと「ベラミ事件」で名をはせた鳴海清とも内縁関係にあったという事実です。鳴海清が惨殺された後、梅川と交際したとあるのですが、パッと散った邪悪な花火ともいえるこの二人と連続して交際してた、って、どんな肝の女性なんでしょうね。ちょっとすごすぎる気がします。







しかしまあ久しぶりの更新がですね、これでおわってしまうのも殺伐としてしまいすぎてるので、今日の週刊誌からみつけた、好いたらしい画像もいっしょに乗せましょう。

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いまいちばん面白い、というかムフフな個所がてんこ盛りなマンガ、ヤンジャン「サムライソルジャー」より、悲嘆にくれて麻薬をやり音楽に没頭、ウオオオオと叫んでキメまくるイジメられっ子です。いやあ今回の「サムライソルジャー」、最後のコマで大爆笑しましたね。

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アクションからはドラマにもなった人気作「幸せの時間」、あまりに結ばれすぎて饒舌になりすぎるふたりのおセックス。この男の人いつもこうなので、きっと「きみは最高だ!」とか云わないと勃起が維持できないタイプの人です。

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最後はコレ。スペリオール「ラーメン才遊記」。ラーメン屋でケータイを充電するイヤな客、というシーンで出てきたんですが「イエース!アイ・アム・ノマド! ノマド! ノマド!」と大連呼。バカかお前!

「ラーメン才遊記」はラーメン二郎のことを「ラーメンドキュン」と名前を変えてモチーフに出し、客が「ドキュンイズナンバーワン!ドキュンイズナンバーワン!」と騒ぐなど、世の中の話題になってる何かをちょっと小バカにしたキツい物言いをするときがそれなりにありますが、今回のノマド嘲笑もすごいですね。

ちなみにイエースアイアムノマドで検索しても上位には何もないので、「まんだらけのトップページを経由しないで岩井の本棚ブログに飛びてえな」と思ったらこのイエースアイアムノマドで検索かけていただければ最も早くこのページにたどり着けるかもしれません!


じゃあ、またね!

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