「犬が麻雀を打つ漫画」だけじゃない本格復讐劇、沢本英二郎「無法者」

数年前、ネットで以下のような「犬が麻雀を打つ漫画」の画像がよく流れてきました。

20170810-01.JPG
 
【分かること】
・細かい点数計算が出来る犬。
・劇画調で内容は真面目なものらしい。
・あくまで犬なので喋れないため、「ガルル!(ツモ)」となる。
 
1枚の画像だけでこのインパクト。
作品は沢本英二郎「無法者」というらしい。掲載誌は'80~'90頃の「ガッツ麻雀」という雑誌らしい。
 
ところが、単行本になっておらず、掲載誌の「ガッツ麻雀」も読み捨てにされる娯楽誌の定め、集めている人とてなく幻の作品とされていました。
 
それが、2015年、とあるファンの人の執念が実って、全3巻の同人誌(セット売りのみ)として刊行されました。
(※2017年8月の夏コミで再版するとのこと。詳しくは以下のサイトにて

https://vhysd.booth.pm/items/95378
 
今回紹介するのは、そんな経緯で刊行された沢本英二郎「無法者」の紹介です。
 
20170810-02.jpg
 
話の基本的な筋は「仇討ち」モノになります。
主人公・飛竜鋭二はかつて同門の南山元司に、妻と義父を殺されます。
 
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かろうじて生き延びた飛竜、その事故に巻き込まれた犬の家族の生き残り・ジョーとともに、南山への仇討ちを誓うのでした。
 
一方、南山はその麻雀の実力を持って一大帝国を築き上げます。警視庁や政治家へも影響力を持つ、まさにヤクザの親分のようになった南山。
飛竜はその南山を、暴力ではなく、あくまで麻雀の実力によって敗北を味わわせようとします。
 
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心からの屈辱を刻み付けて、相手の敗北感をもって仇討ちとするわけです。
一方の南山も、かつての同門でその実力を認める飛竜を、敗北の屈辱の底に沈めたいと考えます。
 
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ここに、麻雀と仇討ち、というふたつの要素が絶妙にリンクして麻雀での仇討ちモノという物語の本筋が現れます。
 
そして、話に独特の味を追加したのが、話題の「麻雀を打つ犬」ジョーの存在です。
最初は、あくまで麻雀を理解する犬、という存在でした。
おそらくは元から最強設定だった主人公の成長を示すため、人知を超えた力の象徴的なものだったと思われます。
 
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しかし、物語中盤、打つメンバーが足りなくなったところ唐突にジョーが卓についてしまうのです!
 
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ここから物語は大きく転調します。
 
南山が己の野望の総仕上げとして、麻雀日本一を決める大会、優勝賞金1億円の「麻雀ペア戦」を開催する。
 

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一方で、飛竜には己の配下(南山五人衆!)を差し向けて(麻雀で)潰すように仕向けます。
 
一匹狼の飛竜にはペア戦には参加する機会すら得られないはずであった......だが、飛竜には相棒のジョーがいたのだ!
 
20170810-10.jpg
 
しかも、数々の戦いの末、飛竜にはジョー以外にも同じ無法者(アウトロー)同士で実力を認め合う仲間とも呼べる者たちもいたのだ。
そうした数々の助けの元、飛竜はついに麻雀ペア戦にて南山の喉元に迫る......!
 
下手をすれば「一個人による復讐劇」として短編で終わってもおかしくない本筋に、しっかりとした肉付けがされ、骨太で長大な物語になった「無法者」。単なる麻雀漫画や「犬が麻雀を打つ」というネタ的な側面を超えて、幅広くオススメしたい作品となっています。
 
ちなみに。
「犬が麻雀を打つ」以外の各種設定も秀逸。いくつかピックアップしてみましょう。
 
たとえば、ラスボス・南山の強さを示す1エピソード。
 
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「俺がもう少し頭が悪かったら囲碁か将棋の世界に入ってただろうよ」
そしてこの後、囲碁・将棋の最高峰を連破します。
人知の及ぶところには既に彼にとっての勝負の場はない。麻雀は人知では計り知れない領域での勝負なのです。
 
敵役の数々も個性的です。
南山五人衆の一人、アメフトのQBでも活躍する剣星喬一。
 
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アメフトの走力と麻雀の強さとの関係がまったく分からない1エピソード。
 
超能力者・白神勉。
 
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「ふふ......トリックはないぜ!!」
超能力だからね!
 
ところで。
そんな「無法者」が載っていた麻雀劇画雑誌「ガッツ麻雀」。前述したように読み捨てにされる定めの娯楽誌であり、驚くほど現存数が少ないのですが、この度オークション目録「まんだらけZENBU」82号(2017年8月10日発売)にて出品します。
 
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「ガッツ麻雀」だけでなく、その前身の「アサヒ芸能増刊」「ギャンブル劇画」から、その2誌が合併した隔週の「劇画theTown」に、月刊化した「漫画タウン」まで(「漫画タウン」が最終的に誌名変更して「ガッツ麻雀」になります)。
残念ながら全揃いではないですが、ここまでまとまった数の出品はまず無いことだと思います。
 
今よりはるかに麻雀がブームだった時代の麻雀劇画。興味がある方は是非覗いてみてください。
「まんだらけZENBU」のオークションページはこちらから。
 
おまけ:
「ガッツ麻雀」絡みのブログも過去に書いています。
そちらもよろしければご覧ください。

↓ 「漫画タウン」にて連載、「真・麻雀伝説 風の雀吾」の紹介
麻雀漫画をオススメしてみる 第4回 みやぞえ郁雄・志村裕次「真・麻雀伝説 風の雀吾」

↓ 「ギャンブル劇画」最終号で連載開始(!?) 「噫!麻雀創世鬼」の紹介
灘麻太郎原作の忘れられた麻雀漫画「噫!麻雀創世鬼」

 

「無法者」の通販ページはコチラ

グランドカオス 山本

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