お見舞いについて語るとき我々の語ること

あけましておめでとうございます。大晦日に同僚と飲んでいて、その足で新井薬師に初詣に行ったのですが、ものすごく寒くてこのまま外にいたら死んでしまうのではないかという環境の中、「セブンイレブンでハーゲンダッツが20円引きだから」という理由で震えながらアイスを食べ始めた黒田さんを見て、新年一発目の「いったいやつは何をやっているんだ?」という気持ちになりました。中野店の長谷川です。

 外にいるだけで凍え死にそうな元日の午前3時にアイスを食べ始めた黒田さんに対して何もできなかった僕ですが、親しい人が不治の病に冒されたとき、その人の為に何ができるのかという問いに「笑い」で答えた作品が、今回ご紹介する『NKJK』(全2巻)です。

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『NKJK』吉沢緑時/双葉社/2016年


 多くの人は医者でもないので、できることは限られています。お見舞いに行って少しでも気持ちを明るくさせようとか、何か欲しいものを買って来てあげようとか。しかしどれだけ親しくとも、これから死ぬかもしれない人間と、以前と変わらない生活をしている人間とではまったく立場が違います。次第に以前と同じようなコミュニケーションは取れなくなっていき、どちらにとっても会うことが負担になっていく。そんな、ある意味避けようがなく、誰しもが遅かれ早かれ直面するであろう重病患者への「お見舞い」。
 この作品でも、不治の病を派手に発病した富士矢さんに対して、西宝さんはお見舞いには行くものの「私は、富士矢さんの力になれているのだろうか...」と不安になります。


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 そんな西宝さんに、富士矢さんのお母さんが「娘を笑わせて欲しい」という依頼が。人体には免疫力を高める「NK(ナチュラルキラー)細胞」というものがあり、それは笑うことで活性化されるというのです。この「NK細胞」、実在する細胞なんですね。ふざけた名前だから、最初は作者のオリジナルかと思っていましたが、検索したら本当に存在する細胞でした。


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 そんなわけで、「笑い」というものに明るくないお嬢様女子高生の西宝さんが、これまたお嬢様JKの富士矢さんを笑わせるためのミッションが始まります。お笑いのジャンルを細かく調べ、エクセルにしてタブレットで持ち歩く、まじめな西宝さん。


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 まずは基本中の基本であるおでんリアクション芸から始まり、たとえツッコミ、古典落語、日常にあったおもしろい話の紙芝居などなど。成果はというと、ド天然である西宝さんが狙った方向とは違うところで富士矢さんを笑わせることに成功したり、ネタの最中に寝られたり、ただキョトンとさせたり。


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 その間にも、やたら笑いと人生について造詣の深い長期入院中の榎本りんちゃん(10歳)という師匠ができたり、高校の同級生である甲斐さんと壇さんという協力者を得て、段々とやれることのバリエーションも増えていきます。


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上の画像が師匠こと榎本りんちゃん。下の画像の黒髪が甲斐さんで、金髪が壇さん。

 しかし、それでも富士矢さんの病状は進み、またとんでもない発作を起こしてしまいます......。


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 手術室の前で10歳とは思えないフォローをする師匠。


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 もう完全に「富士矢さん死んじゃったのかな?」みたいな雰囲気しかないですが、ところがどっこい一命は取り留めます。落ち込んでいた西宝さんも、「富士矢さんは西宝さんたちの登場を楽しみにしていたし、迷惑だなんて思っていない。むしろ『もっと来い!』と思っているはず」と甲斐さんに背中を押され、渾身の不謹慎ネタ(富士矢さんの葬式動画)を作ります。その動画を見た富士矢さんの表情がこちら。


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 このコマで1巻は終わりです。このあとどうなるのか。西宝さんの次のネタは何なのか、師匠は次はどんなアドバイスをするのか、そして富士矢さんの病状は......。先月発売の2巻で完結なので、そちらでご確認ください。ひとつだけ言えることがあるとすれば、師匠は2巻でも非常にかっこいいです。

 あらすじは大体こんな感じなんですが、なんかこの漫画ちょいちょいおかしいんですよね。一番気になるのは、回想シーンや容態が急変した時の富士矢さんの吐血の量が多く、やたらリアル寄りで死体みたいなところ。


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 ギャグ漫画であることと、難病モノの感動系であること、さらにはリアルな死という、なかなか相容れない要素を組み合わせようとしているから、読んでいて何か引っかかる部分を残すのかもしれません。まあそもそも、西宝さんは当然ちょっとおかしいとして、それを当たり前のように受け入れる富士矢さんもおかしいので、土台から普通ではないんですけどね。


(担当:長谷川)


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吉沢緑時先生のその他の作品はこちらからどうぞ
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中野店 長谷川

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