思春期女子限定無用能力発動漫画事件

 はい、どうもー。バーチャルのじゃロリ狐娘中野店おじさんのはせますでーす。のじゃのじゃ~。......世の中、世知辛い! あのぉ...本職が、本職が古本屋の店員なんですけどぉ......毎週ブックオフと古着屋巡りしてもお金にならない! あ、でも、ブックオフ巡りはちょっと意味ある!(本業的に)。そんな事よりも、はるかにぃ~、集英社新書コーナーとかで売れたワンピース補充したりぃ...あのぉ...レジ打ったりぃ...、ベテランの先輩とかに発注ミスを指摘されたりするのが、人生において、重要なことなのじゃぁ......。世の中、世知辛いのじゃ~~~!!!!

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 ということで今回ご紹介する漫画はこちら。

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『うちのクラスの女子がヤバい』衿沢世衣子/講談社/2016~18年/全3巻

 舞台はとある普通の高校の1年1組。みんな普通にそれなりに個性的でどうってことのない日常を過ごしています。クラスの女子全員が「無能力」といわれる思春期限定の超能力者だということ以外は......。作者の以前の作品『シンプルノットローファー』の共学&超能力版といった趣の今作。各話ごとにクローズアップされる「無能力者」の女子と、その能力を絡めたエピソードが基本的には1話完結で進んでいきます。

 超能力といっても、そこは名前のとおり割とどうでもいい、役に立たない能力ばかり。例えば1話の八麻利さんの能力は「心拍数が上がると人やモノが透けて見える」というもの。

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 考えようによってはこれはかなり怖い。下手したら引きこもり一直線ですが、そこは衿沢的思春期ワールド。同じホームルーム委員のぎっちゃん(男子の割には気がきく)の手助けもあり、男子達にも「無用力」を明かすことで、八麻利さんの負担を軽減します。でも男子はバカですから、パンツを新調してきたり、むしろ筋肉を見て欲しいやつもいたり、普通に見られるのが嫌なやつもいたり。

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 八麻利さんからしてみれば「男子は見られていることを知らないのに、筋肉繊維とかパンツとかを見てしまっている」という後ろめたさは消えたけど、今度はクラス中に自分の「無能力」を知られてしまい、ちょっと恥ずかしいといったところでしょうか。

   高校1年でクラスが決まって最初の頃は、知らない人ばかりでちょっとそわそわするというか、クラス全体の空気がぎこちないものです。特に男子と女子の間には、思春期特有の溝がありますね。そんな独特の緊張感のある空気が時間が経つにつれ、知らず知らずの間に段々と和らいでいき、そのクラス特有の空気になっていって、2学期にもなればそのクラス個々の色ができてきます。普通は「無能力」というきっかけはないにしろ、なにかの出来事や話題の元になるクラスメイトがいて、クラス全体(もしくは一部の集団)が何かを共有していくことで、そのクラスの雰囲気が作り上げられていく。みたいなことを思い出させてくれる1話でした。

 高校生だし思春期だし共学だし、恋愛要素もあるっちゃあるんですが、恋愛だけが思春期の醍醐味じゃないっしょ! みたいな感じで、恋愛だけが中心に思春期が進まないところがこの作品の魅力のひとつでもあります。衿沢ワールドでは、高校生でもあくまで「男子」と「女子」なんですね。小学生が節度だけ高めて、そのまま高校生になったみたいな世界観。リアリティがないと思いますか? でも、セックスでもスポ根でもオタクでもない高校生活があってもいいし、本当は誰にでもセックスでもスポ根でもオタクでもない高校生活の、もう記憶に残ってもいないような些細な、でも特別な瞬間ってあったと思うんですよね。そんなことを読んでて思いました。

 それでは次は、僕の大好きなリュウくんが登場する第4話「鱈橋くんの師走と新年」の話をしたいと思います。

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 この扉絵、何か有名な絵画のパロディな気がするけど思い出せない......。

 そうそう、各巻のカバー絵のパロディシリーズもいいですよね。1巻はドラクロワの有名なやつですね。Dragon Ash世代には「viva la revolution」のCDジャケットと言った方がピンとくるかも知れません。2巻(画像左下)も美術の教科書レベルで有名なのでわかると思うんですが(ボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」)、3巻(画像右下)は見たことある構図だなーくらいですかね。僕もググらないと題名でてこなかったです。「女官たち」っていうのか。なんかよくパロディにされてる構図な気がするけど具体的には思い出せない。

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 さて、こちらがリュウくんです。

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 そう。ご覧のとおり、女の子っぽいけど性別的には男子です。

 こっちがリュウと仲がいい鱈橋くん。

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 リュウと鱈橋くんはプロレス技を気軽に掛け合うくらい仲良しです。

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 鱈橋くんは禁止されている深夜バイトをしてお金を貯めてミニバイクを手に入れます。同じ男子寮に住んでいるリュウは、門限以降に帰ってくる鱈橋くんのために窓の鍵を開けてくれていたのでした。バイクの初乗りを楽しんで、自転車のリュウと駅前で落ち合おうとする鱈橋くんでしたが、いつまで待ってもリュウが来ません。すると夜空にミニバイクを運転する自分の残像を目撃します。

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 その頃リュウはというと、自転車でコケて頭をぶつけて気絶して病院に運ばれていました。幸い大事には至りませんでしたが、鱈橋くんは、さっきの自分の残像を見て、最近朝方に寮の上に何かが現れる謎現象(フグだったり、クロワッサンだったり、ビンゴカードだったり脈略がない)がリュウの「無能力」だと確信します。

 どうやら「無能力」は思春期限定ではあるものの生物学的な女子でなくても発動するタイプの能力のようです。自分に「無能力」があることで、体は男子ですが性自認的には女子であるリュウは自転車でウィリーかます喜びよう。かわいいですね。

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 逆に鱈橋くんは「無能力がある」≒女子という認識なのか、リュウに対する態度があからさまに変わります。急に自分の部屋を片付けだしたり、一緒に行くと約束していた初詣を反故にして、正月は実家に帰ると言い出します。

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 まあ、要するに今までは女子っぽいけどあくまで男として接してきたリュウの「無能力」が確定したことで、鱈橋的にどう接していいかわからず混乱しているんですね。

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 そして本当にバイクで実家に帰ってします鱈橋くん。ほんとに男子ってやつは......。バカなんだから......。

 1人で大晦日を過ごすことになったリュウはコンビニに年越し用のカップそばを買いに行きます。

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 ここ! ここはテストにでる激カキャワポイントです。上から二段目のコマで後ろからバイクが近づいてくる音がして、三段目の右側のコマで振り返りつつ、頬を赤らめて何かを期待するような表情のリュウ。しかし、その音の正体は年越しそばを配達するおじさんでした。最後はシャーと走り出すリュウのコマで終わり。要はバイクの音で一瞬「鱈橋かも?」と期待したわけですね、リュウは。もうこれ絶対鱈橋のこと好きなやつやん。と思いますよね。でも、その「好き」がLOVEなのかLIKEなのかFRIENDSHIPなのかはわかりません。というか、そんな「好き」の切り分けはこの際どうでもいいのです。重要なのは無意識に体が反応していることですね。もし、ベッタベタの少女漫画ならここのリュウが振り返るコマを大ゴマにして、背景に花でも咲かすとこです。そして「え......? 体が自然に期待してる...。こんなにもアイツのことが気になってるなんて......。私一体どうしちゃったのーーー???」みたいなモノローグをゴリゴリ入れるところですね。でも...でもでもでもぉ...、小さいコマでモノローグなしが正義。ブロロロ...(ハッ!!)、ビィーーーーー、シャーーーーー。の効果音だけで十分。このさり気なさがジャスティスですね。

   結局、筋トレとか掃除とか勉強とかプロレス技の練習とかをして、ひとり寮の自室で大晦日を過ごすリュウ。しばらくするといつの間にか寝てしまいます。そして新年早々、鱈橋にサソリ固めをキメる獅子舞リュウが空に浮かぶのでした。おしまい。

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 リュウが女子だとしたら態度が変わる鱈橋くんと、どんどん女子っぽくなっていくリュウの対比がおもしろいですね。鱈橋くんはリュウを男子として扱えばいいのか、女子として扱えばいいのかわからなくて混乱したわけですね。というか、「無能力」を持っていることが確定した時点で、鱈橋にとってリュウは「女子」のほうにパロメーターが傾いたわけですね。鱈橋の混乱はリュウが男なのか女なのかわからないことによる混乱ではなく、「女子」としてのリュウにどう接すればいいのかわからなくて生じる混乱なのではないでしょうか。  一方、リュウにとって自分が「無能力」を持っていることは、単純に嬉しい事実でしかなく、むしろなんで鱈橋が一緒に喜んでくれないのかわからん。くらいの認識ではないでしょうか。自分の感情に自覚がないのはもちろんリュウの方です。鱈橋はむしろがんばっている方だと思う。リュウは子供だから、ふてくされているわけです。深読み的に言えば、サソリ固めは鱈橋を懲らしめたいという気持ちも現れていますが、またプロレス技かけあって遊びたいという願望でもあり、獅子舞を被っている=顔が隠れている=本心を出していない自分という側面もありそうですね。そしてプロレスごっこは何のメタファーなのか。そういうところに目ざとい君たちは当然気づいていると思うので、今回の授業はここまでです。次回は『自分の父親が「バーチャルユーチューバーで食っていこうと思う」と言い出した時の娘(中3、好きなゲーム実況プレイヤーは「幕末志士」)の気持ちを考えよう』の回です。予習してくるように。

起立! 礼! 着席! 解散! オッスオッス!

~~おまけページ~~

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 これは1巻の最後のほうにあるおまけページなんですが、リュウも入学当初は髪が短かったんですね。それで段々長くなっていく。どことなく顔つきも柔らかく、女子っぽくなっていく。鱈橋もクラスのみんなも、いいやつというか、あんまりそういうことに関心がないのか、リュウの髪が長くても、女子っぽくても特別視しない環境が本編では最初から成り立っています(因みに1話時点で2学期から始まります。だから本当に他人行儀だったろう最初の頃は描かれていないんですね)。でもやっぱりリュウも最初は不安だったろうこと、少しづつ自分が出せてきたんだろうことが、この3コマに業種されていて最高ですね。さらに言えば、髪の長さからして半年くらい経過しているけど、ご飯を食べる動作をコマ送りのように繋げることで、一瞬の出来事のように見える演出もさりげなくていい。そして、なんで3コマ目でこっち見てちょっと照れてるんだよ......かわいいじゃねえか! ご飯おいしかったのかな? ねえねえ? ご飯おいしいね? よかったね? ヨシヨシ。みたいな感情になりますね。

 今回紹介したのは、内容的にはほぼ1巻のみですが、2巻では「無能力」を有効活用して使える「超能力」にしようという、謎の秘密結社「無用力有効活用隊、略してMYK隊!」(かっこいい)が登場。3巻ではお待ちかねの水着回や、リュウと鱈橋くんの関係の続編が! そしてこの作品のキーマンでもあるウィルコさんの無用力の正体が明かされる最終回まで、衿沢世衣子が描く濃密で脳天気な思春期ワールドが詰まっています。

『うちのクラスの女子がヤバい』はこちら

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その他、衿沢世衣子先生の作品はこちらからどうぞ

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 特におすすめなのは、無能力がなくても普通に個性的な女子高生の日常を淡々と描いた『シンプルノットローファー』です。夏、プール、白いシャツ、ローファーと続くラスト数ページは必見です。

中野店 長谷川

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