どうもこんにちは。
この冬はこたつに下半身を食われたのでもう働けない中野店白石です。
今まで読んだ中で好きな漫画というのはもちろん沢山あるんですが、再読率の高い漫画ってのはそう多くありません。今回は、その世界観に浸りたいがために各巻20回は繰り返し読んでいると思われるこちらをご紹介。
ハクメイとミコチ/樫木拓人/エンターブレイン/既刊6巻
そう!今アニメやってるやつです!!アニメ化決定から放映までのスパンが割と短かかったので、喜びのあまり踊る狂うヒマもありませんでした。毎週金曜は自分の定休日なので、ゆったり観れるのも嬉しい......。
まず軽く説明を。主人公は2人の女の子、活発な「ハクメイ」と料理&裁縫が上手な「ミコチ」。
彼女らは身長9cm、そこはいわゆる小人たちの世界なんです。ただ特徴的なのは、ヒト以外の動植物が現実世界と同じサイズだということ。草花は身長よりも高く大きく、クワガタは背中に乗せてもらえる友人です。建築物等や工業品は彼らの手で作られるので普通の縮尺なのですが、作中の端々に「この世界なり」のサイズ感が表現されているのが見どころの一つ。剣や魔法はないのに、洗濯掃除、炊事に買い物、仕事に遠出、すべての毎日は冒険の連続のように描かれます。
(ちなみにいつぞや読んだ作者のインタビューによるとハクメイは「薄明」、ミコチは「美東風」らしいですね。なんでもかなりの東方ファンらしく、そう言われればなるほど魔理沙と霊夢かもしれない。世界観も和風寄りで折衷感溢れる雰囲気が幻想郷と共通する部分があるかも。)
今回はそんな大好きな作品の中から、いいところがギュッと詰まった全5話の長編をご紹介します。今週はストーリー重視で語るんでネタバレ前提で最後までいきますよ!
コミックス3巻収録『長い一日』
主人公2人が友達の吟遊詩人・コンジュのコンサートのため、彼女の住む「蜂蜜館」を訪れた時の話です。「なんでもあり」をモットーにフリーダムな人々が吹き溜まり、迷宮の如き様相を呈する集合住宅の蜂蜜館。ハクメイたちはここで、コンジュたち新参者vs古参連中とのトラブルに巻き込まれます。
まずはこの蜂蜜館のデザインですよね。ファンタジーなダンジョンぽさとヨーロッパの城下町のような入り組み具合がたまらない。ハクメイとミコチの世界にはこうした階層構造がしばしば登場します。九龍城とかバラックとか、「生活する上でそうなっていった」カオスな建築が好きな人にはビシバシきますよ。アニメ第一話で出てきた港町アラビもその一つで、原作だとまた描き込み具合が凄まじいんです......。
さて両者の諍いの原因は、蜂蜜館の初代館主・ウカイを亡くしたことにあるよう。「死ぬまで楽しく生きる」ためにこの蜂蜜館をぶち上げた、富豪かつ享楽家の彼。
強烈な個性を持つランドマーク的人物を失ったことで、生前の彼を知る者とそうでない者との間で精神的な瓦解が起きているのです。コンジュはコンサート用の舞台を破壊されたうえ古参たちに誘拐され、血気盛んな住人同士によるやれ殴り込みだの阻止だののバタバタ劇に発展していきます。その中で、ハクメイとミコチが遭遇するのが二代目館主のヒガキ。
2人にそっとコンタクトを取り、蜂蜜館オリジナルの酒・ジュレップを飲んでもらいます。そして料理上手なミコチにこんな頼み事(画像は抜粋)。
騒乱を鎮めるため、かつてのウカイと同じように、ジュレップを作り上げたいというのです。新参vs古参によって地上で繰り広げられる派手な攻防戦と、ミコチとヒガキが地下でそっと進める魔法の酒・蜂蜜館ジュレップの復刻。このコントラストがなかなかドラマチック。
あと、
この!アーモンドの大きさ!我々にとっては一口に満たないナッツ、この世界だと鰹節削る箱みたいなやつで細かくする大きな種なんですね。それから、ミコチたちがジュレップのレシピを探してる時の好きなシーンがこちら。
一方行動派のハクメイは、地上と地下を行き来しながら第3の勢力に。古参サイドの暫定リーダー・旋毛丸(つむじまる)が、ハクメイの気骨を見込んで裏でそっと手を貸すのです。
ドタバタの中でミコチたちと古参が鉢合わせたり、喧々諤々の啖呵を切ったり、たびたび危うい雰囲気にはなります。が、なんだかんだで誰も大怪我とかはしないんですね。それもそのはず、蜂蜜館の住人にとって日常茶飯事のトラブルは参加型イベントのようなもの。真剣ながらどこかしらに茶番感があります。当初は一番いきり立っていた囚われの身のコンジュも、こんな感じに。
そんなこんなでドンパチやってるうちに、だんだん夜は更けていきます。
ではまたここで、良いサイズ感のシーンをご紹介。
バリケード突破の投擲兵器がマッシュルーム。この「モシッ」という攻撃力の低そうな擬音。
蜂蜜館の上空を掻っ切る突入方法が紙飛行機!(スケールが大きいのか小さいのか)
ストーリーは最終的に、コンジュを連れた古参の籠城作戦へ移ります。かと思いきや、それをよそにミコチたち新参者チームはその足元でにぎやかな炊き出しを開始。
これ、おいしそう過ぎて実際に作りました。塩味のミントソースはハードル高くて諦めたんですが、こないだ出たキャラブックにレシピ載ってましたよ!!あとさっき投げまくった武器用のマッシュルームがそのまま食材になっているのも微笑ましい。
そして篭城に飽きてきた古参たちの、このセリフである。
蜂蜜館の住人はみんなこんななのか。
ここにハクメイ&ヒガキがジュレップを完成させて到着します。結局古参側が空腹と酒飲みたさに負けて降参という顛末に。
そして私が今回この話を取り上げたのは、次のこのシーンがすごく好きだったからです。
在りし日のウカイを知る二人、ヒガキが旋毛丸にジュレップを渡すシーン。
完成した「復刻版・蜂蜜館ジュレップ」はとてもいい出来。でも違うんです。ヒガキが必死で再現を試みたその酒は、争いが収まるほど美味かったのではなく、それを"初代館主のウカイが持ってきたから"魔法のように皆に効いたというのです。この偉大な人物に対する「喪失が喪失のまま」なのがとても切なく、またそれに気付くまでの遠回りな過程が今回のエピソードだったわけです。ラストシーンは、若き日のヒガキとウカイによる回想で締まります。
キャラ達の立ち回りから攻防戦のワクワク感、話の運びからなにから本当に好きで、この5話分の『長い一日』だけマジで劇場版にしてくんねえかな.........とずーーーっと思っています。でかいスクリーンで蜂蜜館を観てみたい...。
ちなみにコミックだと話の前後に、蜂蜜館の住人に向けた規約を載せたコラムがあります。これがまたオシャレで憎いんですよ。また、今回キャラ紹介で使用したカラーイラストは先日発売した『ハクメイとミコチ ワールドガイド 足下の歩き方』から引用したもの。こちらもコミックを補完してあまりある情報量で、とても濃い内容です。あとカラーの描き下ろし量が半端ない。
さあ、言いたいことは全部言いました!『ハクメイとミコチ』における人物・建築・グルメ・縮尺の妙などなど魅力をぜんぶ詰め込みましたよ。大学の頃、サークルのとある先輩が「ますむらひろしのアタゴオルを読んだ時、なんで俺人間界なんかに生まれちまったんだろうと本気で思ってた」という名言を残しています。読むたびに何度でもそのセリフを思い出す作品です。
どうでしょう、身長9センチになりたくなったみなさん。アニメと一緒にぜひコミック版を読んでみてください。
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担当:白石
中野店 白石