お久しぶりですこんにちは。
自宅のベランダにあるトマトの苗がアプリの育成ゲームかよって速度で成長するのでもはや半信半疑の中野店白石です。
今日は、すこし前に完結巻が出たこちらをご紹介。
講談社/芦奈野ひとし/コトノバドライブ(全4巻)
代表作『ヨコハマ買い出し紀行』よりさらに登場人物、関係性、世界観の説明を削ぎ落とし、主人公の迷い込む「少し不思議な5分間」をひたすら丁寧に描きます。舞台は現代の日本そのままですが、海沿いの岬あたりでせわしくなく、静かで穏やか。ほんの少しだけ異なる世界線のようにも感じます。
主人公はスパゲティー屋・ランプでアルバイトをする「すーちゃん」。トトトと走るバイクが相棒のこの人は、ふとした瞬間に日々の隙間に迷い込みやすいというか、「呼ばれる」人なんですね。個性があるようでない柳みたいな存在なのと、目にしたものを疑わない性格だから...かも知れません。
もっとも魅力的なのは、その寡黙かつ雄弁な描線。画面の大部分を占めるのは、ただただ細かい横線や縦線の群れなのです。それだけで雨に煙る霧、逃げ場のない強い日差し、鬱蒼とした雑木林、冬のキンとした寒さまでとにかくなんでも表現してしまいます。空気のにおいや温度をスッと描き出すのは氏の得意とするところですが、さらに言葉少なに軽やかになっています。
この表現力。
ではここから、作品の中で好きなシーンをいくつか。
「雨と信号のこと」(1巻)
どしゃ降りの雨の夜、車の中で留守番をしていた時。
のちに語られるのはそこが活断層であること、軽い地震があった瞬間だったということ。この回収の仕方も良いです。
「あの坂のこと」(4巻)
空気ががらっと変わるこの感じ。こんなふうに若干オカルトめいた話もあります。ですが迷い込む彼女はただおもしろがるばかりではなく、しまった...!と感じて身を引くこともしばしば。やはり「5分間」は人間のためのものではないのですね。
最後にこちら。
「夏の線のこと」(3巻)
とてつもなく厳しい残暑の夕方、飯屋に逃げ込んだあとの「5分」。
季節の境目を見た...ということなのでしょう。
よく分からない不思議体験として終わるときもあれば、何かしらの原因や理由付けが最後にふわっと置かれたりもします。彼女は主に場所や物事が内包する「過去の記憶」やミクロorマクロの世界に触れていることが多く、この主人公はいわば"話し相手"なわけです。4巻のあとがきに"みんなが同じように見る「公約数景色」"という一節があり、作品そのものの立ち位置がぴたっと明確になった気がしました。ここに描かれているのは公約数景色の対極にある、「その人だけの景色」なのかーと。
そしてもうひとつ、芦奈野作品に登場する雄弁な表現がこちら↓
この人物の右上にある
。
/
という記号、どの作品にも出てきます。小さな物音、ふと吐いた息、何かの仕草、感情の機微など、あらゆる揺らぎの表現として登場します。その示すところの意味は多種多様。ちなみにニュアンスの違うもので「~」「~゜」も。 これが効果音&台詞両方の代わりとして頻出するため、コマの中がすっきりしていてかつ豊かなんです。とよ田みのるの効果音「ガー」と芦名野ひとしのこの記号は、漫画家が発明した最高の表現の一つだと思う...。
こうして綴られるひそひそ話のような全35話の小話は、誰かの夢を辿るようでとても心地いいもの。またスルスルと非現実に迷い込んでは戻っていく主人公は、ファンタジー脳の人間からすれば「羨ましい...」の一言に尽きます。
『ヨコハマ買い出し紀行』はロボットの語った終末の凪、
『カブのイサキ』は圧縮された浮遊感、
そして今作で、一人の若者が佇むなだらかなヴォイド地帯へ。
やはり芦奈野ひとしの描く漫画は安定してすばらしい.........。
この空気感に色が付くと⇒芦奈野ひとし画集 ※名作!!
もっと民俗的に⇒蟲師
これも「その人だけの景色」⇒よつばと!
担当:白石
中野店 白石
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