はじめまして、今回から岩井の本棚ブログに書かせてもらうことになりました、中野店コミックスタッフの長谷川です。イゴ、ヨロシク!!お願いします。
さて、僕の引っ越し先が団地なんですが、夏で団地で、ついでにSFという連想を繰り広げて今回ご紹介するのが、今井哲也『ぼくらのよあけ』全2巻です。
西暦2038年夏、大接近する彗星を心待ちにしている沢渡ゆうまは、団地に暮らす宇宙大好きな小学4年生。ある日家庭用ロボット・ナナコが、何者かに乗っ取られる。それは宇宙から来た人工知能だった。「私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか?」団地から宇宙へ。ひと夏の冒険が、今始まる......。
といった小学生が主人公のジュブナイルSFな本作なのですが、作者の今井先生が「団地団」という団地好きの団地好きによる団地好きのためのグループのメンバーだけあって、まず目を引くのが団地描写です。
うーん。団地だ。見事な阿佐ヶ谷団地ですね。団地の敷地ってけっこう緑豊かで鬱蒼としてるんですよね。奥に小さく見えるのが西新宿のビル群ですかね。さらにその奥に夏の入道雲。見事な景観ですね。
団地内の広場から、奥に集合住宅のシンボルでもある貯水塔が見える通りを経て、30号棟201号室。これ、「沢渡」のプレートが微妙に浮いてるというか、多分この部分だけ実体じゃないARディスプレイなんですよね。
このコマは主人公たちが屋上に登ろうとするシーンなんですが、上階によくわかんないゴミのような物が置いてあってゴチャゴチャしていたり、昼間なのにけっこう影が差して暗かったりという団地感がよく出ていて好きなコマです。
ところで、漫画ではなくアニメで団地といえば、これを観た当時の少年達の多くを「バイオリン職人を目指せば文学少女と付き合えるのでは?」と錯覚させたことで有名な、罪深いジブリ映画『耳をすませば』があります。「耳すま」の団地描写も、雫がコンビニに牛乳を買いに行く冒頭のシーンからして「これは団地が主役なのでは?」と思うくらいすごいわけですが、基本的には昭和ノスタルジックとバイオリン職人に全振りで、カントリー・ロードなわけです。ちょっと自分でも何を言ってるのかわからなくなってきましたが、要するに『ぼくらのよあけ』は団地なのに近未来SFというミスマッチがいいぞ。ということです。
近未来の設定やガジェットもアニメ『電脳コイル』を思い起こすようなこだわりで、各話の間のページに「ぼくらの未来図鑑1~8」と銘打って詳しく説明されています。AIが生と死について長々と話すシーンや、技術的特異点についての話と相まって、設定好きのSFファン視点でも楽しめる作品です。日常生活に普通に浸透している、ちょっとだけ未来のテクノロジーの見せ方がさりげなくて非常にうまいです。
生と死の境界について、めっちゃしゃべる人工知能。パッと見、ちょっと何言ってるのかわかりませんね。まあ、まだ僕じゃわからないか。この領域〈レベル〉の話は。
また団地やSF要素だけでなく、学校裏サイトとTwitterを合体させたような近未来ツールでハブったりハブられたりする子どものイヤな面や、主人公たちとそれぞれの親との関係、姉はいつもいじめてくるし嫌いなんだけど実はお姉ちゃん大好きな弟など、それぞれの人間関係が丁寧に描かれている点も作品に幅を持たせています。
「クラスの敵」やばいですね。ネーミングがそのまま過ぎる。でもシンプルな中に、パブリック・エネミーの学校版みたいなニュアンスがあり、そう考えるとダークヒーローみたいでちょっとかっこいい。中二病的に考えると、そいつ能力者ですね。「シャッフル・オブ・ザ・クラス内ヒエラルキー」とか使いそう。
後半では、親たちがまだ子どもだった頃(2010年)のエピソードも絡んできて、さらにエピローグではその後のことが少し描かれています。全2巻の中に「過去・現在・未来」の縦軸と、それぞれの人間関係という横軸がしっかり収まっており、その構成の見事さにもおどろかされます。
エピローグに関してはネタバレってほどではないのですが、一応詳細は省きます。でも、エピローグもいいんですよこれが。エピローグ大好き人間としてはかなり上位に入るエピローグでした。物語が終わっても、こいつらの人生は続いていたし、これからも続くんだな、っていうのが垣間見えるのでエピローグ大好きなんですが、それについてはまた別の機会に。
そいうわけで、夏と団地とジュブナイルと近未来SFがうまいこと2巻の中にまとまっていて、とても完成度が高く、かつワクワクする漫画なわけです。うまくまとまっているように思えないのは、僕の文章がまとまっていないからであり、本編とはなんら関係ありません。
すがすがしい読後感が、この夏の暑さを和らげてくれると思いますので、この機会に是非!学生さんであればもう夏休みでしょうし、ちょうどいいですね!
そうか......夏休みか......そういうのもあったな......。
俺たちの夏休みはこれからだ!(完)
(担当:長谷川)
『ぼくらのよあけ』通販ページはこちら
今井哲也先生の他の作品はこちらからどうぞ。
『ハックス』は今井先生の初連載作品。アニメ制作をする高校生たちと「才能」をめぐる青春漫画です。大学時代にアニ研に所属していた今井先生ならではの初期衝動が詰まっています。三山ァ!お前ってやつは本当に......。
『アリスと蔵六』は現在コミックリュウで連載中。不思議な力を持った少女たちと頑固で優しい蔵六じいさんが送るファンタジー漫画です。今井哲也の代名詞とも言える、抜け感のある背景とダイナミックな構図がさらに洗練されており、それだけでも一読の価値ありです。
中野店 長谷川
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