先日、魚喃キリコさんの初単行本「Water.」は版元違いで3種類発行されている・・・と触れました。今回はその差についてお話したいと思います。
今となってはあまり触れられることがないので、意外に思う方も多いかもですが、魚喃キリコさんはガロ出身。90年代中盤から後半は、ガロの読者はサブカルやアングラ寄りになったこともあり、読者の女子の比率が高くなっていました。
90年代、実はガロは雑誌としてはけっこう成功しており、部数もすこしずつ伸びていたのですが、その多くがこういった新規に読者になっていった女性層だったりします。
そのため90年代最初にデビューした魚喃キリコさんの初単行本は青林堂から発行されています。これが96年1月発行。
その後、ガロ編集部クーデターによりガロ編集部は分裂して、ガロの発行母体だったツァイトも倒産。そのため発行からそんなにも経過していないのに絶版になってしまうのです。
それに先立つ96年から「コミック・アレ!」にて「blue」を連載していたこともあり、翌98年9月に「Water.」のマガジンハウス版が発行。約10年増刷されていたこともあり、この版が最も流通部数が多いです。
さらにその後「strawberry shortcakes」以降、祥伝社で連載が始まり、「blue」ほかマガジンハウスで発行された本が一斉に再刊行されたことで、やっぱり「Water.」も。これが07年4月発行。合計3種類ですね。
![wasyo1.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasyo1.jpg)
左から青林堂版、マガジンハウス版、祥伝社版。表紙は全ておなじです。
![wasei2.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasei2.jpg)
こちらもおなじ順ですが、左の青林堂版の頃はJANコードがなかったことがデザイン的に幸いしました。中央マガジンハウス版は青林堂版のロゴ「seilindo」を削除。ロゴのフォントもタイトルロゴに合わせて変更されましたが、このバーコードが青林堂版に比べるとジャマです。右祥伝社版はいままであった「by kiliko nananan」の文字が削除。おそらく青林堂版・マガジンハウス版の初版時には、まだ知名度が一部のものだけだったので、(棚に並べる書店員のためにも)名前のルビ的な意味でもつけていたのだと思うのですが、さすがに07年はつける必要がなかったでしょうね。
一方、背表紙もけっこう違います。左の青林堂版は日焼けているので、この色は褪色しているものです。中央のマガジンハウス版はレーベル「MAG COMICS」を背表紙に入れる習慣があるため、その分タイトル文字が小さくなりました。祥伝社版もそれに準じています。
背表紙を見ると青林堂版が若干分厚く見えますが、紙質が青林堂版はあまりいい紙ではありません。白というよりはほんの少しクリーム色の、ややザラザラした紙です。そのためページ数は変わらないのに、青林堂版のみすこしだけ分厚くなってしまっています。
マガジンハウス版と祥伝社版はともに良い紙を使っていますが、マガジンハウス版はインクがつや消し。祥伝社版はインクがつやありという差があります。
そこにどれほどの差があるのかといわれると難しいところですが、魚喃キリコさんの絵といえばスクリーントーンを多用せず、コントラストの高いはっきりしたタッチで、ベタはフラットブラックのほうが映えますし、照明も反射せず、黒は黒のまま美しくムラも感じません。比べるとベタ部分にツヤがあり読むときは照明の光をすこし弾きテカりがある祥伝社版は(個人的には)やや劣るかなと感じます。
![wasyou3.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasyou3.jpg)
![wasyo4.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasyo4.jpg)
上が祥伝社版で、下がマガジンハウス版です。なにぶんブログ用にリサイズしたスキャナ画像なので差がないように見えるかもしれませんが、液晶モニタの場合は頭の黒い部分をが画面下4分の1くらいに持ってきて、モニタを上からすこし見下ろす感じで見ると、ムラの差が分かると思います。
ザラ紙だった青林堂版は紙質の問題もあって光を反射しませんでした。それを復刊させるとき紙質をバージョンアップさせ、よい紙を使い、そしてマットでフラットなベタに感じさせるため拘ったのがマガジンハウス版。もっともそのかわりですが、若干(ほんの、ほんの少しの差ですが)祥伝社版のほうが白さがはっきりした紙を使っています。
マガジンハウス版は魚喃キリコさんのこの絵を味わうなら黒の発色が絶対におろそかにできない・・・という製作者の強い意志が感じられます。
もっとも肝心の内容のほうは実はまったく変化なく、こういた再刊行にありがちなあとがきもなく、あえていえばノンブルの場所が変わったくらいです。加筆や修正は僕が読んだ限りはありませんでした。
内容に変化がないから、どれが良いかを一概に決められないというのも確かにあります。オリジナルの雰囲気が確かにある青林堂版。経年劣化も少なく新刊ゆえの清潔感がある祥伝社版に比べて中庸、ともとられるかもしれないですし。
で今回調べていたところ青林堂版の奥付が
![wasei3.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasei3.jpg)
こんな感じで天地逆でした。僕の持ってる青林堂版はこんなだった記憶がないので乱丁だと思いますが、ごくごく低い確率でこういった本に当たることもありますのでご注意の程。
今となってはあまり触れられることがないので、意外に思う方も多いかもですが、魚喃キリコさんはガロ出身。90年代中盤から後半は、ガロの読者はサブカルやアングラ寄りになったこともあり、読者の女子の比率が高くなっていました。
90年代、実はガロは雑誌としてはけっこう成功しており、部数もすこしずつ伸びていたのですが、その多くがこういった新規に読者になっていった女性層だったりします。
そのため90年代最初にデビューした魚喃キリコさんの初単行本は青林堂から発行されています。これが96年1月発行。
その後、ガロ編集部クーデターによりガロ編集部は分裂して、ガロの発行母体だったツァイトも倒産。そのため発行からそんなにも経過していないのに絶版になってしまうのです。
それに先立つ96年から「コミック・アレ!」にて「blue」を連載していたこともあり、翌98年9月に「Water.」のマガジンハウス版が発行。約10年増刷されていたこともあり、この版が最も流通部数が多いです。
さらにその後「strawberry shortcakes」以降、祥伝社で連載が始まり、「blue」ほかマガジンハウスで発行された本が一斉に再刊行されたことで、やっぱり「Water.」も。これが07年4月発行。合計3種類ですね。
![wasyo1.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasyo1.jpg)
![wamaga1.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wamaga1.jpg)
![wasyou1.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasyou1.jpg)
左から青林堂版、マガジンハウス版、祥伝社版。表紙は全ておなじです。
![wasei2.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasei2.jpg)
![wamaga2.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wamaga2.jpg)
![wasyo2.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasyo2.jpg)
こちらもおなじ順ですが、左の青林堂版の頃はJANコードがなかったことがデザイン的に幸いしました。中央マガジンハウス版は青林堂版のロゴ「seilindo」を削除。ロゴのフォントもタイトルロゴに合わせて変更されましたが、このバーコードが青林堂版に比べるとジャマです。右祥伝社版はいままであった「by kiliko nananan」の文字が削除。おそらく青林堂版・マガジンハウス版の初版時には、まだ知名度が一部のものだけだったので、(棚に並べる書店員のためにも)名前のルビ的な意味でもつけていたのだと思うのですが、さすがに07年はつける必要がなかったでしょうね。
![wa6.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wa6.jpg)
一方、背表紙もけっこう違います。左の青林堂版は日焼けているので、この色は褪色しているものです。中央のマガジンハウス版はレーベル「MAG COMICS」を背表紙に入れる習慣があるため、その分タイトル文字が小さくなりました。祥伝社版もそれに準じています。
背表紙を見ると青林堂版が若干分厚く見えますが、紙質が青林堂版はあまりいい紙ではありません。白というよりはほんの少しクリーム色の、ややザラザラした紙です。そのためページ数は変わらないのに、青林堂版のみすこしだけ分厚くなってしまっています。
マガジンハウス版と祥伝社版はともに良い紙を使っていますが、マガジンハウス版はインクがつや消し。祥伝社版はインクがつやありという差があります。
そこにどれほどの差があるのかといわれると難しいところですが、魚喃キリコさんの絵といえばスクリーントーンを多用せず、コントラストの高いはっきりしたタッチで、ベタはフラットブラックのほうが映えますし、照明も反射せず、黒は黒のまま美しくムラも感じません。比べるとベタ部分にツヤがあり読むときは照明の光をすこし弾きテカりがある祥伝社版は(個人的には)やや劣るかなと感じます。
![wasyou3.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasyou3.jpg)
![wasyo4.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasyo4.jpg)
上が祥伝社版で、下がマガジンハウス版です。なにぶんブログ用にリサイズしたスキャナ画像なので差がないように見えるかもしれませんが、液晶モニタの場合は頭の黒い部分をが画面下4分の1くらいに持ってきて、モニタを上からすこし見下ろす感じで見ると、ムラの差が分かると思います。
ザラ紙だった青林堂版は紙質の問題もあって光を反射しませんでした。それを復刊させるとき紙質をバージョンアップさせ、よい紙を使い、そしてマットでフラットなベタに感じさせるため拘ったのがマガジンハウス版。もっともそのかわりですが、若干(ほんの、ほんの少しの差ですが)祥伝社版のほうが白さがはっきりした紙を使っています。
マガジンハウス版は魚喃キリコさんのこの絵を味わうなら黒の発色が絶対におろそかにできない・・・という製作者の強い意志が感じられます。
もっとも肝心の内容のほうは実はまったく変化なく、こういた再刊行にありがちなあとがきもなく、あえていえばノンブルの場所が変わったくらいです。加筆や修正は僕が読んだ限りはありませんでした。
内容に変化がないから、どれが良いかを一概に決められないというのも確かにあります。オリジナルの雰囲気が確かにある青林堂版。経年劣化も少なく新刊ゆえの清潔感がある祥伝社版に比べて中庸、ともとられるかもしれないですし。
で今回調べていたところ青林堂版の奥付が
![wasei3.jpg](http://blog-imgs-29.fc2.com/i/w/a/iwainohondana/wasei3.jpg)
こんな感じで天地逆でした。僕の持ってる青林堂版はこんなだった記憶がないので乱丁だと思いますが、ごくごく低い確率でこういった本に当たることもありますのでご注意の程。
中野店 岩井