古本体質その2/愚かなる作家とディスられた人とスピリッツ

買取で、週刊スピリッツが20冊ほど入荷しました。だいたい85年のものですから、今からちょうど30年ほど前ということになります。
僕がスピリッツを読み出したのは小学生の高学年か、中学になりたてのころ。その頃は立ち読みだったので気になっていた作品しか読んでなかった、たぶん「めぞん一刻」「美味しんぼ」「コージ苑」くらいしか目を通してなかったと思います。

その頃の表紙がこれ。

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この号はめぞん表紙ですが、基本的には響子さんの右にあるようなこの果物とかが擬人化された系のポップな絵が表紙で、いわゆる作品のキャラが毎回デカく表紙を飾ってるわけでもなかったのがスピリッツの特徴ですね。

で、このあたりの号の目次がこちら。

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スピリッツの黄金期よりも若干前で、とにもかくにもこのころのスピリッツをささえていたのは「めぞん」。
目次を見ていただければ分かるように、あの当時のジャンプってバケモノじゃね?こんなに面白い作品ばかりなんておかしいでしょ、といわれるようなものではなく、それなりに人気があった作品はあれど、30年後のいまだと、読まれる/語られる作品の多さでいえば、ジャンプの80-90年代とはくらぶべくもないわけです。変な話、いま六田登の「F」や「傷追い人」は語られないというか。
「めぞん」はスピリッツの創刊と同時に連載が始まり、スピリッツを躍進させ続けた作品なんです。この前年に「美味しんぼ」が始まり、一躍人気になりましたが、同時にそれは長年続いてきためぞんの終わりが近づいてきたということでもありました。

この翌年、隔週雑誌だったスピリッツが週刊化します。その時点で部数は100万部を越えていましたが、100万部を越えさせた・週刊化できた大きな原動力がめぞんだった、というのは疑いようのないところです。この翌年にはアニメ化して、さらに人気が一般層にも広がることに。
やっぱり高橋留美子さんってすごすぎますね。NHKの紅白に選ばれるには単純な人気のほかに、NHK自体への貢献度みたいなものも加味されるときいたことがありますが、小学館が紅白を開いたとしたら即当確。毎年赤組のトリ候補で出場する権利をもっているひとりだと思います。

で、そのスピリッツの目次にはこんなコーナーがあります。

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いわゆる編集後記というやつですな。おなじように多くの雑誌でも掲載されてて、たいてい目次とか読者のお便りページに載ってる。中には裏話的なものが載ってたりで、その情報って結局のところここにしか出典がなかったりして、で、当然単行本化されないので、この編集後記ってなかなかに興味深いんですよ。
あと目次で、作者の近況ですね。あれも作家が他の作家・作品をリスペクトしたり、他の作家との交流にふれたり、なかなか興味深いんですが、あれも単行本化されないので死に情報になってしまう。新聞のラテ欄だけあつめた本があるそうですが、各雑誌の目次だけ集めた本があれば、是非ともほしいですね。

ちなみにこの「実在の響子さんは博多の人でした」とは、リアルにある一刻館をさがせ!という企画にでてきた女性の感想ですね。本作の響子さんではないので念のため。

なかには他誌に対するライバル心をかんじるコメントもあったりして、

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まあジャンプのことでしょうが、他社のものが前時代的と言い切るのはなかなか勇気のあること。実際石坂啓はこの先何年もスピリッツの脇を固める作家のひとりとして活躍しています。

鳴り物入りではじまり、ミスタードーナツとのタイアップもあった江口寿史の「パパリンコ物語」が休載だらけであることに苦言も。

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もはや白いワニは読者と編集部の間でも符牒になってたのがわかりますな。
この編集の嘆きもよそに、実際にはほとんど掲載されず、合計でもたった数回しか載ってません。
僕自身も経験ありますが、目次にはキチンとページ割しているにもかかわらず、該当ページを見てみると「これまでのおさらい」とか「キャラの紹介」が載ったあげく、何ページも広告が連ページで掲載されているという事態がなんどもありました。
しまいには「次号より週刊化!」という節目の号に先ちゃん自ら「第一部完です、休養して原稿を描きだめして第二部をはじめるから、ちょっと休ませてね!」と宣伝マンガを描き、やっぱり第2部はまったく描かれぬまま終ったという・・・。

そんな挑発も嘆きもある意味そんなに驚きはないんですが、いやこれには驚きました。

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愚かな作家!?
2回で決別!?
何があったんだよこれは・・・?? と思わざるをえない、この激しい口調。

で、震える手でその1号前を見ると、ありました、これがそれです。

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川三番地「オヤジ高校生」

いやあ、愚かなる作家といわれたのは川三番地だったのか。この作品自体も聞いたことがない。

原稿を落としたのか、それとも方針でぶつかったのか・・・人気投票の結果が出る以前で打ち切られてると思うので、これは単なる打ち切りではないんじゃないか。第2回表紙の「はやくも人気もの!!」の柱が空しさを助長しますね。人気ものは2回で終了しないと断言できます。
この作品じたいも紆余曲折があったのか、連載開始前の号ではぜんぜん違うタイトルで予告されてるんですよね。

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「突貫ビタミン」。

これが僕の前コラムでも触れたように、ここで記録しておかないと消えちゃう情報ですね。突貫ビタミンで検索してもなんにもひっかかりません(「オヤジ高校生」についてはWikiに情報がありましたよ)。
そんな情報必要ねーよといわれようと、こういうのをここに記載してしまうのが古本体質なのです。

川三番地というと、いまでこそ「巻数長ーい野球マンガの大家」というイメージで、最近は功成り名を遂げて「オレの若いころの話でもしようかな」と「あしたのジョーにあこがれて」でちばてつやのアシ時代の話をマンガで描いてますが、野球マンガ以前のころはあまり語られません。いわゆる作家名の読みが「かわみつばち」時代ですね。
小学生時代マガジンを読んでいた自分には講談社「おれは万太夫」が初遭遇でしたが、いやこれは下品な忍者下ネタものでしたな。
たしか同じころだった川三番地「ほんでもってESP」もそうだけれどハダカと乳首と勃起が頻繁に出てきて、ハダカと乳首が好きな子供心にはうれしいものでしたが(勃起はキライです)、親にはむつ利之だの「マグ&ヨーコ」だの「あんどろトリオ」だの千之ナイフと同様に、ハダカと乳首がドンドコ出てくるが故・ちょっと親の目の前では読みづらいのでコソコソと読むようなマンガたち、当然親からも「あれは下品だからキライ」と言われるような群でしたね。ハダカと乳首には寛容な親も、たいてい勃起には不寛容だったと思います。まあどこでもそうだろうけれど。

それにしても川三番地も勃起が大好きなのか、マガジンを一旦離れるあたりの「佐藤くん」もセックスやりたいがために野球を始める主人公が、終始勃起してるようなマンガで、それも北条司の「モッコリ」とか遊人の「ぼっきーん」みたいな明るい噴火みたいな勃起ではなく、陰茎が膨張してるのが形としては分かるが暴走の趣はない妙に生々しい勃起描写だったような覚えがあります。たしか「もっこり・・・」という擬音までついていた記憶がある。これは勃起にはこだわりがある人なんじゃないかと。

なんにせよ、そういったエロの路線を入れたギャグを期待されて、100万部雑誌であるスピリッツに迎えられたんだと思います。講談社から小学館へと活躍の場を移したんですな。
が、何があったか知らないけれど、たった2回で打ち切りに。どういう衝突があったのかは知らないけれど、この編集長の怒り方というのはハンパないですよね。単に落としたから打ち切ったのではないという印象をうけます。

で。そのあと川三番地はどうなったのかというと・・・。

エロとギャグを描ける人ということで青年誌、でも一気に格が落ちるあたり(失礼)で連載をもち、単行本が日本文華社(現・ぶんか社)から出てることもあってこのあたりは当時雑誌で読んだ記憶がなく、うちに入社後になって「ニッポンのロボコップ THE鈴木くん」だの「弾ちゃん」を読んだがなんともいえないダメなマンガで。弾ちゃんはゴルフのマンガで、各コース構成が「玉入れるの無理くない?」としか感じないほど奇抜だったことしか覚えてません。

しかし今の川三番地を形成する長編野球マンガを始めるのもこのあたり。つまり「4P田中くん」のスタートであり、ちばてつやの実弟・七三太朗原作とのタッグですな。このあたりでは本来の作風である下ネタを封印、子供たちの野球マンガを描くことに徹しています。
そして90年代になると育ててくれたマガジン系に復帰、「風光る」の好調でマガジン本誌に復帰「Dreams」、「天のプラタナス」と野球マンガでは磐石のヒットメーカーとして現在に至っています・・・。
います・・・が、そのあと野球マンガで活躍しているにもかかわらず、この「オヤジ高校生」以降は小学館とは縁なしであることも事実だったりします。それが単にめぐりあいの問題なのか違うのかはわかりません。

それにしても「4P田中くん」が全51巻、「風光る」全44巻、「Dreams」が現在68巻、「天のプラタナス」が現在24巻と、ここだけで合計187冊と、これが同一タイトルであれば「こち亀」と比べても遜色ない冊数です。ここまで野球マンガを書き続ける需要があり続けるというのは、すごいとしか言いようがありません。野球マンガも下火になった時代がありますが、そのときでもこのタッグは連載し続けてましたからね。

さて話し変わって、この編集後記の担当は下に(S)とありますな。じゃあこの「愚かな作家」と言い放った編集のS氏は誰かというと、この方です。

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一番有名な姿をもってきましたが、スピリッツの初代編集長でもある白井勝也氏です。「サルまん」でいう器のデカすぎる男ですな。創刊時35万部だったスピリッツの部数を6年間で3倍にした人です。
とにかく実績で言うと日本マンガ界でも屈指のもので、この間まで小学館副社長、いまや小学館最高顧問にまで上り詰めたという・・・たしかにそんなマンガの鬼としかいえない人にはなかなか立ち向かえるものではありません。

さて86年当時、100万部あった部数はどうなっていったかというと・・・ウィキによると2004年で46万部。2008年で35万部。2012年では21万部となり、直近の15年では17万部前後まで落ちている苦しい状況。
この数字は「週刊マンガ誌」というくくりではもっとも小さく、兄弟誌であるオリジナルの3分の1になってしまっています。

高橋留美子が去ったスピリッツをその後支えたの作家の代表が浦沢直樹で、この当時が黄金期とも言えるあたりでしょう。吉田戦車「伝染るんです」もこの時代です。
スピリッツでを毎号買うようになった大学生のころは読むところがいくらでもあった本誌も、そういえば僕もそんなに読んでないし、単行本も何作かしか買ってなくなってしまった。最近また少しづつ復調してきたので、隔週化したりせず、ずっと週刊のまま続いてほしいなあ・・・。

中野店 岩井

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