母と子と将棋がある日常と

 いやー、すっかり寒くなってきましたね。日中は暖かくても夜はもうダウンジャケットじゃないと寒くて、日々モコモコして過ごしております。「ワールドトリガー」が連載再開してB級ランク戦最高だなと思ったり、アニメ版の「BANANA FISH」を観ながら英二のクネクネ感とお姫様っぷりに脱帽し、アッシュと英二の80年代風のイチャつきを見せつけられて「アッシュは本物のちんちんを見つけたんだなぁ...」などと感慨にふけっている今日このごろです。中野店のコミック担当長谷川です。

 さて今回ご紹介する漫画はこちら。

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『ひらけ駒!』南Q太/講談社/全8巻/2011~12年

 南Q太先生といえば、1990年代後半から2000年代後半にかけて主に女性漫画誌「FEEL YOUNG」誌上で活躍され、年頃の男女の恋愛と人間関係、おセックス事情をクールな視線と絶妙な空気感で表現する作風が特徴的。画面構成的には余白の使い方のうまさと、客観的な視点からの冷静で的確な独白やセリフ回しによく現れています。その他にも「お兄ちゃんのことが大好きな妹」漫画の傑作『夢の温度』や、近年では夫婦・子育てものも多く描かれています。
 『ひらけ駒!』も主人公である菊池宝くん(小学生)とその母親の日常を中心に描かれており、子育て漫画の趣もありますが、その生活の中心は将棋。昔からの読者にとっては突然の将棋要素でしたが、実生活で息子さんが将棋にハマり、自分もハマっていったという実体験漫画でもあるようです。
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 勝負モノでは避けては通れないところもあるので「才能」というテーマが前面に出がちですが、今作は(もちろん宝くんは将棋が強いのですが)それよりも、将棋をめぐる登場人物たちの何気ない日常と、プロ棋士だけではない人たちが将棋を指す楽しさや喜びが描かれており、将棋漫画としては珍しいタイプだと思います。宝くんのお母さんが最初は駒の動きしか知らない超初心者なので、将棋の入門漫画としてもよくできています。
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 子ども将棋まつりあるある「子供の頃は強かったおじさん」


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 将棋サロンあるある「普段の職業不明おじさんと奨励会員の浅からぬ関係」


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勝を止められて泣きじゃくる宝くん。このあと連勝記録品の駒せっけんをもらってけろりと立ち直りも早い宝くん。


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 宝くんのライバルである大樹くんとそのお父さんのいい話エピソード。いくら将棋が強くてもまだまだ子ども真っ盛りでかわいいです。


 なんやかんやで宝くんが段々強くなっていき、ほとんど関係ないような人も含め色んな登場人物が出てきて日常が続いていく中、序盤最大の盛り上がりがなんと宝くんのお母さんが初めて大会に出ることになる「女子アマ団体戦」編です。僕が将棋の初心者なのでレベルが同じということもあるのですが、素人の真剣勝負が意表をついてとてもおもしろい!
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 まだ一回しか人と対局したことがないママですが、よっぱらいの勢いもあり大会に出ることに。


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 形から入って調子に乗ろうとするも、銀が真後ろに進めないことを忘れていたママ。


大会当日、メンバーが集まりイケメンの先生からの伝言を伝えられるシーンの「あれ? バカにされてるのかしら?」感が最高です。
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 初めての大会でめちゃくちゃ緊張する菊池母。大人になって安定した生活してると、そうそう緊張する場面ってなくなりますよね。
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 初対戦はいきなり角交換をしかけられてビビる菊池母でしたが、相手が桂馬がきいているところに金を指しても取り忘れるくらいの実力だと分かるとすぐに調子に乗り始めます。
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 そして終盤、もうほぼ勝ちの盤面でお茶も飲めないくらい体が震えだします。

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そう! 将棋を特に対面でやって勝つとめちゃくちゃ嬉しいし、負けるとめっちゃ悔しいんですね。よく言われるのは、将棋は運の要素がほとんどないゲームだから、その勝負の全責任がかかっているからというもの。あとは対面というのもデカいですね。パソコンやスマホとかでも負けると悔しいは悔しいですが、対面の「この目の前にいるこいつに負けたor勝った」という現前性には及ばない。そして、初めての大会での勝利となればなおさらです。それを宝くんではなく、お母さんにやらせるというのが憎いところです。これは作者自身の実体験も多分に反映しているように見え、その点でも実感のこもった描写になっています。
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「同歩~~~」のノリについていけないママの表情がいいですね。


 メンバーと将棋を始めたきっかけの話になり、おばさんノリにドン引きする菊池母。
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 まさかの連勝を記録し最高に調子に乗る菊池15級。
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 調子に乗って攻めていたら、相手王に逃げきられ負けそうになる菊池母の脳裏によぎる先生のセリフが最高です。それしか覚えてないのかな?
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 体型も服装も年齢もバラバラな5人。将棋が好きというだけの集まりの多様性が出ているようでいい写真ですね。
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 「女子アマ団体戦」編が終わると、宝が負け続きで地方の大会に出たり、「将棋教室対抗戦」編があり、6巻から怒涛の「女流棋士」編へ突入。この「女流棋士」編も壇レイ子女流二段をはじめクセの強い女性キャラクターがこれでもかと登場し、南Q太の本領発揮という趣の「ザ・女の戦い」展開が待っています。
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壇レイ子女流二段。普段はふわふわ系お姉さんですが、勝負になるとガンガン攻めるドSタイプ。

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 最年少で女流棋士の頂点のひとつ「女王」の称号を持つ喜連川はるなちゃん。などなど。

 しかし女流棋士編もひと段落して、宝くんの日常に戻る8巻を最後に連載は中断し、その後長く休載します。が、2017年から講談社のwebサイト「ベビモフ」で連載再開!

↓のページで1,2話と最新話が読めます。物語は時系列的に以前の『ひらけ駒!』よりも前の話なので、単行本をまだ読んでなくても大丈夫!
https://babymofu.tokyo/_tags/%E3%81%B2%E3%82%89%E3%81%91%E9%A7%92!
 そしてついこの間(11/22)「ひらけ駒!return」と題して単行本も発売されました。またこの親子をめぐる将棋の世界が読めるのはとても嬉しいです。

 それでは最後に大山康晴15世名人のありがたいお言葉をいただいて終わりにしたいと思います。何かに負けそうになった時に思い出したいお言葉ですね。
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『ひらけ駒!』はこちらから
https://order.mandarake.co.jp/order/listPage/serchKeyWord?categoryCode=00&keyword=%E3%81%B2%E3%82%89%E3%81%91%E9%A7%92

南Q太先生の他の作品はこちらからどうぞ。個人的には短編集なら『天井の下』、連作なら『夢の温度』あたりがおすすめです。
https://order.mandarake.co.jp/order/listPage/serchKeyWord?categoryCode=00&keyword=%E5%8D%97Q%E5%A4%AA

中野店 長谷川

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