当ブログでも度々登場していますが、松本剛作『ロッタレイン』が人気ですね。
松本剛先生といえば寡作で長編が少ないイメージのため、過去作を追おうとすれば単行本だけではすぐに飽き足らなくなってしまうことでしょう。
今回はその中の一つをご紹介。
『北京的夏』(講談社)
単行本発行が1993年。実に25年前です。もうそんな前か・・・。
原作は90年代に活躍したロックバンド"爆風スランプ"のドラマー、ファンキー末吉。
末吉氏は爆風在籍時に中国に渡って以降、現地でミュージシャンのプロデュースをしたりライブハウスを経営したり、果ては中国人女性を娶るという筋金入りの傾倒っぷりで、"亜州鼓王(Ajian drum king)"と呼ばれるまでになった人物。
このあたりの経緯については氏の著書に詳しいのですが、この経験を基に書かれたのがこの『北京的夏』。
主人公は日本でトップクラスの人気を誇る「SO-LONG」のドラマー、トオル。
ヒット曲を絶えずオファーされ続ける音楽ビジネスに嫌気が差し、所属事務所のはからいもあり海外で休養することになるのですが、ミュージシャン=欧米というステレオタイプを嫌い、当時日本人には観光出来なかった北朝鮮を目指すために経由地の北京へ渡ります。
そこで中国のロックを探し回りますが、音楽関連の店に行ってもロックのカセットテープ(当時はまだCDは主流じゃなかった・・・。)は皆無。街を見渡してもそれっぽいファッションの若者すら見当たらない。
中国では基本的ロックという音楽の存在が認められていなかったものの、少しずつロックが"地下"では奏でられ始めていた時代。まだ黎明期だったわけです。
そしてその努力の甲斐あってひょんなことからトオルは地元のアンダーグラウンドシーンで人気を博していた「黒豹(ヘイバオ)」というロックバンドのボーカル、緑(リュイ)という名の女性に出会います。
この「黒豹」は実在するバンドで、作中に登場する曲「Don't break my heart」も実際のオリジナル曲。
ちなみにこの漫画では緑がボーカルとなっていますが、当時実際のボーカルだった竇唯(ドウ・ウェイ)はファイナルファンタジーVIIIのテーマ曲「Eyes On Me」を歌ったフェイ・ウォンの元旦那さん。
黒豹の、技術的には拙く荒削りな演奏ながらも何かを感じ取った主人公は彼らと交流を深めていきます。
トオルは緑の歌に、前年に起きた天安門事件で亡くした恋人の存在が色濃く影響を及ぼしている事を知ります。
そして来たる6月4日、事件から一年を迎えるにあたりトオルは天安門でゲリラライブをやろうと決意。
この、当時の中国で余りに無謀なアイディアに黒豹メンバーは困惑するも、外国人含むチームを組んで逃走ルートなど綿密に計画を練っていく。
果たしてロックは人民に届くのか...?
中国の当時の国内情勢と、それに対するロック音楽のあり方。それがこの作品の主軸となっています。
"赤い布"で目隠しをして歌うパフォーマンスが有名な黒豹と双璧をなす中国ロックの父、崔健(ツイ・ジェン)始め、当時はそんな彼らの活躍を端緒に次々と地下からロックミュージシャンが登場し、一気に中国にロックが広まっていきます。当時は日本でもちょっとしたアジアンポップス(今のように韓流、華流などの用語もなく割と色んな国の音楽が半ば一括りで語られていた感じ)ブームで、これらの中国ロックのCDは日本版も発売されるほどの勢いがありました。
そしてすっかり商業化された中国ロックはやがて影をひそめ、日本では聞かれなくなってしまいました。作中の言葉を借りればこれもまた資本主義に毒されてしまった結果なのでありましょうか。皮肉にも冒頭でトオルが嘆いていたことが中国でも現実になってしまったようです。
実際に中国に移住して中国ロックと共に生きるファンキー末吉氏の心血が注ぎ込まれた渾身の作品。
続編も描かれているという事なのでとても楽しみ!
どーですか、お客さんッ!!
(担当 清水)
『北京的夏』通販はこちら!
その他松本剛作品はこちら!
中野店 清水
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