漫画家というのもいろいろあって、デッサン的な意味でただ絵が上手ければいいという商売でもないようですし、対象物によって得手不得手が強く出たりするのも面白いところですね。
例えば男性は上手くても女性が壊滅的な作家、人を描くよりメカ描写のが上手い作家、右向きの顔が極端に少ない作家などなど。
今日紹介するのは恐らく人を描くよりも猫の方が神がかって上手い作家による、猫漫画の極北たる逸品。
『私という猫~呼び声~』
イシデ電/2013/幻冬舎
〈注意!〉ネタバレあります。
当時じわりと話題になっていましたが、発売より数年経って知らない人も増えたかな?と、こういうタイミングで紹介するんですが、この作品は何がすごいって、一切の妥協なく残酷な所なんです。
どうも猫漫画というとだいたいペットエッセイだったり、だいたいカワイイ印象です。けれどこの作品はまったく異質でした。
まず導入部から幻想的で、
実在の猫についての記録なのか、猫に投影した語りなのかは判然としないのだけれど、とりあえず語り手は、「私という猫」ということ。こうやって作品世界に導かれる。
表紙にもなっている白黒模様の猫が「私」。年嵩の雌猫で、何度も出産を経験しつつ、この春もまた子供を産みたいなと考えている、という「私」。
野良猫仲間たちはそれぞれのスタンスで人間との距離感を計りつつ生きてます。ヒトの物を拾ったり盗むことはあっても、媚びて強請ることはしない。そんな野良暮らしの、「私」とその周辺の猫たち。
◎思いもよらずヒトと接近してしまった例その1
ヒトを恐れず自らヒトに近寄って行き食べたいものをGETするスタイルの(野良的には異端の)「ミーさん」。いつも上手くやっていたものの、猫を狙う変質者に襲われます。
すんでのところで「私」とその悪友「美しっぽ」たちの連携プレーにより難を逃れます。
が、身重だった「美しっぽ」は、この時受けた怪我が元で、赤子を残してのちに死にます。
◎思いもよらずヒトと接近してしまった例その2
あんなにヒトに近寄って、馬鹿だねえ、あたしゃこっちの奥にある餌をこっそり頂くよ→保健所に捕獲される。いくら叩いても引っ掻いても、鼻面から血が吹き出すほど体当たりをしても壁はびくともしない。
そして「私」はそのまま無理矢理連れ去られ、避妊手術を施されます。
「私 何をしくじった?
わからない
アタマのなかが
冷たくて固くて 石みたいだ
体も 石
もう 私 死んでいるのか」
「奥へ… 奥へ… つかまる…
…だいじょうぶだ… 死んでない… こわくない…」
決定的ななにかを失い、大きな空虚を抱えながら生きる「私」は、それでも「美しっぽ」の遺した赤子を育てる決意をします。
紹介はここまで。
2013年の夏、買ってそのまま近くの公園でこれを読み、ラストに近づくにつれて涙が止まらなかった。
「私」が誰であれ、描き手が限りなく透明になり、猫たちの世界の中に潜って潜って見えたものを「ヒトとして」原稿に転写したような、魂のこもった描線世界があります。これほど鬼気迫る生き様と死に様を猫漫画で目にするとは。
ヒトの近くで生きることを宿命づけられて、野良と言っても野生ではない隙間隙間に生きる生き方。生も死も淡々とただ有るものとして生きていく姿がある。
ちなみにこの作品には前日譚である単行本『私という猫』が存在しています。そちらも併せて読むと、ちょっとアタマがぐらぐらしてしばらく動く気がなくなるかもしれない。
端的に、めちゃくちゃ面白いのでおすすめです。
(担当:朝日)
『私という猫~呼び声~』
https://order.mandarake.co.jp/order/detailPage/item?itemCode=1030340375&ref=list
『私という猫』(前日譚)
https://order.mandarake.co.jp/order/detailPage/item?itemCode=1028871557&ref=list
その他著者作品
https://order.mandarake.co.jp/order/listPage/serchKeyWord?categoryCode=1101&keyword=%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%87%E9%9B%BB
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