バンドの人たちの生活。サライネス「セケンノハテマデ」

セケンノハテマデ/サライネス
2012-2016/講談社
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ゆるーいバンドものマンガです。
「メトロ6R4」という売れかけ若手バンドと、それに関わる面々の日常を。



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左から、基本朗らかちょっとアホで声の大きいVo,G、
偏屈で天才肌でバンド唯一話の通じるG、
元モデルのイケメンかつオカン系のBの3人が固定メンバー、
そしてベースの兄貴がサポートDrというのがいかにもリアルですね。
作者が6-70年代ジャズロックプログレ好きらしく、その影響を強く受けている設定のメトロ6R4は、言うならば"渋い"音楽をやっているテク重視の新進バンド。
ファッションサブカルの対象とするにもなんとも地味で、男ばかりで華やかさとは無縁で、いかにも「ミュージシャンズ・ミュージシャン」になりそうなグループなのです。そうするとやはりファンも手練れのオッサン音楽通が多くなりがちで、眉間にシワよってそう...。
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...と思いきや、サライネス漫画なのでまったく心配なく、まったり。
人の持っている余白部分の表現というか、可笑しみというか。
の人が一番輝く瞬間「以外」が微笑ましく描写されててます。
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誰しもが持つ生活者としての一面、いや言ってしまえば、町田康作品によく見られる、生まれ持った因業に縛られて疾走する態―というと振り切れ過ぎだけれども、もっともっとミクロでマヌケな性質(時間を守れない、高所恐怖症、小心者、ジャージしか着ない、煮詰まると蒸発する、、)の集合によって、彼らの性格とか、行動とか、行き先とか、生き方とか、ビジュアルとかが成り立っているのであるという可笑しみがある。
本業以外の瞬間にフォーカスを当てることで、逆に本業の「凄み」がなんーとなく伝わってくるのもカッコイイな、と。
 
この作品の惜しい所は全4巻という短さで終わってしまっていること。ああ!
過去のサライネス作品といえばデザイン会社を舞台にした日常コメディ「誰も寝てはならぬ」や大阪に住む3姉妹と弟のポンチな日常を描いた「大阪豆ゴハン」などがありますがどちらも短ページ連載なのに10巻越えの、連載期間も5年以上の、日常を描くにはそれなりの時間が必要なのよ!とでもいうよな傑作でした。この「セケンノハテマデ」の場合はどうも作品人気で、というよりも、作者の事情でやむなく...らしいです。もっとこの人たちの話を読みたかった。
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サライネスの絵って本当に独特だと思うんです。作画的大きな特徴としては、ロットリングで引いたゆるいデフォルメの人物と、トーンを一切使わず線のシャシャシャシャのみで濃淡が表現されていることが挙げられます。
僕がはじめてモーニング本誌で「誰も寝てもならぬ」を読んだとき、「な、なんじゃこの作品は、画面が白い!雑な絵だし話もあるのかないのか、笑い処もよくわからん...!」と思いました。でも気の抜け具合が妙に癖になるんです。ずっと読んでいると、もっと読んでいたくなる。
 
それにつけてもホント、主人公らの好む音楽の趣味がとにかくコアです。「ゴング」「ニュークリアス」「ブラッフォード」...ご存知でしょうか。僕は全然知りませんでした。
音楽も細分化されているので、畑違いの自分が全然知らないのもしょうがないかなー?と思いつつ、作中では主人公らが喫茶店に流れるBGMをたちどころに当ててくシーンがあり、そういう知識が息を吐くように出てくる人というのはやっぱ敵わんな~と思うのです。
音楽に限らないですが、両親が好きで一日中それが流れてるみたいな環境にあった人というのはスタートが早くて、中高生の頃にギターを抱えてバンドでオリジナル曲なんてやってるのは大体そんなヤツらだし、その延長線上で飯を食っていくのも多いんではと思います。
そしてこの作品の主人公たちは、赤坂の料亭の息子だったりそこそこイケメンだったりと、わりかし恵まれた環境も含めて自分の持ち物にあまり頓着せず、やりたいことをやってるゆるいマンガなんです。
あんまりコンプレックスとか負な感じがないのも特徴ですね。そう、サライネス先生はいい人なんだろうなぁと思うのが、キャラクターに嫌なヤツとかねばねばしたヤツが全然出てこない。誰かを貶す笑いではまったくない。ちょっと変でイイ(?)人たちの大阪弁混じりの掛け合いが可笑しくてイイです。
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そしてラリーに野球にもちろん音楽にと、今作でも作者の趣味嗜好が溢れ出さんばかり。バンド名の「メトロ6R4」もラリーカーからの名づけ。趣味が合う人はひたすら楽しいし、知らなくてもニコニコ楽しめる空気感です。
あとは新連載を気長にまつ感じですね。まってます!

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(中野店 朝日)

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