怖いモブ

本日、第4金曜日はスペリオールの発売日です。

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ビッグコミックと名がつく雑誌はいくつかありますが、増刊・季刊誌・月刊誌を除くと4つ。この4つは読者の年齢層が高い順で云うと

ビッグコミック
  ↓
ビッグコミックオリジナル
  ↓
ビッグコミックスペリオール
↓  
ビッグコミックスピリッツ

となります。ざっくり分けると読者層は50代以上、40代、30代、20代・・・くらいでしょうか。

ビッグコミックは何をおいても「ゴルゴ13」「山口六平太」。それに「黄金のラフ」。落ち着いた物語と人情モノ+職業モノ(「築地魚河岸三代目」とか「華中華」とか)。もう何十年も読み続けてるからゴルゴを読みたい、という年配の方も少なくありません。
「オリジナル」も職業モノが多く「岳」「あんどーなつ」「弁護士のくず」「深夜食堂」などあるのですが、お分かりのようにこのあたりの職業モノはドラマ化の草刈場になってます。
もっとも「深夜食堂」は増刊から、「岳」もオリジナル増刊からの移籍。現在はここにヤンサンがつぶれた後「Dr.コトー診療所」も加わり、さらに「あぶさん」「浮浪雲」「風の大地」とカッチリ固く部数を守ってる感じがしますね。

さてこの中間にあるスペリオールはその下、スピリッツと何が異なるのか。それは一言で言うと

「国友やすゆき投入に違和感ナシ」

に尽きます。
「スピリッツ」に「ウシジマくん」やら「ラストイニング」「バンビーノ」「アフロ田中」に混ざって国友先生が混ざってたら、やっぱり「こりゃ若手、フレッシュな誌面とはいえないな」と断を下されても仕方ないというもの。しかし30代メインのスペリオールならむしろ「国友先生? 何云ってますか、ウェルカムですとも!」となる。講談社だったらイブニング/モーニング分岐点、集英社だったらヤングジャンプ/ビジネスジャンプ分岐点。言い換えれば、日本の青年誌は「国友先生がいる側、いない側」で分けることが出来るほどです。
男の人生はわずか10年の間に大きな川が流れており、本人も気がつかないうちにいつのまにか「新幸せの時間」を愛読するようになっていた・・・ということがあれば、ハイ、もう「老」の川を渡ってしまったんだなとあきらめていただくほかありません。だからほんとはM1とM2なんて分類ではなく、国友先生を好んで読むようになったらM2。それで十分じゃないかとすら思えるのです。だからティーンでも国友先生の作品をダウンロードして読んでたらM2です。その尺度で云うと、僕も数年前にM2に入ってしまうのですが・・・。

その国友先生の「総理の椅子」今週号見てびっくりしました。
内戦の続く某国に視察に行った、新人議員で謀略家の白鳥。ゲリラの銃撃から子供を守るために「子供たちには未来があるんだ!」とシャウトし、子供を救うが負傷。その様子がテレビで流れ、民衆はコロリとアイツは正義の味方だ・・・と信じるようになる・・・。

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日本に戻り、入院先の窓からふと外を見ると・・・

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そこには白鳥をカリスマ視し、日本を救えるのは白鳥しかいない!と信じる民衆の姿が見開きいっぱいに描かれてました。
が・・・なんか変なんですよ、その群集シーンが。拡大してみましょうか。

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ドヘタですね。どんなアシスタントが描いたんだか知らないですが、近年まれに見るドヘタなモブシーンです。みーんな目が細くて、眉が上がっててカリスマを迎えるシーンなのにだれも手ひとつ上げず、声援も送らず、ただただ細い目で立ちすくむだけの群集です。そしてなにより無言です。無言でニヤニヤして立つのみの群集。どういうことか。絵の稚拙さも含め怖いですよ。

で絵が上のほうに行けばいくほどテキトーになり

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まだこの辺は目鼻がかろうじて描いてあるけど、しまいには

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もうノッペラボウか、あいまいな線がちょんちょんつけられてるだけ。心霊写真みたいです。じっとみてると怖い。いかにもゾンビゾンビした連中よりも、むしろ表情がなんだか分からない群集のほうが囲まれたくないですよ。

まあね、国友先生からほい、と2枚の原稿を渡されて「ここにモブ、目いっぱい書いて」といわれたアシの人の心境を思えばこれでもよくやったといってあげたいのも事実ですが、やっぱりこれはないなー。

「これはない」なら同号の「味いちもんめ」でも。今日は仕事を切り上げて、飲みにいこうか・・・というシーンでこのギャグ。

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サングラスして「いいとも~」。・・平成も22年、いいとも開始から27年、いまこの2010年に落としのギャグで「タモリのマネして、いいとも~」。これはどういうことか。昭和のギャグとか、形骸化した落とし方とか、そういうのを超越して、いまホントのところマンガの現場で何が起きているのかを考えたくなるコマです。

よくそういうのって「

逆に一周して面白くなってるよね」

とかいうじゃないですか。この場合の1周、っていうのは周回遅れしてという意味ですが、周回遅れしてると認めるということは「すくなくとも同じ方向に向かって走ってる」事は分かってるからまだ安心、という話です。
しかしよく考えてほしいのですが、同じ方向に走ってるんでしょうか? 相手はとまってるかもしれないし、一人だけ駅方向に向かって競歩してるかもしれないし、それどころかグラウンドの片隅で無言で穴掘ってるだけかもしれません。あまりにいまのマンガ界のギャグセンスと乖離しすぎてる気がします。

このコマも「口の悪い同僚どうしがじゃれあって殴りっこしてる」様子ですが

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やっぱり周回遅れとかそういう表現じゃすまされない地平に立ってます。このふたりの表情。止まった手の動き。眺めるバイト嬢と伊橋のたたずまい。このコマで笑いを取ろう、と企てる、倉田よしみ先生が考える笑いとは何なのか。そう思って考えると、それもやっぱり怖い気がするのです。

僕は「味いちもんめ」とはここ10年の付き合いですが全巻持ってますし、旧「味いちもんめ」・・・SAKURAでも楽庵でも、さんたかでもない「熊野はんのとこのアヒル」時代の伊橋から、(やとわれ店長とはいえ)やっと自分の店が持てた伊橋の成長、というのをそれなりに読んで来たのですが、あまりに慣れすぎてしまってて、倉田先生のセンスなら「いいとも~」くらいはふつうにアリ、と感じている部分があったりします。事実、あの殴りっこのシーンはかつて伊橋とボンさんが、20年前からやり続けたじゃれあいであり、僕含む「味いちもんめ」読者にはおなじみの光景です。
しかし一般的にはもちろんおなじみではなく、このコマを見たらたいていの若い子は途方にくれるのではとすら危惧します。

このマンガがこれだけ長期間スペリオールで連載されていながらも、僕以降の世代、「医龍」や「キーチVS」のためにスペリオールを読んでるような若い人達が「味いち」を読んでなかったりするのも、この「世界観を共有することへのセンス的な敷居の高さ」に原因があるような気がします。
「世界観を共有することへのセンス的な敷居の高さ」が邪魔して一般に普及しない・・・という表現が分かりにくいかもしれませんが、「立原あゆみや楠みちはるが何故一部の人気でとどまっているのか」とたとえて考えると理解できるかもです。

中野店 岩井

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