高校3年の頃、予備校にも行かず浪人前提でぼんやりしていた私が、一時期没頭したものがあった。声の低い白髪のおじいちゃん先生が教えていた倫理の授業だ。大昔の赤の他人が苦悩と混迷の末に生み出した、理路整然とした思考回路をなぞるのがとにかく面白かった。テストで97点を取って、何一つこれからの受験に役立たない結果を胸に、場違いな達成感と虚無感を噛みしめた覚えがある。
心を奪われた理由は一つ。周りが受験戦争で殺伐としていく中、倫理はとても静かだったのだ。
この漫画を読んだ時、その静寂を思い出した。
ここは今から倫理です。/雨瀬シオリ/集英社(既刊1巻)
お久しぶりですこんにちは。
クリスマスの夜に何をしていたかといえば、午前1時のガストで硬くなったアボガドをかじっていた中野店白石です。
こちらは11月末に1巻が出たばかり。年の瀬にふさわしく沈思黙考型コミックです。
はい。
このめちゃくちゃ訳アリそうで影背負いまくりの高柳先生と、
選択授業で倫理を選んだ生徒達
の間に生まれるエピソードが物語の中心。ビッチにヤンキー・優等生などなど、毎話ごとに各思想家の言葉を引用しながら関わりが築かれていきます。「大なり小なり問題を抱えた一人の生徒をクローズアップ→トラブル発生→先生が助ける」という、教師もののテンプレ通り(いわゆる金八先生的?)な構成なのですが、いかんせんこの暗澹たる雰囲気である。
初回の授業からこの飛ばしっぷりです。
高柳先生は誰に向けるでもなく常になんだか殺気立っています。......そういやこういう先生ってたまにいたよなー(そしてミステリアスとかいって女生徒に少しモテた気がする)。作中でも、教師という建前でギリギリ存在を維持する根暗な男、というイメージが強いかも知れません。
ではエピソードを一つご紹介。
愛煙家の高柳先生は、副流煙を理由にタバコを吸えるはずの社会科準備室を追い出されてしまいます。そのさなかで、生徒の谷口くんに性善説の話をするシーン。ちなみに谷口くんは、いじめられっこだった経験から「自分のような子を救える教師になりたい」と語るへこたれない系男子です。
※コマは抜粋・再構成してあります(画像ぼやけててスミマセン!!)
なるほど。
性善説って「そうとでも思わなけりゃやってらんない」感が大元にあるんじゃね?とか思ってたんですが、そもそもは『両極の価値を同一にする事で自分の価値観や正義感を偏らせないため』が本領なんですね。こんな感じで高柳先生は答えをバーンと言うタイプではなく、答えのないものに対して思考の幅をそっと広げるような言葉を掛けてきます。というかやはり先生の迫力が半端ない。
さて、作者・雨瀬シオリはアニメ化もしたラグビー漫画「ALL OUT!!」(講談社/既刊1~13巻)が有名です。
流行り廃りなどまったく意に介さない絵柄、人懐っこそうな顔で身体はガチムチという〝掴み〟で現在もマニアックな人気を博しています。ここで描かれるラグビーの泥臭さはある意味『アイシールド21』よりも遥かにむさくるしく、読んでるこっちが部屋の窓開けて換気したくなっちまうわというレベルのアツさなんです。
対してあまりにも対極をなす今作。泥臭さは背負う影の奥行きに、熱血や情熱は心の葛藤へと描き換えられていきます。「ALL OUT!!」の方でスピード感のある描写は手馴れているためか、倫理という題材ながら冗長にならず、演出の緩急はしっかりついています。 さらにそのラグビー部員達の影響なのか高柳先生、セーターの上からでも分かるムチムチの筋肉質。いやこれは単に趣味か。
ちなみに「なんか雨瀬さん教師マンガ合いそうだよね」という担当さんからの一言から始まった連載だそうですが、いやはや漫画編集者ってすごい。同時並行で倫理漫画って、こんな方向性もあったのかー、そしてこんな風に描けるのかーとびっくりしました。
それからこの本、あとがきがすごい。
連載初期に作者ご本人が遭遇したとある出来事について、倫理というものが持つ「切実さ」が語られます。このあとがきを知った上で読むとまた違った印象が出てきますよ。
まだ1巻しか出てないからあまり語れない!語らない!!ので、いいなと思ったコマを思わせぶりに貼って逃げます。
さあ今年も残すところあと三日、いよいよ年末です。コミケも忘年会も大掃除もいいけど、たまには超ローテンションな漫画を読んで大反省会はどうですか。
担当:白石
中野店 白石
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